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こどもの窒息を防ぐ 〜「聞かせてください」「みんなの声」への投稿から考える〜 #こどもをまもる

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:イメージマート)

 筆者が理事長を務めているNPO法人 Safe Kids Japanでは、2014年の設立当初からウェブサイト上に「聞かせてください」という投稿コーナーを設置し、「こどもがケガをした」、または「ケガをしそうになった」といった経験や、再発予防のための提案などを投稿していただいている。2023年2月からは、Safe Kids Japanが運営する「こどものケガを減らすためにみんなをつなぐプラットフォーム Safe Kids」に「みんなの声」という投稿コーナーを設置して、上記「聞かせてください」と同じように、こどものケガの経験や、ケガに関わる製品情報等を寄せていただいている。投稿数はさほど多くないが、筆者らも気づかなかった事案や、行政や事業者に知らせて改善につなげるべき事案など、貴重かつ重要な情報が寄せられている。

 先日、このコーナーに「幼稚園の給食」に関する以下のような投稿があった。

 この4月からこどもが幼稚園の年少(3歳)クラスに入りました。こどもは楽しく通園していますが、給食にミニトマトやぶどう、枝豆が切っていない状態で出されたり、カップゼリーなど危険と言われているものが出されたりしています。

 このことについて幼稚園に申し入れをしましたが、取り合ってもらえません。そこで幼稚園に給食を提供している事業者に問い合わせたところ、「ミニトマトやぶどうをカットしない状態で出すことや、カップゼリーやいわゆるキャンディチーズを提供することは、幼稚園の意向によるものです」と言われてしまいました。

 私は以前からこどもが窒息しないよう、ミニトマトやぶどうは4つに切ってから食べさせており、ゼリーも細かくしています。

 死亡事故が起きてからでは遅いですし、こどもの命がかかっていることなのに取り合ってもらえず、本当に困っています。

 どうかお力添えいただけないでしょうか。

 幼稚園・保育所等の給食について懸念する声はこれまでにも度々寄せられており、その都度対応してきたが、具体的な施設名がわからないケースもあり、もどかしい思いをすることが多かった。しかし今回は、幼稚園の所在地、および給食の事業者名が明記されていたので、早速この幼稚園がある自治体、およびこの自治体の幼稚園連盟に対し、次のような問い合わせを送った。

 NPO法人 Safe Kids Japanはこどものケガを減らす活動に取り組んでいる団体です。先日、当法人宛に「こどもが貴市内の私立幼稚園に通っている」という方から、「幼稚園の給食で、窒息の危険性がある食材がそのまま提供されており、改善を申し入れたが聞き入れてもらえず困っている」との相談がありました。

 実際に提供されている食材は、ミニトマト、ブドウ、枝豆、カップゼリーとのことで、その幼稚園には●●株式会社が給食を提供しているそうです。

 ご承知のとおり、毎年、全国の教育・保育施設等で食材による誤嚥・窒息事故が起きています。窒息によりこどもが亡くなるという事故も起きています。

 平成28年3月に内閣府等から出された「教育・保育施設等における事故防止および事故発生時の対応のためのガイドライン」において、誤嚥・窒息につながりやすい食材の提供に関するガイドラインが示されております。

P.3 ○過去に、誤嚥、窒息などの事故が起きた食材(例:白玉風のだんご、丸のままのミニトマト等)は、誤嚥を引き起こす可能性について保護者に説明し、使用しないことが望ましい。

P.21(3)誤嚥・窒息につながりやすい食べ物の調理について

①給食での使用を避ける食材 

球形という形状が危険な食材(吸い込みにより気道をふさぐことがあるので危険)

プチトマト:四等分すれば提供可であるが、保育園では他のものに代替え

 また、日本小児科学会からも情報提供がされています。

〜食品による窒息 子どもを守るためにできること〜

・カップゼリーは上向きに吸い込むため誤って気道に食べ物などが入りやすい

 つきましては、こども達の誤嚥・窒息事故を防ぐため、貴市内の教育・保育施設の給食で提供している食材の実態把握およびガイドラインの周知徹底をお願いいたしたく、メールをお送りしました。

 同じ内容のご連絡を、貴市の幼稚園連盟にもお送りしております。窒息の危険性がある給食(おやつやお弁当を含む)の状況が改善されますよう、なにとぞよろしくお願いいたします。

