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【インタビュー前編】新世代テクニカル・ギタリスト、ジャッキー・ヴィンセントが2019年11月に来日

山崎智之音楽ライター

2019年11月、アーチ・エコーとジャッキー・ヴィンセントのダブル・ヘッドライナー来日公演が行われる。

プログレッシヴ・メタル/ジャズ/フュージョンをクロスオーヴァーさせた超技巧派集団アーチ・エコーと新世代シュレッド・ギターの旗手ジャッキー・ヴィンセントのステージは、凄まじいテクニックの応酬となるだろう。

ジャッキー・ヴィンセントは自ら率いるバンド、クライ・ヴェノムの一員として“ラウド・パーク17”への出演経験があるギタリストだ。 今回、ソロとしての来日を果たす彼は全2回となるインタビューの前編で、日本公演の抱負と、ギタリストとしての原点について語ってくれた。

<ラウド・パーク17は“人生の勝利”といえる瞬間だった>

●英国ポーツマスに生まれて、現在は米国ラスヴェガス在住だそうですが、ラスヴェガスでの生活はいかがですか?

ラスヴェガスは最高だよ。都市部は賑やかだけど、静かな生活を送ることが出来る。それにロサンゼルスまで車で4時間だから、ライヴを見たり仕事関係の人に会うことも出来る。イギリスは今でも愛しているけど、俺には今のライフスタイルが合っている。夏は暑いけど、ライヴをやったり生徒に教えたり、毎日を楽しんでいるよ。

●2017年の“ラウド・パーク17”フェスにクライ・ヴェノムの一員として出演しましたが、どんなことを覚えていますか?

Jacky Vincent / courtesy M&I Company
Jacky Vincent / courtesy M&I Company

クライ・ヴェノムでのショーはフェスのオープニング・アクトで、午前10時ぐらいが開演だったから、まだお客さんもまばらだと思っていたんだ。でもそれは大間違いだった。大勢の人たちがいて、すごく盛り上がってくれたよ。みんながワイルドになって、すべてがオーガナイズされていて、スタッフもプロフェッショナルだった。自分が始めたクライ・ヴェノムとして初めての海外でのビッグ・ショーだったし、最高にエキサイティングな経験だったよ。俺にとって“人生の勝利”といえる瞬間だった。あれからずっと、日本に戻ってくる機会を窺っていたんだ。今回ソロとしてまた日本でプレイ出来るのは嬉しいね。

●他のバンド、あるいはプライベートで日本を訪れたことはありますか?

いや、“ラウド・パーク17”が初めてで、今回が2回目だ。すごいスリルを感じているよ。もっと日本を見て、いろいろ知りたいと考えている。

●現在ではソロとクライ・ヴェノムを並行してやっているのですか?

クライ・ヴェノムは今ひと休み、という感じなんだ。解散したわけではないけど、ソロ・キャリアを突き詰めていきたい。『ライフ・イミテイティング・アート』は大きな可能性のあるアルバムだし、ライヴ活動などで知ってもらって、より多くの音楽リスナーに聴いてもらいたいんだ。GALNERYUSのSYUみたいにバンドとソロを両立させてコンスタントに活動するアーティストをリスペクトするよ。俺もやりたいことがたくさんあるし、ひとつひとつ実現させていくつもりだ。

<膨大な量のギターと、膨大な量のノイズにあふれるライヴ>

●日本でのライヴは、どんな構成になるでしょうか?

『ライフ・イミテイティング・アート』からの曲もプレイするし、ファースト・ソロ作『Star X Speed Story』(2013)からも数曲やるつもりだ。メタル・スタイルの速弾きシュレッドもたっぷりあるし、ちょっとレイドバックしたフュージョン・スタイルのプレイもある。約1時間の楽しいショーになるよ。

●来日公演はアーチ・エコーとのダブル・ヘッドライナー・ツアーとなりますが、彼らのことは知っていますか?

『Life Imitating Art』ジャケット(キングレコード)
『Life Imitating Art』ジャケット(キングレコード)

彼らの音楽はかなり前から聴いていたよ。まだ直接会ったことがないから、すごく楽しみにしている。優れたミュージシャンと知り合って話すだけでもインスピレーションを得ることが出来るし、視野も広がると思うね。アーチ・エコーの音楽性は俺とかなり異なっているけど、ハードなエッジのあるギター・ミュージックという点では共通しているし、素敵なコントラストのあるショーになるだろうね。

●あなたのライヴはどんなものでしょうか?

ライヴに自分の持っているエネルギーをすべて投入するんだ。全身全霊を自分の演奏に込めるけど、必要以上にシリアスになることなく、お客さんとのコミュニケーションを重視する、楽しいショーになるよ。そしてもちろん、膨大な量のギターと、膨大な量のノイズを味わうことが出来る。ドラマーのカルロス・パグアガ(Carlos Paguaga)、ベーシストのテリー・ピーク(Terry Peake)も素晴らしいプレイヤーだよ。

