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【インタビュー後編】2019年11月に来日。ジャッキー・ヴィンセントが語るギター・ミュージックの未来

山崎智之音楽ライター
Jacky Vincent / photo by Yuki Kuroyanagi

2019年11月、アーチ・エコーとのダブル・ヘッドライナー来日公演を行うジャッキー・ヴィンセントへのインタビュー、全2回の後編。前回記事に続いて、ジャッキーが現代ギター・ミュージック・シーンにおける自分のポジション、そしてその未来について語った。

<アニメがギター脳を刺激してくれる>

●『ライフ・イミテイティング・アート』収録の「アウェイクナー」など、バッキングでエレクトロニックな要素を取り入れていますが、テクノやEDMなども聴くことがありますか?

『Life Imitating Art』ジャケット(キングレコード)
『Life Imitating Art』ジャケット(キングレコード)

俺の血液の中には1990年代のエレクトロニック・ミュージックが流れているんだ。子供の頃、7歳上の姉アンバーがトランス・ミュージック、5歳上の兄ジャイルズがガンズ&ローゼズやニルヴァーナを聴いていたから、両方が自然に俺の無意識に擦り込まれた。ギターを始めてからもいろんな音楽を聴いていたし、パワー・メタル一辺倒にはなりたくなかった。ジャンルに囚われない、自由な音楽をやりたかったんだよ。

●私が間違っているかも知れませんが、メロディや曲展開にアニメ音楽からの影響があったりしませんか?

ははは、大当たりだよ。11歳から14歳ぐらいまで、『ドラゴンボールZ』にハマっていたんだ。あまりに毎日『ドラゴンボールZ』のことばかり考えていたから、親がセラピストに診せようかと悩んでいたほどだよ。主題歌もヴィジュアルも好きだった。今でも曲を書くとき、視覚的イメージから触発されることが多いんだ。俺がパワー・メタルに恋に落ちたのも、クレイジーなアルバム・カヴァーが好きだったからだよ。それが自分の創造性のツボを突くんだ。クリエイティヴなゾーンに入って、ほとんど禅の境地になるんだよ。

●『ライフ・イミテイティング・アート』の曲作りにインスピレーションを与えたアニメはありますか?

ギターを弾きながらテレビの音を消して、『獣兵衛忍風帖』(1993)を流していた。アニメはあまり“kawaii”系ではなく、1990年代のアブラぎったやつの方が脳を刺激してくれるんだ。アニメだけでなく、YouTubeの映像だったりね。「ラン、ドント・ルック・バック」は東京やニューヨークの夜景の映像を延々と流していたんだ。他に好きなアニメは『星方武侠アウトロースター』(1998)とか『DEATH NOTE』(2003〜2006)...クライ・ヴェノムの「ストロンガー・ザン・スティール」という曲は『DEATH NOTE』からインスパイアされたんだよ。最近見て良かったのは『グランブルーファンタジー ジ・アニメーション』(2017〜)かな。ただ、アニメファンを自称しながら、音を出して見ることが滅多にないんだ(苦笑)。映像だけを流して、それに合わせてギターを弾きながら曲を書くんだ。日本に行って、新しいアニメを発見するのが楽しみだよ。

Jacky Vincent / courtesy M&I Company
Jacky Vincent / courtesy M&I Company

<オールスター・ギター・アルバムを作りたい>

●ジェイソン・リチャードソンのアルバム『I』(2016)に収録されている「Breaking Damnation」にゲスト参加していますが、彼とはどのようにして繋がったのですか?

