【インタビュー前編】アーチ・エコー、最新EP『ストーリー・ワン』のプログレッシヴでテクニカルな世界

Arch Echo / courtesy of P-Vine Records

新世代テクニカル・インストゥルメンタル・バンド、アーチ・エコーが最新EP『ストーリー・ワン』を2020年10月に発表した。

セカンド・アルバム『ユー・ウォント・ビリーヴ・ホワット・ハプンズ・ネクスト!』を引っ提げて2019年11月、初来日公演を行った彼ら。バークリー音楽大学出身のメンバーを中心にして構築された音楽性は、さらにプログレッシヴでスリリング、そしてエモーショナルなものへと進化を遂げている。また同時に、2017年のファースト・アルバム『アーチ・エコー』が日本初発売されるなど、彼らは新時代のヴィルチュオーソ(名手)として目を離せない存在だ。

キーボード奏者のジョーイ・イッゾが語る全2回のインタビュー。まず前編では、『ストーリー・ワン』の世界観を語ってもらおう。

<炎に包まれた状態で最後まで突っ走るEP>

●今はどんな生活をしていますか?

家に引きこもって、オンラインで仕事をしているよ。アーチ・エコー以外にもSkypeでレッスンをしたり、YouTubeチャンネル用のキーボード・セッションとか...元々在宅の仕事が多いし、変わらない日常を過ごしている。テレビ用のちょっとしたジングルを書いたり、Ten Second SongsというYouTubeチャンネルでキーボードのパートを弾いている。もう6、7ヶ月やっていて、楽しんでいるプロジェクトだよ(https://www.youtube.com/user/TenSecondSongs)。

●テレビ用のジングルはどれぐらい前からやっていますか?我々が聴いて「あっ、ジョーイ・イッゾの曲だ!」と気付いたりするでしょうか?

いや、たぶんそれはないと思うよ(笑)。書いた本人にしか判らないだろうね。数年前にTBSやNBC向けに提供した曲が今でもたまに使われたりして、驚くことがある。『America's Greatest Makers』という番組のために書いたんだけど、売り切り契約だったからテレビ局で音源がストックされて、いろんな番組で使われているんだ。

●今年(2020年)1月から2月にかけてペリフェリーとプリーニと北米ツアーを行いましたが、最後まで完遂出来ましたか?

うん、幸運だったんだ。ツアーの全公演を出来たし、新型コロナウィルスによるダメージはなかった。もしツアーが1ヶ月ズレていたら、多くの日程がキャンセルになっていたし、売れ残りのTシャツの中に埋もれていた筈だ。元々ペリフェリーとのツアーが終わったら、EP『ストーリー・ワン』の制作に入ることが決まっていた。ただ、友人や知人のバンドが大打撃を受けたのを知っているし、喜んではいられないけどね。

●ペリフェリーは現代のプログレッシヴ・メタルを代表するバンドのひとつといわれていますが、彼らの音楽をどのように捉えていますか?

ペリフェリーは最高だよ。2012年に初めて彼らの音楽を聴いたんだ。そのD.I.Y.的なアプローチは素晴らしいと思った。高価なスタジオを使わなくても、音楽のセンスさえあれば自宅のベッドルームで最高のアルバムを作れることを、彼らは証明したんだ。現代のプログレッシヴ・メタルと呼ばれる音楽において、多大な影響を残しているし、俺は彼らのファンだ。一緒にツアー出来て、毎晩のようにステージの袖から彼らのショーを見ていたよ。

●ペリフェリーとの北米ツアーの前、2019年11月には初のジャパン・ツアーを行いましたが、その感想を教えて下さい。

控えめに言って、夢のような経験だった!日本を訪れるのは初めてで、東京の会場(渋谷duo music exchange)はアーチ・エコーとしてやった最大のヘッドライン・ショーだったんだ。俺たちは2017年からライヴをやってきたけど、オープニング・アクトのことが多いし、日本についてまったく予備知識がなかった。どんな反応があるか想像も出来なかったんだ。日本のお客さんが俺たちの曲に熱い声援を送ってくれて、アーチ・エコーをやってきて正しかったことが証明されたよ。あまりに嬉しくて、バンドのレパートリーの大半をプレイした。やらなかったのは3曲ぐらいじゃないかな(笑)。「アイリス」はプレイしなかったけど、これまでライヴでやったことがない曲だし、リハーサルしていなかったんだ。サポート・アクトのジャッキー・ヴィンセントとも友達になったし、本当に楽しかったよ。早くまた日本に戻りたいね。

●ニューEP『ストーリー・ワン』はペリフェリーとのツアーの後に作り始めたそうですが、当初からフルレンス・アルバムでなくEPにするつもりだったのですか?

