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【インタビュー前編】アンディ・パウエル(ウィッシュボーン・アッシュ)、フリートウッド・マックを語る

山崎智之音楽ライター
Andy Powell / courtesy of Wishbone Ash

フリートウッド・マックの初期、1968年&1970年の未発表音源を集めた3枚組CD『ビフォー・ザ・ビギニング 1968-1970 〜ライヴ&デモ・セッションズ〜』がリリースされた。

“グリーン・ゴッド=緑神”と呼ばれたギタリスト、ピーター・グリーンによって結成され、1960年代後半のイギリスにおいてブリティッシュ・ブルース・ブームを巻き起こしたフリートウッド・マックだが、これまで公式では聴くことの出来なかった生々しい演奏がたっぷり収められている。

今回、アルバム発売を記念してインタビューに応じてくれたのは、ウィッシュボーン・アッシュのギタリストであるアンディ・パウエルだ。半世紀におよぶ軌跡を誇り、2019年3月には名盤『百眼の巨人アーガス』(1972)完全再現を含む来日ライヴも行っている英国ロックの重鎮だが、アンディは初期フリートウッド・マックを“生”で体験した歴史の証人でもある。

全2回となるインタビュー記事の前編で、彼は熱気を帯びた口調で当時を振り返ってくれた。

<ステージによじ登って、ピーターにしがみついたんだ>

●日本で行った『百眼の巨人アーガス』完全再現ライヴの感想を教えて下さい。

Andy Powell / courtesy of Wishbone Ash
Andy Powell / courtesy of Wishbone Ash

素晴らしいエクスペリエンスだったよ。バンドもお客さんも盛り上がって、楽しいショーだった。残念ながら、あまり頻繁に日本に行くことは出来ない。本当は毎年でも行きたいんだけどね。だから日本のファンにスペシャルなショーを見せたかったんだ。『百眼の巨人アーガス』は我々にとって代表作といえるアルバムだし、きっと喜んでもらえると思ったんだよ。

●ウィッシュボーン・アッシュは2020年2月にニュー・アルバム『Coat Of Arms』を発表予定で、既に海外のライヴで新曲「We Stand As One」を演奏していますが、どんなアルバムになるでしょうか?

既に完成していて、ドイツのSPVレコーズから発売となるんだ。70分以上の大作で、すごくエキサイティングな仕上がりだよ。先行シングルとなる「We Stand As One」はアマゾンやインドネシアの森林火災、そして環境破壊に対するメッセージ・ソングなんだ。私たちは決してポリティカルなバンドではないけど、この問題は地球上の誰もが関わることだし、あっという間に曲と歌詞を書き上げてしまった。ミュージック・ビデオも作って、よりコンセプトを明確にするつもりだ。

●さて、フリートウッド・マックの『ビフォー・ザ・ビギニング1968-1970〜ライヴ&デモ・セッションズ』を聴いた感想はどんなものでしたか?

ピーター・グリーンが史上最高のギタリストの1人であるという思いを新たにするのと同時に、ジェレミー・スペンサーとダニー・カーワンの素晴らしい才能を再確認したね。彼らのギター・プレイを聴いて、ああなりたいと練習した十代の頃を思い出したよ。

●初めてピーター・グリーンのギターを聴いたのはいつのことですか?

彼がフリートウッド・マックを結成する少し前、1967年のことだった。彼はエリック・クラプトンの後任として、ジョン・メイオールズ・ブルースブレイカーズに加入したんだ。アルバム『ハード・ロード』(1967)で大きなインパクトがあったのが、「ザ・スーパーナチュラル」というインストゥルメンタルだった。フィードバックのエモーションと美しさに、「自分もこういう風に弾きたい!」と感銘を受けたのを、50年以上経つ今日でも鮮明に覚えているよ。速いフレーズはなくて、1音1音がハートに染み入ってきたんだ。

●フリートウッド・マックのライヴを初めて見たのはいつ、どこですか?

彼らの最初のショー、“ウィンザー・ジャズ&ブルース・フェスティバル”だよ(1967年8月13日)。私は17歳だった。ピーターには“モジョ”があった。信じられないブルースのエネルギーと感情が漲っていたんだ。彼のトーンからは多大なインスピレーションを得たよ。当時まだフリートウッド・マックのファースト・アルバムは出ていなかったんだ。それでもこのバンドにとてつもなくスペシャルなものがあることが伝わってきた。私は最前列でピーターのギターに聴き惚れていたよ。ショーが終わったとき、ステージによじ登って、ピーターにしがみついて「アンコールをやって下さい!」と叫んだんだ。もちろん次の瞬間に警備員に引き摺り下ろされたけどね(苦笑)。ピーターは私に対して怒ったりせず、若僧が叫ぶのをニコニコしながら見ていた。彼のギター・プレイもまさにそんな感じだったんだ。優美で洗練されていたね。

