Yahoo!ニュース

SNSを通じて国民とともに歩む令和の皇室に

山下晋司皇室解説者
祝賀御列の儀での天皇皇后両陛下 2019年11月10日 写真:ロイター/アフロ

即位からコロナ禍までの皇室

即位後の精力的なご活動

 約200年ぶりの(実質的な)譲位による御代替わりがあったのが昨年の5月1日。同日の三種の神器などを承継する「剣璽等承継の儀」から12月4日の「賢所御神楽の儀」まで、約7か月間にわたって即位関係行事が行われた。ご体調が心配されていた皇后陛下も出席されるべき行事にはすべて出席された。

 即位関係行事が続くなか、米国のトランプ大統領夫妻を令和初の国賓として招いたほか、愛知県(植樹祭)、秋田県(豊かな海づくり大会)、新潟県(国民文化祭)、茨城県(国民体育大会)を両陛下おそろいで訪問された。また、年末には令和元年台風第19号等による被災地お見舞いのため宮城県と福島県も両陛下で訪問された。

 これら即位関係行事や地方ご訪問などは、御代替わり当初ということもあり、報道量が多かった。そして、今年は両陛下の思い出の地でもある英国ご訪問や東京オリンピックも予定されており、さらなるご活躍が期待されていた。

相次ぐ行事の中止や延期 難しくなる地方ご訪問

 しかし、新型コロナウイルス感染症の広がりのため、皇室の行事は2月23日の天皇誕生日一般参賀の中止に始まり、立皇嗣の礼、乾通り一般公開、園遊会など、すべてが中止や延期となった。恒例の4つの地方ご訪問も式典自体が延期。英国ご訪問、東京オリンピックや中国の習近平国家主席の来日など、両陛下の本領発揮の場となるはずだった国際親善に関わるものもすべて延期である。

 5月25日に緊急事態宣言が解除され、宮内庁では6月24日に儀式としては3カ月ぶりに宮殿松の間で日本に着任した大使から天皇が信任状を受け取る「信任状捧呈式」が行われた。感染対策を取りつつも社会生活を取り戻すという政府の方針に従い、「握手無し、マスク着用」の式となった。また、7月17日には4カ月ぶりに検事総長などの「認証官任命式」も行われた。

 感染者が激増している昨今の状況においても政府の方針に変わりはなく、8月15日の戦没者追悼式も実施される方向である。延期されている「立皇嗣の礼」も、この政府の方針が変わらない限り実施されるだろう。その時期は即位礼正殿の儀が行われた10月22日から1年以内になると思われる。

 一方、令和2年7月豪雨で甚大な被害が出た熊本県などへのご訪問は難しいだろう。戦没者追悼式のような式典とは違い、沿道などに多くの人が集まる状況を作ることになることが予測されるからだ。恒例になっている御用邸などでの夏のご静養についても、列車を使用すると駅頭に多くの人が集まる可能性が高い。さらに、熊本県の豪雨災害の状況を鑑みるとなおさら難しいだろう。

象徴とは何か。そのあるべき姿とは

上皇陛下のお考えは「行動あってこその象徴」

 「象徴天皇の地位と活動は一体不離」。これは2012年(平成24年)まで11年間にわたり宮内庁長官、次長を務めた羽毛田信吾氏が退官にあたり紹介した天皇(現上皇陛下)のお言葉である。

 2016年(平成28年)8月8日に放送され、その後の退位の道筋を作った「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」にも「事にあたっては、時として人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことも大切なこと」という一節がある。上皇陛下の「行動あってこその象徴」というお考えが強く伝わってくるお言葉である。

「天皇の役割」と「象徴のあり方」

 1969年(昭和44年)、皇太子時代の上皇陛下は「憲法上、ある意味で皇族はロボットであっていいと思うが、ロボットだけではいけないと思う。そこがむずかしい」といった趣旨のことを仰っている。

 天皇の公務で法的根拠があるのは憲法第6条、7条に規定されている内閣総理大臣の任命などだ。一部の儀式を除いて、基本的にこれらはデスクワーク(宮内庁では「ご執務」といっている)であり、政府の決めたことを儀礼的に認証するといった、いわば前述の「ロボット」の部分にあたる。国家の一機関である天皇の役割といってもいいだろう。しかし、このロボットの部分だけで、国民が憲法第1条(※1)でいう「象徴」としての天皇を認めるのかということには疑問がある。

(※1)「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」

象徴たる天皇は生身の人間

 憲法改正の帝国議会で担当大臣だった金森徳次郎は、1946年(昭和21年)9月11日の貴族院帝国憲法改正案特別委員会においてつぎのように答弁している。

「私は第一条の天皇が無形の天皇であると申し上げたことはございません、有形の天皇、同時に無形の天皇も心の中に採り入れている、有形の天皇を通して無形の天皇を知り得るのであります、しかもその無形の天皇を的確にこの条文の中に導き入れているのは、第一条ではなくて第二条の規定でありまして、皇位という言葉がそれを表している、(中略)特に着目致しますのは現身の天皇である、現身の天皇を拝することによって、日本国そのもの、日本国民統合そのものの無形又は複雜なる組織体がありありと日本国民の心の中に映ってくる、そういう意味において解すべきものと存じております」。

 前後の議論を書かないとわかりにくいと思うが、金森は「象徴たる天皇は生身の人間であり、国民はその生身の人間である天皇を通して日本国を感じる」と考えていた。

世襲制だが、人間性を求められる矛盾

 金森の考えが、正しい象徴の姿なら、戦後の社会において、天皇は国民から見える存在である必要がある。だが、政府の決定したことに従うだけのロボットである天皇の姿を通して、国民が我が国を感じられるとは思えない。憲法の規定にはないが、自然人としての天皇の意向を踏まえた活動からにじみ出るその人間性によって、はじめて国民は尊敬し、信頼し、国を感じることができるだろう。よって、この自然人としての活動はロボットではいけないわけである。天皇は選挙で選ばれるわけではなく、皇室典範で機械的に決められる世襲制である。人間性などが求められているわけではないにも関わらず、人間性を求めるのは矛盾ではある。「天皇はその存在自体がありがたく、ただいらっしゃればいい」という考えは世襲制の規定からすると正しいといえる。