うん、かなり初期段階からEPにしようと話し合っていた。4曲で完結する作品にしたかったんだ(日本盤CDはボーナス曲を追加した全5曲)。フルレンス・アルバムというのは作るのも聴くのも根気が必要だからね。最初の80%では気合いが入っていても、最後の20%でガス欠になったりする。「さあ、もう少しだ。頑張れ」と自分を叱咤しながら作るんだ。もちろん、そんな作業も楽しいけど、EPだと炎に包まれた状態で最後まで突っ走ることが出来るんだ。

●『ストーリー・ワン』の曲は、いつ書いたのですか?

「レオネッサ」「ストラット」はツアー中に書いたデモが基になっている。初めて行く場所というのは、インスピレーションをかき立てるんだ。「レオネッサ」のテーマを書いたのはプラハだった。思いもしなかったメロディやリズムが浮かんでくるんだ。「ストラット」はツアー・バスで俺が録ったループを発展させた曲だった。「トゥ・ザ・ムーン」はペリフェリーとの北米ツアーの直後、アダム・ベントレー(ギター)と俺で書いたんだ。彼のギターのプラグインのサウンドがインスピレーションとなった。「メジャー・オブ・ア・ライフ」はアダム・ベントレー、ジョー(カルデローン/ベース)、リッチー(マルティネス/ドラムス)がベーシックな部分をナッシュヴィルで書いて、それをレイクプラシッドにいるアダム・ラフォウィッツ(ギター)と俺に送ってきて、いろんなパーツを加えていったんだ。5人全員で書いた曲だし、とても満足しているよ。

●『ストーリー・ワン』のレコーディングはバンド全員が集まって書いていったのですか?

基本的にはバラバラで、トラックを送りあってレコーディングした。ドラム・トラックはテキサス州オースティンにある“マシーン・ショップ”というスタジオで録ったんだ。ラム・オブ・ゴッドなどを手がけたマシーンが運営するスタジオだよ。スタジオのメイン・エンジニアをやっているジュリアン・ガルジーロが俺たちのバークリー時代の友人だったんだ。今年6月、一瞬だけアメリカ国内の移動を出来た時期があった。そのときテキサスへのフライトを確保したんだ。スタジオ・ルームが広くて、ドラム・サウンドを録るのに最適だった。マシーンは俺たちの音楽性をすごく気に入ってくれたよ。それでドラムスのレコーディングと、バンドでの配信ストリーミング・ライヴをやったんだ。それから1週間後には移動が制限されたから、こちらもギリギリのタイミングだった。もしスケジュールが1週間ズレていたら、このEPを予定どおり発売することは不可能だった。

●今後もフルレンス・アルバムというフォーマットは続けていくでしょうか?近年ヒップホップやEDMは曲単位でネットで発表していくアーティストも多いですが...。

俺たちは常にバンドの可能性を模索しているんだ。プログレッシヴ・ロックのファンはコンセプト・アルバムを求めるし、ポリフィアみたいなバンドのファンはシングルが好きだ。アーチ・エコーはその中間地点にあるバンドじゃないかと考えている。俺自身はアルバムという単位が好きなんだけどね。起承転結のある作品は作っていてやりがいがある。いつか2枚組アルバムにも挑戦してみたいと考えているよ。その一方でEPも楽しんでいるんだ。今回の作品を『ストーリー・ワン』としたのも、今後『ストーリー・トゥー』などを作ることを視野に入れているからだ。アルバムとアルバムの間に、インターヴァルとしてEPを挟んでいくのも良いと思う。おそらく次の作品はフルレンス作になるよ。既に3枚目のアルバムに向けてアイディアをまとめているところなんだ。ツアーを出来ない現状、何もせずにいるのは時間の無駄だからね。

Arch Echo『Story I』ジャケット/P-Vine Records 現在発売中
Arch Echo『Story I』ジャケット/P-Vine Records 現在発売中

<ラッシュはプログレッシヴ・ロック・バンドとして理想的な存在だった>

●アーチ・エコーは2016年に結成したそうですが、これまで大規模なツアーはどれぐらい行ってきたのですか?

北米は結成してから間もなく小規模なツアーをやって、2019年に大規模なツアーをトニー・マカパインとやった。そのときは何故か西海岸ではあまりショーをやらなかったんだ。だから今年初めのペリフェリーとのツアーで西海岸の都市でプレイ出来て嬉しかったよ。2018年にはプリーニとのヨーロッパ・ツアー、2019年には日本でもツアーをした。南米やオーストラリアでもツアーをやりたいけど、それは新型コロナウィルスが一段落してからだろうね。バンドを結成して4年、アーチ・エコーは休みなく動き続けてきた。

●21世紀に入ってデビューしたペリフェリー、1980年代から活躍するシュレッド・ギタリストのトニー・マカパインと、かなりの世代間のギャップがありますが、アーチ・エコーはどちらに帰属意識がありますか?

