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厚木の2児放置死 事前通告受けた児相「緊急性ない」、判断に疑問

山脇由貴子元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー
(写真:イメージマート)

神奈川県厚木市で、7月29日公園駐車場に止めた車内から、幼いきょうだいが救急搬送され、死亡するという事件が起きました。母親である長沢麗奈容疑者(21)が長男(1)を車内に放置した保護責任者遺棄容疑で逮捕、母親は子どもを放置した間、知人男性宅を訪ねていました。この件について昨日、県と児童相談所が記者会見を開きました。その記者会見の内容から、児童相談所の対応の問題点が見えて来ました。

事件前にも通告

 児童相談所は今回の事件の前、7月14日にも警察からの通告を受けていました。内容は7月8日に容疑者である実母、母方祖母、長男、長女で買い物に出かけた際、長男が眠っていた為、長男を車内に残して3人で買い物に出かけ、長男が車内で泣いているのを通行人が目撃し、警察に通報したのです。警察は現場で長男が車内にいるのを確認、母親にも指導をし、母親は「2度としない」と約束したそうです。児童相談所は警察からの通告を受け、同日にネグレクトで受理。けれど、児童相談所が母親への連絡を試みたのは偶然ですが7月29日。受理から15日後でした。この理由について児童相談所は記者会見の中で「通常ならば1週間から10日くらいの間に家族に連絡をし、会って確認をする」「それよりはちょっと遅れた」と答えていますが、この、1週間から10日の間、という日数には法律的な明文があるわけではなく、全国的に浸透しているルールでもなく、あくまで厚木児童相談所の慣習、あるいは感覚的な判断としか思えません。警察からのネグレクトの通告は虐待リスクが高いと判断すべきです。

緊急性はない

 母親への連絡が遅れた理由として、児童相談所は「緊急性はない」と判断した、と答えています。緊急性はない、と判断した理由については、関係機関への調査により、予防接種や検診をちゃんとうけているから。予防接種や検診を受けていることは日常的な虐待がないと判断できる理由にはなりません。実際、母親はこの危険な暑さの中、子どもを車内に放置したのです。死に至る可能性のある重篤な虐待です。車内放置は日常化していたかもしれません。調査は不十分としか言えません。

 また、児童相談所は、警察が子どもの姿を確認し、指導もしたから、とも述べていますが、警察が子どもを確認し、母親に指導をしたからといって、児童相談所はしなくてもいい、ということにはなりません。警察は児童相談所の指導が必要と判断したから通告してきたのです。すぐに対応すべきでした。

 また、児童相談所は「虐待の近隣通報などの緊急性の高いケースの対応をしていた」ことも対応が遅れた理由としてあげていますが、他のケースの対応に追われていた、など、理由になりません。そもそも、この家庭の緊急性は高くない、という判断が間違っているのです。

 前に書いた通り、警察からのネグレクトの通告は重く受け止めなければなりません。なぜなら、警察からの通告の多くは心理的虐待だからです。その中で警察がネグレクトとして通告してきたのですから、児童相談所はすぐに対応すべきだったのです。

乳幼児へのネグレクトは高リスク

 ネグレクトとは子どもの育児を放棄することで、食事を与えない、ひどく不潔にすることや、車内に放置することもネグレクトに含まれます。

 記者会見の中で児童相談所は「乳幼児への虐待はリスクは高いが、ネグレクトとなると少し低くなる」と答えています。なぜでしょうか。乳幼児へのネグレクトこそ、高リスクです。なぜなら、乳幼児は放っておくと死んでしまうからです。そして事実、母親はこの危険な暑さの中、子どもを車内に放置しているのです。死に至る可能性のある虐待です。

 そして子どもは1歳と2歳。母親はパート就労していたそうですが、子ども達は保育所等には通っていませんでした。つまり、子どもの安全確認を出来る場所がない、ということです。これも高リスクの要因となります。厚労省の一時保護に向けてのアセスメントシートでしっかりチェックしていれば、少なくとも「緊急性はない」という判断にはならなかったはずです。

 また、児童相談所は「車内放置案件については、児童相談所だけで何かできるわけではない」とも会見の中で述べています。なぜでしょうか。母親に厳しい指導が出来るのは児童相談所だけです。子どもを一時保護出来るのも児童相談所だけです。

防げた事件

 母親は21歳。10代で妊娠、若年出産。母方祖母と同居しているといえ、現在はシングルマザーです。そのことだけでも児童相談所が丁寧に関わる理由になります。それなのに、児童相談所は通告から2週間何もしなかったのです。

 児童相談所が7月29日に母親の携帯に電話をしたら、「お客様の都合により~」というメッセージが流れ、つながらなかったそうです。7月14日に電話をしていたら、「つながらない」「おかしい」と気づき、すぐにでも家庭訪問して母親と会い、子どもの様子も確認出来たはずです。母親に車内放置は死に至る可能性がある、と教えることも出来たはずです。子どもの様子次第では、一時保護も出来たはずです。防げたはずの事件です。児童相談所の責任は重いと言えます。

https://news.yahoo.co.jp/pages/20210315d

(児童相談所以外にもこのような制度もあります。)

 まだまだ暑さは続きます。同様の事件が起きないよう、児童相談所は車内放置を重く受け止め、ネグレクトの案件にはより丁寧に関わるべきです。そして車内放置の危険性については警鐘を鳴らし続けなければいけないですし、私たちも、車内や戸外に放置されている子どもを見つけたら、すぐに通報しなくてはなりません。

※記事の一部を加筆・修正しました。

元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー

都内児童相談所に19年間勤務。現在山脇 由貴子心理オフィス代表

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