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報告された「水上エア遊具」の危険性

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:アフロ)

 2019年8月15日、としまえんの水上エア遊具で溺死の事例が発生した後、この遊具の危険性がいろいろなニュースで取り上げられている。前回、エア遊具によるやけどについて述べたが、それはNPO法人 Safe Kids Japanのホームページに設置されている「聞かせてください」欄に投稿されたものを取り上げた。

 今回、この欄に、以下の2件の投稿があった。

寄せられた体験談

 10歳以下の男児。身長120cm、体重19kg。

2018年7月、としまえんの「ふわふわウォーターランド」で、この男児は、今夏起きた事故と同じ遊具の下に入ってしまったが、自分でライフジャケットを脱いで助かった。身長制限を越えていれば、監視員がいるから保護者なしでも安心と、友達同士で遊ばせ、保護者はずっと近くで見ているのは暑いので近くの日陰にいた。

 監視員がいても事故が起こり得る遊具なので、保護者同伴必須にするか、廃止する等してほしい。

 10歳代の女児。身長115cm、体重32kg。

2018年8月、「海上アスレチック」という海の上に浮遊具を浮かべて遊ぶアトラクションで遊んでいたところ、浮遊具から浮遊具でできている通路へ飛び移る際に海へ落ちてしまった。浮遊具には落ちても登れるように梯子が付いており、この女児はそれを使い登っていたが、他の浮遊具が波で動いて梯子を登っていた女児に当たり、その衝撃で再度海へ落ちてしまった。その際、動いてきた浮遊具の下に頭部が入り込み、ライフジャケットを着ていた身体部分のみ浮遊具と浮遊具の間に浮かんでいる状態となった。慌てて監視員を呼ぼうとしたが、かなり離れており、すぐ近くにいた男性に助けを求め、引き上げてもらった。幸いけがなどもなく、浮遊具へ上がってからは自分の足で立ってアトラクションの外へ出た。

 浮遊具の下へ入り込めないよう網などを設置したり、浮遊具が動き過ぎないよう1つ1つの浮遊具を碇で固定してほしい。

同じ事故が必ず起こる

 子どもの事故は、世界で1件だけということは決してなく、必ず複数件発生する。新しい製品や環境が出現すると、必ず新しい事故が発生するーこれは子どもの事故の法則である。今回の投稿により、同じ遊具で、同じようなことがすでに起こっていたことがわかった。

 有名な「ハインリッヒの法則」では、1件の重大な事故の下には、29件の軽微な事故があり、300件のヒヤリ・ハットがあるとされており、今回投稿された2例もこの法則に当てはまる。

安全器具への危惧

 今回投稿された1例目の記載を読んで、ちょっと違和感があった。「遊具の下に入ってしまったが、自分でライフジャケットを脱いで助かった」という部分である。ライフジャケットは、しっかりと身体に固定して浮力を維持するための装具であるが、今回簡単に脱げたということは、しっかり装着されていなかったのではないかと思われる。そのため、遊具の下から逃げ出そうとしたときに水中で簡単に脱ぐことができたのではないか。逆に言うと、しっかり装着していたら遊具の下から抜け出せなかったかもしれない。

 安全のための器具は、それを使用する状況や使用方法を適切に行わないと危険な場合もある。子どもの安全のために作られた製品で事故が起こることもあるのである。

◆自転車に乗るときのヘルメット:ヘルメットをかぶったまま雲梯(うんてい)の上で遊んでいた時に落下し、ヘルメットが雲梯の横棒に引っかかって、ヘルメットのあごヒモで首が吊られてしまった。

◆ベッドガード:ベッドからの転落を防ぐために設置していて、乳児が隙間に挟まって窒息死した。

◆ベビーゲート:子どもが階段から転落することを防ぐために設置していたが、子どもが体ごとぶつかって、ベビーゲートとともに転落した。

◆自動車のチャイルドロック:子どもが自動車の中に入り込み、チャイルドロックのために出られなくなって熱中症で死亡した。

 

 ライフジャケットは、溺れを予防するための必須の装具であるが、ライフジャケットを着けて岩場で泳いでいて、岩のあいだに挟み込まれて死亡した例もある。今回のとしまえんの溺死例では、ライフジャケットを着けていたために水上エア遊具の下から脱出できなかったと推測されているが、それについて詳しく検証する必要がある。

