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ゆるめる・ほどく・コリとる「ひとり温泉」体験! 5つの条件を満たす関東近郊【おすすめ秘湯3選】

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
群馬県たんげ温泉美郷館の「瀬音の湯」(写真・撮影筆者)

病気とまではいかないが、なんとなく不調が続く。肩や背中の凝(こ)りが取れない。身体が重い。心も疲れているようだ。

そんなあなたに、ゆるめる・ほどく・コリとる「ひとり温泉」をお勧めしたい。

まずは私の体験談を語ろう。

たんげ温泉美郷館「瀬音の湯」に入浴中(写真・筆者撮影)
たんげ温泉美郷館「瀬音の湯」に入浴中(写真・筆者撮影)

まだコロナが蔓延する前―-。

その年は猛暑が続き、秋になり涼しくなった10月なかばでも、夏の疲れが残っていた。眠りが浅いのだ。背中も肩も重たい。

私は、群馬県たんげ温泉美郷館に向かった。

上野駅からJR特急草津に乗って2時間強。中之条駅で下車。そこから沢渡温泉行きのローカルバスに25分程揺られ、バス停「たんげ口」で降りると、宿の送迎車が待っていてくれた。こうして特急、ローカルバス、送迎車を乗り継いでくると、俗世から徐々に遠ざかっていく感が湧く。

集落の最奥にこの立派な家屋(写真・筆者撮影)
集落の最奥にこの立派な家屋(写真・筆者撮影)

沢づたいに、山林の奥深くまで入ってきた。すると眼前に、突如、立派な日本家屋が出現する。美郷館だ。

たんげ温泉に温泉街はない。旅館は美郷館のみ。まさしく秘湯である。

ロビー(写真・撮影筆者)
ロビー(写真・撮影筆者)

ロビーに入ると、木の美術館とみまがうばかりの立派な柱と梁が目に飛び込んでくる。樹齢300年以上の立派な欅を使っている。美郷館のオーナーの高山さんが材木商を営んでいるため、建物全体に見事な木がふんだんに使われているのだ。「木は生きていて、呼吸する」と、高山さんから聞いたことがあるが、なるほど、木が浄化してくれているのだろう、館内の空気は澄み切っていて、おいしい。目をつむれば、まるで清々しい山林で呼吸しているようだ。

私の泊まる部屋は10畳ひと部屋。

お茶とお菓子を口に運んで、ひと休み。浴衣に着替え、お風呂へ向かう。

2月に再訪したときに利用した部屋(写真・筆者撮影)
2月に再訪したときに利用した部屋(写真・筆者撮影)

20室満たない、決して大きくはない旅館だが、入れるお風呂は6つ、そのうち2つは無料の貸切風呂だ。

美郷館は独自に源泉を有し、お湯をふんだんに使えるから、全てのお風呂は源泉が注がれている。貸切風呂は「入浴中」という看板を下げて入る。時間制限はない。

貸切風呂の入り口に簡易な脱衣所があり、浴衣を脱ぎ、どぼん。

湯に浸かって、すぐ隣で流れる丹下川の水音に耳を澄ます。透き通った川の流れと水しぶきが。目に優しい光景。

少しぬるいのが心地よい。長湯しているうちに、うつらうつらとした。

カルシウム硫酸塩泉のお湯は、肌の傷も心も鎮めてくれる。

お風呂への廊下(写真・筆者撮影)
お風呂への廊下(写真・筆者撮影)

部屋に戻る。お茶で喉を潤してから、畳の上でごろん。座布団をたたんで枕にした。持参した文庫を広げるが、1ページもめくらないうちにうとうと。まだ日が高いのに、温泉であったまり、昼寝ができるなんて、幸せだ。

30分程で目ざめ、今度は内風呂「滝見の湯」で目の前の滝を眺めながら、ほけっとして過ごす。

2月の「滝見の湯」(写真・筆者撮影)
2月の「滝見の湯」(写真・筆者撮影)

夕食は一番早い時間帯にしてもらう。山菜やきのこなどの山の幸が並ぶ。たらふく食べて、夕食後は、まだ20時過ぎだというのに、そのまま眠りにつく。

21時過ぎにふと目ざめ、またお風呂へ。今度は露天の岩風呂に入ってみよう。

2月の「月見の湯」。頭寒足熱とはこういうことか。気持ちいい!(写真・筆者撮影)
2月の「月見の湯」。頭寒足熱とはこういうことか。気持ちいい!(写真・筆者撮影)

早く目が覚めた。朝は「瀬音の湯」に入る。艶やかなお湯とステンドグラスからの神々しい光を浴びるためだ。

湯上りに、少し美郷館周辺を歩く。緑の匂いが鼻をくすぐる。やはり空気が美味しい。

チェックアウトの頃にはこり固まっていた「重たさ」が抜けていた。滞在中、私は何をしたのだろう……と振り返ると、浴びるほど湯に浸かり、よく寝た。

これも「ひとり温泉」で同行者に気を遣わないで済むからできること。遊びに行くのではなく、体調を整えるための旅館滞在である。

美郷館、ありがとう!

――コロナ禍が起きてから2年近く。心身のストレスが重なって、不調を感じている人は増えているはずだ。いったん収束の兆しが見えてきた今こそ、「ひとり温泉」に行くチャンスにして欲しい。

ではここで、私が提唱する、ゆるめる・ほどく・コリとる「ひとり温泉」の5つの条件を発表しよう。

条件1 俗世から隔絶された秘湯。けれど比較的行きやすい 

条件2 自家源泉を有する

条件3 お風呂の数がたくさんある

条件4 空気の美味しい散策ルートを楽しめる

条件5 宿泊料金がお手ごろ ひとりで宿泊しても15000円から2000円程度

これらを満たす関東近郊の宿を3軒紹介しよう。

【おすすめ秘湯3選】

たんげ温泉美郷館(群馬) 

11月は裏山でなめこが獲れるので、朝ごはんになめこ汁が出される。夕食の柿の白和え、舞茸や乾燥芋の天婦羅も美味。秋の恵みがいただける。

宿泊料金目安 ひとり温泉プラン(平日)22500円~

美味しそうななめこ(写真・美郷館提供)
美味しそうななめこ(写真・美郷館提供)

高峰温泉(長野)

標高2000mに位置する高所のいで湯。「雲上の湯」は露天風呂から陽が沈む様や雲海も目の当たりにできる。できれば2泊し、1泊目はだらだらと、2日目以降はハイキングや星空観察など自然に触れ元気になろう。

宿泊料金目安 ひとり温泉  18850円~

奥鬼怒温泉郷加仁湯(栃木)

もともとは登山の拠点、山小屋だったこともあり宿は簡素。しかし5本の源泉を有し、4種類の泉質が愉しめる。私は滝が眺められる露天風呂「カモシカの湯」が好み。食事は素朴な山の幸。

宿泊料金目安 ひとり温泉 15000円~

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界32か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便等テレビラジオにも多数出演。国や地方自治体の観光政策会議にも多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。著書は『おひとり温泉の愉しみ』(光文社新書)『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)2023年4月6日発売の『温泉ごはん 旅はおいしい!』(河出文庫)は温泉にまつわる豊かな「食」体験をまとめた初の食べ物エッセイ。

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