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秋の[ひとり旅]は絶景紅葉&「温泉ごはん」 『雪国』の宿で香ばしい【くるみ太巻き】で舌つづみを打つ

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
今頃、紅葉真っ盛りだろう……(撮影筆者)

紅葉が見頃だ。

新潟県でいうと、苗場高原から田代高原を繋ぐ約5キロの「ドラゴンドラ」は紅葉を眼下に移動する。そうした紅葉見物の後には、やはり名湯と「温泉ごはん」、そして人情味溢れる越後の温泉女将に会ってこよう。

※この記事は2023年4月に発売された『温泉ごはん 旅はおいしい!』(河出文庫)から抜粋し転載しています。

『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)は「女将という職業と人となりを知るきっかけになった」という感想を多く頂いた。そこでいま取材を進めているのは「温泉女将の仕事術」。もてなしの秘訣やクレーマーへの対処、人材不足の中での雇用の秘訣や立ち振る舞いといったたしなみを聞かせてもらっている。

その取材で新潟県越後湯沢温泉「雪国の宿 高半」大女将の高橋はるみさんを頼り、出かけた。

「高半」は、川端康成が小説『雪国』を書いた宿であり、現在も川端が執筆した部屋「かすみの間」が残る。昭和32年(1957)に公開された映画『雪国』の撮影の時も、主演の岸恵子や池部良、八千草薫らが滞在しており、はるみ女将はそうした銀幕のスターが宿で見せた知られざるエピソードもたくさんお持ちだ。

川端が執筆した部屋「かすみの間」はいつでも見学可能(撮影筆者)
川端が執筆した部屋「かすみの間」はいつでも見学可能(撮影筆者)

はるみ女将は、新潟県最古の企業と言われる「高半」のお嬢さんとして生まれた。36代目を受け継ぎ、「新潟県女将の会」の会長を3期務めるなど、越後の女将の顔であり、いつお会いしても十日町紬や塩沢紬を品よく着こなしている。

ひとりで「高半」に泊まる時は、「寂しいでしょう」と一緒に夕食を摂ってくれ、話し相手になってくださる。

はるみ女将と地酒を飲みかわしながら、いつも女将の喜びやご苦労を聞かせてもらうのが楽しみ(撮影筆者スタッフ)
はるみ女将と地酒を飲みかわしながら、いつも女将の喜びやご苦労を聞かせてもらうのが楽しみ(撮影筆者スタッフ)

夕食の前菜に「魚沼産塩漬けわらび くるみ浸し」「くるみ太巻き」「ぜんまい煮」が並んでいた。「魚沼産塩漬けわらび」はさっぱりとした味。直径5センチ程の「くるみ太巻き」は、その名の通りにご飯の中にくるみを入れて巻いてある。こりっとした食感に始まり、口に香ばしさが広がる。越後生まれの私には馴染みの味だが、初めての人は巻物にくるみが入っていることに驚くだろう。しかし一度味わえば、くるみのない太巻きが考えられなくなるほど、そのくるみパンチに魅了される。魚沼地方の人たちは良質なたんぱく源としてくるみを食べる習慣がある。

「ぜんまい煮」は、野太いぜんまいを身欠き鰊で炊いていて、鰊の脂がテリと深いコクを出している。子供の頃は、お婆ちゃんが作ってくれたのに「年寄りのおかず」と嫌ったが、滋味がわかる年齢になった今では大好物。端麗辛口の新潟の酒が一層おいしくなる。

越後の郷土料理「ぜんまい煮」。鰊の脂がテリと深いコクを出す(撮影筆者)
越後の郷土料理「ぜんまい煮」。鰊の脂がテリと深いコクを出す(撮影筆者)

単純温泉が多い越後湯沢の中でも、「高半」は自家源泉を持ち、ふんわりと硫黄の香りがする。川端康成も妻への書簡に「石鹸の泡立ちも悪くなく、よく温まり神経痛に効く」等と特徴をしたためている。大浴場からは萌える緑を眺められ、湯量豊富なその湯に私は悦に入った。

『雪国』の宿の冬の風景。ため息が出るほど美しい雪景色が広がる(高半提供)
『雪国』の宿の冬の風景。ため息が出るほど美しい雪景色が広がる(高半提供)

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界32か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便等テレビラジオにも多数出演。国や地方自治体の観光政策会議にも多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。著書は『おひとり温泉の愉しみ』(光文社新書)『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)2023年4月6日発売の『温泉ごはん 旅はおいしい!』(河出文庫)は温泉にまつわる豊かな「食」体験をまとめた初の食べ物エッセイ。

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