 結局、この矛盾を一身に受けているのが天皇ということになるが、憲法などできる前から国民に寄り添うというのが天皇の使命であると考えるしかないだろう。上皇陛下の「行動あってこその象徴」や「行動ができなくなったら退位すべき」というお考えはそういう使命感からきていると思われる。

ご活動の情報発信

難しくなる「国民とともに歩む」

 天皇陛下は浩宮時代の1985年(昭和60年)、英国留学を終えられた直後の記者会見で「(日本の皇室も)国民の中に入っていく姿勢が必要」だと仰った。これは物理的に人の中に入っていくということではなく、その際に仰っているとおり「いろいろな場を通じていろいろな人びとに接する」ことである。このお気持ちは天皇となった今も変わらないだろう。しかし、今は国民と直接触れ合うこともできず、多くの国民が集まるような状況を作ることもできない。では、国民とともに歩む気持ちをどうやって国民に伝えればいいのか。

ご活動は「どれだけ報道されるか」が重要

 そもそも実際に天皇や皇族に直接会える人は限られている。ほとんどの人は新聞、テレビの報道でご活動やお人柄を知ることになる。宮内庁としてはマスコミへの発表や取材協力によって、国民に皇室のご活動を伝えてもらう努力をしており、宮内庁ホームページでも情報を発信している。

 新聞、テレビでは社会全般の報道の中に皇室報道が入ってくるので、国民は特に皇室に関心がなくとも目にすることになる。宮内庁ホームページは資料としてはよくできているが、ここで情報を発信しても見に来てもらわないと話にならない。宮内庁ホームページを毎日のようにチェックしている人がどれだけいるのか。皇室に強い関心を持っている人はテレビの皇室番組を見たり、皇室本も読むだろうが、そういった人たちはごく一部であり、国民の1パーセントもいないのではないか。よって、新聞、テレビでどれだけ報道してもらえるかが重要になってくる。

コロナ禍でのお言葉 異例の公表

 コロナ禍で厳しい状況にいる国民に対して、天皇陛下のビデオでのお言葉はないのかという声が上がっていた。私はビデオでのお言葉はないだろうと考えているが、誤解を受けそうなのでここでは詳細は記さないでおく。要は天皇のお言葉は重いがゆえに慎重を期すべきであり、国が存亡の機にあるようなときに限るべきだと思っているからである。

 両陛下は新型コロナウイルス感染症に関するご説明を4月10日の尾身茂新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長を皮切りに、各分野からすでに10回ほど受けておられる。

 尾身副座長のご説明は最初ということがあり、ある程度は報道された。両陛下が尾身副座長と向かい合って、なにか仰っている場面は撮影されテレビ各局に配信されたのでご覧になった人もいるだろう。ただ、この動画は音声無しである。お言葉の内容自体は4月28日に宮内庁ホームページに全文が掲載された。こういった場の動画やお言葉を公表することは異例だが、陛下のお気持ちを国民に伝えるために考えられたことなのだろう。残念なのはもう一歩進んで、音声もありにすべきだったということである。もし、陛下のお言葉の音声が入っていれば、相当大きなニュースとしてテレビでは何回も取り上げたことだろう。

皇室もSNSを活用した積極的な情報発信を

 皇室もSNSを活用すべきとの声がある。私は皇室のSNS利用は5~10年くらい先だと思っていた。だが、コロナ禍で社会でのウェブ活用が一段と広まっている昨今の状況と、国民との直接的な触れ合いが当分望めそうにない状況から、早急に活用すべきと思うようになった。

 本年2月の天皇誕生日の記者会見で、陛下は「変化の激しい時代にあって、社会の変化や時代の移り変わりに応じた形でそれに対応した務めを考え、行動していくことは大切なこと」と仰っている。このお言葉から察するに、陛下もSNSの活用を視野に入れておられるのではないだろうか。

 いまこそLINEやTwitterのようなSNSを活用すべきである。両陛下のアカウントではなく、宮内庁として「皇室」の公式アカウントを取り、日々、両陛下のご動静やちょっとしたお言葉を発信していただきたい。ホームページに両陛下に関する新しい情報を掲載した場合はそのことも発信すればいい。

 国民との実際の触れ合いが基本だが、それが望めない場合はSNSの活用が今取り得る最善の策ではないだろうか。SNSを通じて国民とともに歩む令和の皇室も、きっと国民に広く受け入れられるだろう。

皇室解説者

昭和31年 大阪市生まれ、関西大学卒。20数年の宮内庁勤務後、平成13年に退職。宮内庁では昭和63年~平成7年まで長官官房総務課で報道を担当。昭和天皇の崩御・大喪の礼、平成の即位の礼・大嘗祭、秋篠宮殿下の結婚、皇太子(現在の天皇陛下)の結婚などの諸行事を報道担当として経験。平成時代の天皇皇后の中国訪問、米国訪問及び皇太子(現在の天皇陛下)のモロッコ・英国訪問に報道担当として同行。宮内庁退職後は出版社役員を経たのち独立。独立後は、BSテレ東・テレビ東京「皇室の窓スペシャル」の監修のほか、週刊誌・テレビなど各メディアでの解説、記者勉強会の講師、書籍・テレビ番組の監修、執筆、講演などを行っている。

山下晋司の最近の記事