<いろんなギタリストを発見した。神の啓示のような経験だった>

●あなたの経歴を教えて下さい。

Jacky Vincent / courtesy M&I Company
Jacky Vincent / courtesy M&I Company

1989年、イングランド南部のポーツマスで生まれた。海沿いの町で、冷たい雨がよく降っている。父親のジョンは音響関係の仕事をしていて、セミプロ・ミュージシャンとして幾つかのバンドでやっていた。若い頃にはライヴのサウンドマンとしてB.B.キングやアルバート・リー、それからクイーンのツアーに参加したりもしたんだ。それにアコースティック・ギターやヴァイオリンを自作したり、ヴィクトリアン・ハープの修復をしたりしていた。 6歳だか7歳のとき、父親が持っていたジョー・サトリアーニ『サーフィング・ウィズ・ジ・エイリアン』のCDを聴いたんだ。ギターって凄い!と思って、練習することにした。兄もギターが上手かったんで、 教えてもらったりした。それから11歳のときにアイアン・メイデンを発見して、いろんな曲をコピーした。そして15歳にドラゴンフォースと出会ったことで、すべてが一変した。毎日彼らのギター・ソロをコピーすることで、自分自身をプッシュしていった。それからテクニカル・ギターに魅せられて、インターネットで調べてマイケル・アンジェロ・バティオ、ポール・ギルバート、ヴィニー・ムーア、ジェイソン・ベッカーなどにハマりまくったよ。

●彼らはあなたが生まれる前にデビューしたギタリスト達ですが、どのようにして知ったのですか?

俺がテクニカル・ギターに目覚めた頃は既にYouTubeがあったから、リンクを辿っていろんなギタリストを発見出来たよ。まるで神の啓示のような経験だった。レーサーXやシンフォニーX、ブラインド・ガーディアン...よくキーワードとして“パワー・メタル”という言葉が出てくるんで、何だろう?と思ってグーグルで調べて、ストラトヴァリウスを知ったりした。GALNERYUSもYouTubeで知って、日本盤CDを買ったりした。

●あなたと同じイギリス出身のドラゴンフォースが世界で成功を収めたことで、共感はおぼえましたか?

彼らが凄いバンドであることは疑問の余地がないけれど、イギリス出身というのはあまり意識しなかったよ。これまで彼らが“同郷のバンド”と考えたことは一度もない。あっ、でも、彼らはイギリス人でも中国系やイタリア系など、いろんな出身地からメンバーが来ているけど、もしかしたら無意識に影響を受けて、クライ・ヴェノムがイギリス人とロシア人とかの多国籍バンドになったのかも知れない。まあ、偶然だけどね(笑)。

●テクニカル系でないギタリストで影響を受けた人はいますか?

エリック・ジョンソンはテクニック的にも凄いと思うけど、センスとフレーズで魅せるギタリストだよね。メロディック・プレイヤーとしてのショーン・レインも素晴らしい。彼のフレージングからは影響を受けているよ。俺が理想とするのはテクニックだけではなく、メロディを弾けるギタリストなんだ。それからもちろんジミ・ヘンドリックスやスティーヴィ・レイ・ヴォーン、エリック・クラプトン、スラッシュね。あとジャズやフュージョン系ではアラン・ホールズワースやスコット・ヘンダーソン...トム・クエイルも独自のスタイルを持っている。

●2008年にフォーリング・イン・リヴァースに加入したのはどんな経緯だったのですか?

ベーシストに「ギタリストは要らない?」ってメールしたら「要る」というんで、荷物をまとめて飛行機に乗って、アメリカに行った。きわめてシンプルな話だけど、俺にとっては人生のターニングポイントだったんだ。

●フォーリング・イン・リヴァースで活動する一方で、テクニカル・ギターの名門“シュラプネル・レコーズ”(イングヴェイ・マルムスティーン、トニー・マカパイン、ポール・ギルバート、マーティ・フリードマンなどをデビューさせたレーベル)からソロ・アルバム『Star X Speed Story』を発表しましたが、“シュラプネル”への思い入れはありますか?

もちろん!あのアルバムを出したのは6年前だけど、 “シュラプネル”からアルバムを出して、ポール・ギルバートとマイケル・アンジェロ・バティオにゲスト参加してもらうなんて、今でも夢を見ている気分だ。何百万人ものギター・キッズの夢が叶った瞬間だよ。フォーリング・イン・リヴァースのファースト・アルバム『The Drug In Me Is You』(2011)をレコーディングしたとき、リア・ピックアップのサウンドはポール・ギルバートを意識していたし、フロント・ピックアップはマイケル・アンジェロ・バティオっぽい音をイメージしていた。

●左右別々の方向を向いたツイン・ネック・ギターを弾きまくるマイケル・アンジェロ・バティオから影響されたわりには、あなたはネック1本の6弦ギターで24フレットと、比較的穏健派ですよね?

ネック1本でも十分難しいからね。2本も要らないよ(笑)!俺は正統派のギターが好きなんだ。若い頃はスーパーストラト系のトリッキーなギターにも手を出したけど、今はベーシックなギターを自分がどう弾くかの方に興味がある。『ライフ・イミテイティング・アート』では7弦ギターも数箇所で弾いているよ。低音弦を加えるから、ローエンドが強化されるんだ。かつて6弦ギターをドロップCチューニングにして弾いていたこともあった。ただ、現在の自分の音楽においてそんな要素が必要かというと、よく判らない。将来的にまたやってみる可能性はあるけど、今の俺は7弦ギターをそれほど必要としていないんだ。

後編ではジャッキーの現代ギター・ミュージック・シーンにおけるポジションについて、そして未来に向けたヴィジョンについて訊いてみよう。

【公演日程】

ARCH ECHO/JACKY VINCENT Double Headline Japan Tour 2019

- 11月19日(火)梅田クラブクアトロ

開場18:00/開演19:00

- 11月20日(水)渋谷・duo MUSIC EXCHANGE

開場18:00/開演19:00

http://www.mandicompany.co.jp/EchoVincent.html

https://www.jackyvincentofficial.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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