今、行うべきこと

 死亡例が発生したので、早急に以下のことを検討する必要がある。

1 エア遊具についての検討

 これまで、地上や商業施設におかれたエア遊具については、消費者庁で取り上げられ、2011年1月31日には注意喚起が行われている。業界(日本エア遊具安全普及協会)の「安全運営の10カ条」が存在しており、経済産業省からは、エア遊具をメインにしたものではないが、「商業施設内の遊戯施設の安全に関するガイドライン」が2016年6月に出ている。

 しかし、最近ではエア遊具が巨大化しており、これまでのエア遊具の危険性の他に、水上に設置されることによる危険が加わっている。そこで、以下のような調査が必要と考える。

1 エア遊具としての上述の基準が守られているのかの調査(エア遊具の実態調査)

2 水上エア遊具の死角はどの程度か?本当に監視できるのか?などの視認性に関する調査(カメラを使った調査、人によるアンケート調査)

3 ライフジャケット着用時の危険の調査(今回のエア遊具底面における溺水の詳細な原因究明と、安全にライフジャケットを使うための水上エア遊具の条件の明確化)

4 骨折も起こっていることから、遊具の衝撃吸収性能などが十分かどうかの調査

5 やけども起こっていることから、エア遊具のやけど対策の検討

 重症度が高い事故が発生しているので、この検討は国が主体となって行うべきであり、ガイドラインの作成が必要であると考えている。また、今回の遊具が置かれているエリアには「ふわふわウォーターランド」という名称がつけられているが、「ふわふわ」という言葉の響きは、「ぶつかっても痛くない」、「やわらかくて、骨折など起こらない」というイメージを与える。実際には、骨折、捻挫、打撲傷、脳震盪などが多数発生しており、「ふわふわ」という表現は適切とは言えない。業界団体には、「やわらかさ」を強調するような表示はしないという申し合わせをお願いしたい。

2 傷害情報の収集と分析

 何事も情報がなければ、対策を考えることはできない。外国からの報告を見ても、エア遊具によるけがは多発している。これらの情報を継続的に収集して、分析をしなければ予防にはつながらない。今回、Safe Kids Japanに「溺れかかった経験」として投稿された2例がもしも昨年夏に投稿され、その情報を検討していれば、あるいは今回の不幸な溺死を予防することもできたかもしれない。

おわりに

 「二度と同じ事故を起こさないように」という常套句があちこちで聞かれるが、口先だけでは何も変わらない。やるべきことは、事故が起こった状況を科学的に検証し、実行可能な予防策を見出し、それを実行することである。

 保護者の方は、子どもが危ない目に遭った、あるいは病院にかかるような事故に遭った場合には、「自分が見ていなかったから」と考えず、その情報を現場の管理者、消費生活センター、消費者庁などに伝える必要がある。冒頭にも書いたように、今回の水上エア遊具の溺死に関連して、相次いでSafe Kids Japanに投稿があった。投稿された時間は、午後10時半、午後11時であった。その前には、水上エア遊具での溺死の予防策についての提案が、こちらも2件続けて投稿されてきた。施設管理者や消費者庁などは、アクセスできる時間が短く、どこに連絡したらいいかもわからず、敷居が高すぎて投稿しにくいのかもしれない。どんな時間帯でも、気軽に経験や意見を述べられる媒体が必要であり、Safe Kids Japanがその一翼を担うことができればいいと思う。

 ニュースを見て、自分の子どもも同じ事故を経験したと思う保護者は多いはずだ。ニュースでは目新しいことが取り上げられ、同じことには関心が向けられないが、子どもの事故を予防するには「同じ事故」の情報が大変重要だ。同じ事故が同じように起こり続けているということは、「予防が行われていない」、あるいは「予防が行われていると思われていても効果がない」ことを証明していることになる。すなわち、子どもが、これまで知られている事故に遭ったとしても、その情報を投稿する必要がある。

 事故の発生状況を詳しく記載して、Safe Kids Japanのホームページの「聞かせてください」欄に投稿していただきたい。よろしくお願いいたします。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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