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エア遊具による「やけど」

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:アフロ)

 日々、子どもたちは事故に遭ってケガをしている。同じ事故が同じように起こり続けている。予防するためには、事故が起こった状況を詳しく知る必要がある。多くの場合、子どもの保護者は、事故が起こった原因を「私が見ていなかったから」、「私が不注意だったから」と考え、事故の発生状況をどこにも伝えていない。東京都による調査が何回か行われているが、ほとんどの人は、子どもの事故が起こった原因は「大人にある」と考えており、起こった事故の情報を「どこにも伝えなかった」という回答が9割を超えている。

 事故が起こった情報がなければ、どう予防したらよいかわからない。事故が起こった時、「自分の責任」と考えてしまうことも課題だが、どこに情報を提供したらよいのかがわからないことも大きな課題である。事故を起こした製品の会社に電話しても担当部署がはっきりせず、最終的にはお客様苦情相談室に回され、「説明書には○○に気をつけてくださいと書いてある。当社の責任ではありません」という対応で終わる。行政に知らせようとしても、どの部署でも「うちの担当ではない」と言われてしまい、どこにも情報提供することができない。

 これらの状況を変えたいと考え、Safe Kids Japanのホームページに「聞かせてください」という欄を設けた。これまで、ほとんど投稿がなかったが、最近いくつかの投稿があった。

投稿された「エア遊具でのやけど」

 今回、投稿されたのは以下の内容である。

 4歳の男児。身長は100cm、体重は16kgで、4歳児の平均的な体格である。

 2019年8月初旬、屋内にあるエア遊具(全長9m、高低差は6m、表面はビニールのような素材)を4回滑り、摩擦により両肘にやけどをした。その場ではさほどひどくなかったが、4時間後には皮がめくれ、翌日に形成外科を受診した。痕跡は残ると診断された。

 この話を他でしたところ、受診するほどではないが、同じ経験をしたとの声をいくつか聞いた。スカートの女の子がお尻をすりむいた、男性のTシャツがめくれ上がって背中が痛かった、などの声も聞いた。

 施設に改善を求める電話をしたところ、

・注意喚起の看板:現場では気づかなかったが、「注意喚起の看板は出していた」と言われた。

・スタッフの配置:スタート地点にスタッフを1名配置し、そのスタッフは「腕を胸の前でクロスして手のひらを胸に当てるポーズで滑るよう」案内している(ただし、肌の露出によるやけどの可能性についての指摘はなかった)。

このように、注意喚起の看板を出し、スタッフも配置しているので、これ以上の対応はできないと言われた。

 同じように痛い思いをしている人がたくさんいる。肌が直接スライダーの表面に触れると摩擦によりやけどの危険があることを周知してほしい。特に夏場は肌の露出が多いので注意喚起を徹底してほしい。

対策としては

 前回、エア遊具による骨折について述べた。その中で傷害の種類の表を文献から引用したが、やけどは項目立てされていなかった。「その他」の項の中に入っているのかもしれない。

 やけどの発生メカニズムは明瞭である。摩擦係数が高いモノに、皮膚を一定時間以上、強くこすり続ければやけどとなる。

 予防策としては、

・スライダーの表面素材を摩擦が起きにくいものに変える。ただし、摩擦が起きにくいとスピードが出て、打撲や骨折の危険性が生じるので、素材の選定の際には十分なテストが必要。

・スライダーの傾斜をスピードが出ないように変える(今後、新しいものを作るとき)。

・直接肌が遊具の表面に触れないように長袖・長ズボンの衣服を着て、上着がめくれないように股下にベルトを通して滑る(係員がチェックして、規定の着衣をしていない人は滑らせない)。

などが考えられる。

 

 類似のエア遊具のスライダーが設置されている福岡のヤフオクドームでは「注意事項」として下記の表記がある。

※遊具内のすべり台等では摩擦による火傷などの可能性がございます。遊ぶ際は長袖・長ズボン等、摩擦熱による火傷から保護するようお願いいたします。

おわりに

 今回、エア遊具のスライダーによるやけどの報告をいただいた。すでに一部の施設では、やけどに対する注意事項を表記しているところもある。ということは、あちこちで同じようなやけどが起こっているということだ。4歳児には注意書きはわからない。「腕を胸の前でクロスして手のひらを胸に当てて滑るように」と指示されても、スピードが出て怖くなれば、床部分に手を付いてしまうのではないか。また、保護者もふわふわしている遊具でやけどするとは想像できない。

 このやけどを予防するには、遊具の遊び方の規則を作り、スライダーの滑り口の前で係員が滑る人の服装チェックをしてから滑走の許可を与えることを義務化する必要がある。

 今回、貴重な事例を提供していただいた方にお礼を申し上げます。医療機関にかからなければならないようなケガは予防策を考えねばなりません。それには、ケガをした状況を詳しく教えていただく必要があります。どこに相談したらいいかわからない時は、ぜひ、Safe Kids Japanのホームページの「聞かせてください」欄に投稿していただきたく、よろしくお願いいたします。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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