それは難しい質問だね。ペリフェリーもトニー・マカパインも最高だし、学ぶことが多い。どちらか片方とだけ付き合おうとは考えていないよ。アーチ・エコーの音楽は幅広い世代にアピールする要素があると思う。俺の父親はドリーム・シアターの大ファンだし、よくCDを買っている。アーチ・エコーのライヴでも物販でCDがよく売れるよ。若い世代はストリーミングやYouTubeで俺たちの音楽を聴くんだ。どちらの世代にも共通しているのは、新しいものを発見しようとする意思を持っていることだ。音楽に対して貪欲な姿勢を持っているんだよ。アーチ・エコーには両方の世代にアピールする要素がある。モダンなプロダクションを志向しているけどシュレッド的な要素もあるんだ。

●日本盤ボーナス・トラックとしてラッシュの「YYZ」をカヴァーしていて、あなたのSkype個人アカウントの写真も『西暦2112年』(1976)だったりしますが、彼らへの思い入れを教えて下さい。

俺とジョーにとって、ラッシュは特別な存在なんだ。世界で一番好きなバンドだよ。ジョーはゲディ・リーのサイン会に行ったことがあるほどの大ファンだ。初めて彼らのライヴを見たのは2008年で、それから4、5回見ている。彼らの音楽が最高なのはもちろんだけど、3人それぞれが凄腕のプレイヤーであり、アーティストとしての尊厳を保ち続けてきた。『西暦2112年』は妥協のカケラもない作品だ。当時のレコード会社は、20分の組曲を収録することを商業的自殺だと主張したらしいけど、誰が正しかったかは、歴史が証明しているよね。彼らの取り上げた題材は通常のロックンロールよりもはるかに知的なものだった。

●今年(2020年)1月7日にラッシュのドラマー、ニール・パートが亡くなってしまいましたね。

うん、とても悲しいよ。ニールが亡くなる前から「YYZ」をカヴァーすることは決めていたんだ。ラッシュは妥協することなく常に成功を収めてきた、プログレッシヴ・ロック・バンドとして理想的な存在だった。アーチ・エコーは彼らほど大きな成功は収められないかも知れないけど、同じぐらい妥協はしないつもりだ。

●『ストーリー・ワン』というタイトルには、どんな意味が込められていますか?

アーチ・エコーの音楽はインストゥルメンタルだけど、作品ごとにストーリーがある。それは具体的な物語でなく、心理的な旅路だったりするんだ。「トゥ・ザ・ムーン」から物語が始まって、聴く人を導いていく。曲ごとに異なったエモーションが描かれているんだ。

●『ストーリー・ワン』と同時に、2017年のファースト・アルバム『アーチ・エコー』が日本で初発売されることになりましたが、このアルバムについても教えて下さい。

Arch Echo『Arch Echo』ジャケット/P-Vine Records 現在発売中
Arch Echo『Arch Echo』ジャケット/P-Vine Records 現在発売中

俺たちはそれぞれ別のバンドやプロジェクトをやってきたし、バークリーで音楽を学んだメンバーもいた。『アーチ・エコー』はそれまでの努力と修練、学んできたことの集大成だったんだ。すべてがセルフ・プロデュースで、「これが俺のやりたかったことだ。俺の頭の中で鳴っていた音だ」と胸を張れるものだった。ドラムスも自分たちでレコーディングしたし、ミックスはアダム・ベントレーによるものだった。俺たちが自分たちの力でアルバムを作れることを証明したアルバムだったんだ。聴いた人たちは「すごく良かった!楽しかった」と言ってくれたし、これ以上は望めないほどのスタートだったよ。

後編記事ではアーチ・エコーの原点をさらに掘り下げ、またバンドの向かう先についてジョーイに語ってもらおう。

【最新タイトル】

『ストーリー・ワン』

P-VINE RECORDS PCD-18045

『アーチ・エコー』

P-VINE RECORDS PCD-24988

2017年発売のファースト・アルバム日本初発売

『ユー・ウォント・ビリーヴ・ホワット・ハプンズ・ネクスト!』

P-VINE RECORDS PCD-24858

2019年発売のセカンド・アルバム

http://p-vine.jp/music/pcd-24858

【アーティスト日本公式サイト】

http://p-vine.jp/artists/arch-echo