ジェイソンと知り合ったのは2014年ぐらいかな。彼のバンド、チェルシー・グリンが俺のいたフォーリング・イン・リヴァースのライヴでオープニング・バンドだったんだ。彼のギタリストとしての評判は知っていたし、彼も俺のことを知っていた。それでバックステージでジャムをやったりして、友達になったんだ。それでジェイソンがアルバムを作るにあたって、クレイジーなギター・ソロを弾いてくれと頼まれた。俺なりにベストを尽くしたよ。「Breaking Damnation」のソロを弾いているときも、『獣兵衛忍風帖』を流していたっけな(笑)。いずれ俺のアルバムにも、彼にゲスト参加して欲しいね。

●『Star X Speed Story』にはポール・ギルバートとマイケル・アンジェロ・バティオがゲスト参加していましたが、『ライフ・イミテイティング・アート』にゲストがいなかったのは意図的ですか?

うん、今後のアルバムに取っておきたかったんだ。いずれ全曲にゲストが参加しているアルバムを作りたい。そうしたらジェイソンに必ず参加してもらうよ!

●オールスター・アルバムを作るとしたら、誰にゲスト参加して欲しいですか?

ドラゴンフォースのハーマン・リは友達だし、絶対に参加して欲しいね。あとはもちろんジェイソン、それからエンジェル・ヴィヴァルディ、ラスティ・クーリー、トム・クエイル、リック・グレアム...あとマイケル・アンジェロ・バティオやポール・ギルバート、それからSYUとももう一度共演したい。もしガスリー・ゴーヴァンやグレッグ・ハウが参加してくれたら最高だね。

●2018年にポリフィアも曲ごとにジェイソンやマテウス・アサト、イヴェット・ヤングらゲストを迎えたアルバム『NEW LEVELS NEW DEVILS』を発表して、ichikaをフィーチュアした「DEATH NOTE」という曲を収録していました。

うん、ポリフィアは最高だよ。彼らは誰にも出来ないことをやっている。IchikaはInstagramでフォローしているよ。すごくユニークなギタリストだし、彼のタッピングの表現をリスペクトしている。彼らも俺のソロにゲスト参加してくれたらいいね!俺は生徒にギターを教えていて、ポケモンみたいに育てようとしているんだけど(笑)、彼らがよくYouTubeで見つけたギタリストを教えてくれるんだ。とても勉強になるよ。

●そういった一連の新世代ギタリストが、ひとつのムーヴメントを起こしていると感じますか?

Jacky Vincent @Loud Park 17 / photo by Yuki Kuroyanagi
Jacky Vincent @Loud Park 17 / photo by Yuki Kuroyanagi

うん、そう思うね。みんな素晴らしいギタリストであるのと同時に、お互いにコミュニケーションを取り合って、刺激し合いながら、新しいギター・ミュージックを創り出している。みんなインターネットを使って音楽を発表したり、SNSで連絡を取り合ったり、すごく新鮮な時代だよ。20歳前後のギタリストは、生まれながらにしてネットで新しい音楽を発見することが出来る。あらゆる音楽に晒されて、そんな中から斬新なギタリストが次々と登場しているんだ。彼らは情報のオーヴァーロードで、脳にステロイド注射をしているようなものだよ。

●優れたギタリスト達が登場しているのに対し、メインストリームのヒット・チャートではギター・ミュージックが不振な状況ですが、音楽シーンの現状をどのように見ていますか?

俺は正直、音楽シーン全般のこととかは考えないんだ。自分が信じる道を進むしかないんだよ。21世紀になって、音楽の表現スタイルは大きく変化した。メジャー・レーベルと契約しなくても、ヒット・チャートで1位を取らなくても、MTVでオンエアされなくても、アーティストはファンと直接交流することが出来る。俺自身もアルバムを発表して、世界を回ってライヴをやっている。大金持ちになることよりも、自分の愛する音楽をプレイし続けることが大事なんだ。今はとにかく、日本でプレイするのが楽しみだよ。

【公演日程】

ARCH ECHO/JACKY VINCENT Double Headline Japan Tour 2019

- 11月19日(火)梅田クラブクアトロ

開場18:00/開演19:00

- 11月20日(水)渋谷・duo MUSIC EXCHANGE

開場18:00/開演19:00

http://www.mandicompany.co.jp/EchoVincent.html

https://www.jackyvincentofficial.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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