Yahoo!ニュース

1月13日は「サッカーゴール等固定チェックの日」

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
Safe Kids Japan「子どもの傷害予防カレンダー 2020」 筆者抜粋

 昨年2022年はサッカーのワールドカップ大会が開催され、"SAMURAI BLUE"の活躍に日本中が湧いた。これに刺激されてサッカーを始める子どもたちが増えるのではないかと思われるが、サッカーに関連した事故が起こりうることもぜひ知ってほしい。

 2017年1月13日、福岡県大川市の小学校校庭でハンドボール用ゴールが転倒し、当時小学4年生だった児童が亡くなった。このYahoo!ニュース(個人)でも何度も書いているが、2004年の同じ1月13日に、静岡県清水市(当時)の中学校でサッカーゴールが転倒し、中学3年生の生徒が亡くなっている。

2017年の事故死以降の状況は

 ゴール等が関係して子どもが重いケガを負う事例は多数あるが、筆者が把握している限り、2017年の大川市の事故死以降、少なくともゴールの転倒に関連する死亡事故や、ニュースになるような重傷例は報告されていない。その理由ははっきりしないが、ゴール固定具の普及が影響しているのかもしれない。スポーツ・公園施設器具等の開発・販売を行うルイ髙が開発した固定金具は、2017年の事故以前から出荷数が増加傾向にあったということだが、同年キッズデザイン賞を受賞したことでさらに認知度が高まったと思われる。製品と子どものケガとの関係を把握するためには、2017年以降の固定具の普及状況を調べ、また日本スポーツ振興センターの災害共済給付のデータからサッカーゴール等に関連したケガを抽出して分析し、その効果をきちんと評価する必要がある。

ルイ髙のサッカーゴール固定金具 株式会社ルイ髙のホームページから 筆者抜粋
ルイ髙のサッカーゴール固定金具 株式会社ルイ髙のホームページから 筆者抜粋

香川県善通寺市の取り組み

 一方、地域に根ざした地道な活動も成果を上げている。2019年7月20日にこのYahoo!ニュース(個人)に書いた「サッカーゴール等の転倒事故を防ぐ〜その7〜」でも紹介したが、香川県で活動している「子ども安全ネットかがわ」は、香川県内の市町村の教育委員会を訪問して、それぞれの教育長に「要望書」を手渡し、サッカーゴール等の固定チェックの実施について意見交換をしている。

小学校での安全授業

 香川県善通寺市では、市内すべての小学校5年生を対象とした「安全授業」を行っており、児童の重大なケガを減らすための取り組みを継続的に実践している。この「安全授業」の講師は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センターの研究員で、NPO法人 Safe Kids Japanの理事も務める大野 美喜子さんだ。大野さんは毎年、善通寺市の小学校に出向き、全3回の授業を行なっている。1回目の授業では、児童は「ケガを減らす」ための基本的な考え方を学ぶ。2回目の授業では、各自タブレットを持って学校内を回り、自分が実際にケガをした、または日頃から「あぶない」と思っている場所を撮影し、その「あぶない」場所をどのように変えればケガをしないようになるかを考える。その際、実現可能性は問わず、自由な発想で考えてもらう。そして3回目の授業では、それぞれのアイデアを皆の前で発表する(下図)。

善通寺市で実施している「安全授業」 筆者撮影
善通寺市で実施している「安全授業」 筆者撮影

 児童が見つけた「あぶない」場所は、「事故とヒヤリハットの危険地図」(下図)としてまとめてリーフレットにし、全校の児童や保護者だけでなく、教育委員会にも配布される。善通寺市教育委員会はその危険地図を見て学校を視察し、必要に応じて改修や部品の交換を行っているという。児童のケガを減らすためには、授業を行なっただけでは不十分で、実際に危険な箇所の改修や交換が行われてこそ意味がある。善通寺市のこのような具体的な取り組みは大変すばらしい。

 今年度もこの安全授業が行われたが、その中で、ひとりの児童が校庭のサッカーゴールの写真を撮影し、「固定すること」や「ぶら下がらないこと」の重要性について発表したという報告を受けた。児童がサッカーゴールの危険に気づき、固定することの重要性を認識していることも、「子ども安全ネットかがわ」と善通寺市の継続的な取り組みの成果である。子どものケガを減らすためには、環境や製品を変えることがもっとも効果的である。子ども自身が危険に気づき、子どもによる提案によって安全が確保されることがあるということを、この善通寺市の取り組みは教えてくれた。

配布された「危険地図」 筆者撮影
配布された「危険地図」 筆者撮影

これからも「サッカーゴール等固定チェック」の活動を

 Safe Kids Japanでは、ゴール転倒実験や中学生によるゴールぶら下がり実験をし、ゴールの固定状況を撮影してシェアする「フォト・シェアリング」などさまざまな取り組みを行ってきた。実験の様子は日本スポーツ振興センター「学校安全Web」でも紹介されている。

 大川市の事故死から6年が経った。6年前に生まれた子どもは6歳になり、サッカーを始めている子どももいるだろう。保護者や指導者の皆さんは、どうか6年前のあの事故死を忘れず、ゴール固定のチェックと確実な固定をしていただきたい。

 6年前の事故を知らない方のために、昨年作成したSafe Kids ニュースをInstagramにアップしたので、ぜひ見ていただきたい。繰り返しになるが、ゴールの転倒によって子どもが重大なケガを負うことがないよう、ゴールの固定チェックと確実な固定をお願いしたい。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

山中龍宏の最近の記事