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ロープやひもによる窒息を予防するために #こどもをまもる

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:イメージマート)

 2023年5月2日、埼玉県久喜市にある保育園の園庭で遊んでいた3歳園児の首にロープが巻き付き、意識不明の重体になっているというニュースがあった。一部報道によると、園庭に設置された高さ約2メートルの山に登り、頂上から飛び降りた際にロープが園児の首に絡まったということである。なぜロープが首に絡まったのか、どのような状態で絡まったのかについては現時点(2023年5月3日午前)ではわからないので、ここでは一般的な対策について述べてみたい。

 ロープやひも(ブラインドのコードも含まれる)が首に巻きつくことで窒息状態になり、重篤な事態になることは広く知られている。ロープやひも・ストラップだけでなく、ランドセルの肩ベルトやヘルメットのあごひも、洋服に付いているひもやリボン、水筒の肩ひもなども同様であり、過去に死亡事例もある。

登はん用ロープの危険性

 今回のように、両端が固定されていない登はん用ロープ、つまり垂れ下がった状態のロープの危険性については、国土交通省の「都市公園における遊具の安全確保に関する指針(改訂第2版)」、一般社団法人 日本公園施設業協会(JFPA)の「遊具の安全に関する規準 JPFA-S:2008」、欧州の基準を元にイギリスで策定された「BS EN1176-1:2017 Playground equipment and surfacing」などの規格・規準に明記されている。

「都市公園における遊具の安全確保に関する指針 (改訂第2版) 平成26年6月 国土交通省」29ページより 筆者抜粋
「都市公園における遊具の安全確保に関する指針 (改訂第2版) 平成26年6月 国土交通省」29ページより 筆者抜粋

「遊具の安全に関する規準 JPFA-S:2008  2008年8月 日本公園施設業協会」より 筆者抜粋
「遊具の安全に関する規準 JPFA-S:2008 2008年8月 日本公園施設業協会」より 筆者抜粋

 「BS EN1176-1:2017 Playground equipment and surfacing」には、ロープを両端で固定した際に、「プローブ」と呼ばれるこどもの頭の大きさを模した実験・測定用の器具が通り抜けられる輪が作れないようにしなければならないと具体的に示されている。

「BS EN1176-1:2017  Playground equipment and surfacing」より 筆者抜粋
「BS EN1176-1:2017 Playground equipment and surfacing」より 筆者抜粋

教育・保育施設に設置されている遊具の課題

 遊具はこどもの発達に欠かせないものであり、幼稚園や保育園などの教育・保育施設をはじめ、小学校などにも設置されている。いわゆる「まちの公園」である都市公園にも遊具が設置されており、その遊具については、上記「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」や、「遊具の安全に関する規準 JPFA-S:2008」により、定期的に点検することが求められている。一方、教育・保育施設に設置された遊具専用の規準はなく、上記「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」や、「遊具の安全に関する規準 JPFA-S:2008」を準用することとされている。

 点検についてはどうだろうか。文部科学省は、令和3年5月25日付で「学校環境における工作物及び機器等の安全点検について(依頼)」という通知を発出している。点検対象として「遊具」も含まれているが、「点検の視点」については「劣化・損傷の状況」や「固定の状態」などとあり、遊具の構造そのものに関する具体的な指摘はない。また、厚生労働省の「保育所保育指針」(第3章 健康及び安全 3 環境及び衛生管理並びに安全管理 (2) 事故防止及び安全対策)の中に、「ウ 保育中の事故の発生に備え、施設内外の危険箇所の点検や訓練を実施するとともに、外部からの不審者等の侵入防止のための措置や訓練など不測の事態に備えて必要な対応を行うこと」と書かれているが、本指針の解説も含め、点検の具体的な方法については触れられていない。また、内閣府の「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」(1 事故の発生防止(予防)のための取組み (1)安全な教育・保育環境を確保するための配慮点等 ②事故の発生防止に関する留意点)には、「○ 日常的な点検」として「施設・事業者は、あらかじめ点検項目を明確にし、定期的に点検を実施した上で、文書として記録するとともに、その結果に基づいて、問題のある箇所の改善を行い、また、その結果を職員に周知して情報の共有化を図る」と示されている。こちらはやや詳しいが、この「留意点」を読んで、具体的な点検内容や項目を想定できるものだろうか。

幼児が使用する遊具の規格・規準の必要性

 ここまでご覧いただいておわかりのように、教育・保育施設の遊具の安全性については、園長など施設の設置者や責任者の判断に委ねられているのが現状である。安全性の高い遊具を導入し、点検も外部の専門家に委託して定期的に実施している施設もあれば、施設や保護者の手作りなど安全基準を満たしていない遊具を設置し、点検も目視による腐食や劣化の確認のみという施設もある。中には、安全基準を満たした遊具に後付けで部品などを追加設置し、結果的に安全基準を満たさなくなっているようなケースもある。

 2023年3月9日、このYahoo!ニュース(個人)の「『かかりつけエンジニア』始動!〜学校の施設・設備を見直してこども達のケガを減らす〜」という記事の中に、「学校でのこども達のケガを減らすためには学校施設や設備の点検が必要だが、ご承知のとおり学校の先生方は大変多忙で、これ以上の業務をお願いすることは難しい。そもそも学校の施設や設備の点検や検査は、先生方の本来業務ではない」と書いたが、これはそのまま教育・保育施設にも当てはまる。遊具の点検はプロに委ねる業務であり、その前提となる「幼児が使用する遊具」の規格や規準が必要なのである。

 また、遊具に関する問題はハードの問題であり、保育者の「見守り」や「配置基準」とは分けて考える必要があることも強調しておきたい。大人の目から見ると「想定外」と思われる行動をこどもがとったとしても重大なケガにつながらない遊具や環境を整備しておけば、保育者が少々目を離しても大きな問題にはならない。

 現在、遊具の安全の専門家らが、上記「BS EN1176-1:2017 Playground equipment and surfacing」をベースにした新しい規準の策定を進めている。ヨーロッパの規準をそのまま日本の現状に当てはめることはなかなか難しいが、こども達が安全に、そして楽しく遊ぶことのできる遊具づくり、環境づくりを目指して、筆者らも協力する所存である。

大型連休を楽しく安全に過ごすために

 今日から大型連休後半が始まる。全国的に好天に恵まれるとあって、公園などで遊ぶこどもも多いだろう。こどもが遊具で遊ぶ際に保護者がチェックしておくべきことをまとめておく。

・遊具に破損がないかを確認し、破損があった場合は使用を中止するとともに、管理者に報告する

・遊具で遊ぶ際には、ひもやフードの付いた服は着せない

・水筒やバックパックなどを身に付けたまま遊ばせない

・遊具を使用する時は、自転車ヘルメットはかぶらせない

・遊具の設置面を確認し、落下した際に重大なケガにつながると判断した場合は、その遊具では遊ばせない

・熱中症を防ぐため、水分補給と涼しい場所での休息を

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小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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