●“ウィンザー・フェス”は現在の“レディング/リーズ・フェス”の前身といえる伝統のフェスですね。

うん、“ウィンザー・フェス”は最高だった。毎年、音楽ファンとして参加していたよ。フリートウッド・マックがデビューした前年(1966年)の“ウィンザー”ではクリームの初ライヴがあったんだ。本当に衝撃だったね。それ以外にもあらゆるバンドを見たよ。クレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウン、ジェフ・ベック・グループ...その後、ウィッシュボーン・アッシュを結成してから、バス(Bath)でフリートウッド・マックの前座をやったんだ。“アクア・スーリス・インシデント”という小規模のフェスだった(1970年5月23日)。その時はプロのミュージシャンとしてピーターのプレイを見ることが出来た。残念ながらピーターと会話することは出来なかったけどね。彼は年上だったし、私は20歳そこそこのシャイな若僧で、手の届かない存在だった。憧れのギタリストに会ってしまうと夢が壊れてしまうかも知れない...という不安があったことも確かだ。このショーの直後、ピーターはバンドを脱退してしまったんだ。もっとライヴを見たかったんだけどね。彼らのレコードは今でも聴いているよ。

Fleetwood Mac『Before The Beginning 1968-1970』ジャケット/courtesy of Sony Music
Fleetwood Mac『Before The Beginning 1968-1970』ジャケット/courtesy of Sony Music

<ウィッシュボーン・アッシュのツイン・ギターのヒントになった>

●ピーターのプレイから、どのように影響を受けましたか?

無駄な音を弾かず、1音ごとに意味を持たせること。さらに1音ごとの間の“隙間”も同じぐらい重要だ。ギタリストというのは、必要以上に弾きたがる人種なんだ。自信がないから、弾かずにいられないのかも知れない。ピーターは常にハートのすべてをギターに込めることを教えてくれたよ。彼のタッチやトーンは真似することが出来ない。でも、その代わりに“自分らしく”弾くことを学んだんだ。もし私がピーターらしく弾くことが出来たら、彼のコピーで終わってしまう。それが出来なかったから、自分らしく弾くしかなかったんだ。それは自分のスタイルを確立させるのに役立ったよ。

●彼のサウンドからは影響を受けましたか?

もちろん!おそらくフリートウッド・マックは“オレンジ”のアンプを本格的に使用した最初のバンドのひとつだった。それが彼らのブルージーでありながら洗練されたサウンドに貢献していたんだ。“オレンジ”を世界に知らしめた3大アーティストを挙げるとしたら、フリートウッド・マック、スティーヴィ・ワンダー、そしてウィッシュボーン・アッシュじゃないかな。私たちは1970年代に一度、セントルイスで機材が盗難に遭って、すべて買い直さねばならなかったよ。

●フリートウッド・マックのツイン〜トリプル・ギター編成は、ウィッシュボーン・アッシュのツイン・ギター・ハーモニーにどう影響を与えたでしょうか?

それまでのロック・バンドはギタリストが2人いても、片方がリードで片方がリズムを弾く担当になっていた。ウィッシュボーン・アッシュは2人がリードで、ハーモニーを弾くというのが新しかったんだ。そのヒントになったのがフリートウッド・マックだった。ピーターとジェレミー・スペンサー、ダニー・カーワンはハーモニーこそ弾かなかったけど、3人ともリード担当だった。ウィッシュボーン・アッシュがツイン・リードを確立させたことで、シン・リジィやスコーピオンズがそれを踏襲したんだよ。

●ジェレミー・スペンサーとダニー・カーワンについては、どのように評価しますか?

ジェレミー・スペンサーはバンドで2つの役割を果たしていた。1950年代風ロックンロール担当と、エルモア・ジェイムズばりのスライド・ギター担当だ。190cmのミック・フリートウッドと150cmぐらいのジェレミーが同じステージにいるコントラストが面白かったね。彼はステージでジョークを言ったり、コメディ担当だったのと同時に、反逆者っぽい、ある意味パンクなキャラだったよ。ダニー・カーワンは後になってからバンドに加入したけど、彼もピーターとのコンビネーションが素晴らしかった。どちらも溢れんばかりのソウルがあったけど、元ブルースブレイカーズのピーターと若手のダニーという師弟関係が対照的だった。そんな3人のギタリスト陣に加えて、ミック・フリートウッドのドラムスとジョン・マクヴィーのベースは、イギリスで最高のリズム・セクションだった。シャッフルをプレイするのは難しいけど、彼らは難なくこなしていたよ。ウィッシュボーン・アッシュの音楽性はピュアなブルースではなかったけど、彼らの演奏から学ぶことが多かった。

後編記事ではアンディのブリティッシュ・ブルースへの想いをさらに掘り下げながら、受け継がれていくその遺産についての考察を訊く。

【アルバム紹介】

フリートウッド・マック

『ビフォー・ザ・ビギニング 1968-1970 〜ライヴ&デモ・セッションズ〜』

ソニーミュージック SICP-6118 ~ SICP-6120

現在発売中

https://www.sonymusic.co.jp/artist/FleetwoodMac/discography/SICP-6118

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https://jp.yamaha.com/sp/myujin/29880.html

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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