 すると、数日後にその市の子育て支援担当者から次のような返信があった。

 このたび、当市にお問い合わせいただきました件につきまして、回答いたします。

 当市が施設監査を担当している教育・保育施設については、誤嚥・窒息事故の防止に関する通知は適宜行っており、食事の提供状況を確認しています。幼稚園及び幼稚園型認定こども園につきましては施設監査を担当している都道府県から文部科学省の通知を各園へ送付し、注意喚起を行っておりますので本件について情報提供をいたしました。

 ご連絡いただきありがとうございました。

 この返信により、次の2点が明らかになった。

1 市は、担当している教育・保育施設については、監査および指導を行っており、食事の提供状況も確認している。

2 市は、幼稚園および幼稚園型認定こども園については、直接の監査・指導はしていないので、本件についても関与しない。

 要するに、「幼稚園の管轄は市ではないので、うちに申し入れをされても対応できませんよ」ということだ。これが子育て支援をしている担当課の対応の実態である。では、ChatGPTはどのように回答するだろうか。試しに同じ問い合わせを入力してみたところ、次のような回答があった。

 はじめまして、Safe Kids Japanさん。

 こどものケガを減らす活動に取り組まれている団体であることを拝見し、大変感心いたします。

 当市内の私立幼稚園において、幼稚園給食で窒息の危険性がある食材が提供されており、改善を申し入れたが聞き入れてもらえなかったという相談を受けたとのことですね。窒息によるこどもの事故は非常に深刻な問題であり、そのような食材を提供することは避けるべきです。

 Safe Kids Japanさんが示された「教育・保育施設等における事故防止および事故発生時の対応のためのガイドライン」や日本小児科学会の情報提供を見ると、ミニトマトやカップゼリーなどが誤嚥・窒息につながる可能性があることがわかります。

 こうした危険な食材の提供を避けるためには、幼稚園側がガイドラインを遵守し、保護者に適切に説明することが必要です。また、保護者側からも積極的な情報提供や改善の要望を行うことが重要です。

 Safe Kids Japanさんが幼稚園連盟にも同じ内容のご連絡をされたとのことで、連盟も含めて幅広く周知徹底されることを期待します。こども達の安全を守るために、Safe Kids Japanの取り組みに感謝申し上げます。

 市のこのような対応は、幼稚園、特に私立幼稚園でこどもが重大なケガをした場合の届け出の問題にもつながる。同じ市内にあったとしても、市が所管する施設ではない場合、市はあずかり知らないということである。見事な「縦割り」であり、「子育て」と銘打った部署の対応として、あきれ果てるしかない。では事業者に対してはどうだろうか。市内で営業する事業者の食材に関する判断について、市は指導する立場にはないのだろうか。「市が管轄する教育・保育施設に提供する場合はミニトマトやぶどうは4つに切って提供してください。しかし、管轄外の幼稚園に提供する場合、市は関知しないので、幼稚園の指示に従ってください」という判断になるのか。

 言うまでもないことだが、どこに住んでいようと、どのような施設に通っていようと、こどもの命は等しく守られなければならない。そのための「ガイドライン」であり、そのためにこども家庭庁が設置されたはずである。本件については、今後、この幼稚園を管轄する都道府県に報告し、都道府県から食材提供状況の実態調査と指導を行ってもらうよう要請する予定である。本来であれば、保護者が教育・保育施設のあり方に疑問を持った場合、それが幼稚園であろうと保育所であろうと、分け隔てなく相談できる公的な窓口を設けるべきである。それは、全国の消費生活センターが対応すべきことなのかもしれないが、そこに教育・保育施設の問題を持ち込むという発想はなかなか持ちにくいのではないか。

 2023年4月にこども家庭庁が設置され、国は「こどもまんなか社会」を掲げている。こども政策の基本理念のひとつである「こどもの視点、子育て当事者の視点に立った政策立案」には、「子育て当事者の意見を政策に反映させる」と書かれている。であるならば、たとえば幼稚園に通い始めたこどもの給食に明らかな「ガイドライン」からの逸脱があり、幼稚園に直接改善を訴えても聞き入れてもらえないような場合、その声を届けやすい仕組み、そして改善が進みやすい仕組みを作るべきである。今回、当会に投稿してくれた保護者の方は、おそらくあちこちに問い合わせをされたはずだ。一向に物事が動かないので、当会を探し当てて連絡をしてくださったのではないかと思う。子育ての当事者にそのような負担をかける社会は、とても「こどもまんなか社会」とは言えない。

 冒頭にも書いたように、「聞かせてください」や「みんなの声」に寄せられた声、そのひとつひとつは小さな声だが、社会を変えるきっかけになる重要な要素を含んでいる。それらの声ひとつひとつに丁寧に向き合い、こどものケガを減らすために活かすという活動をこれからも続けていく。

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小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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