【幕末こぼれ話】新選組隊士を震え上がらせた恐怖のシステム「死番」とは?
このほど完結した人気漫画「ゴールデンカムイ」(作・野田サトル)の最終巻に、元新選組・土方歳三のこんなセリフがある。
「今宵はオレが死番だ。ついて来いッ」
これは京都で新選組副長として活躍していた頃を回想したセリフなのだが、土方のいう「死番(しにばん)」とはどういうものなのだろうか。実は新選組には、隊を強化するため、他に例のない非情のシステムが取り入れられていたのである。
新選組隊士に求められるのは度胸
意外に思われるだろうが、新選組には入隊にあたり実技試験というのはなかった。よく映画などで屯所の庭先で入隊希望者の剣技をためすシーンがあるが、ああいうものは実際にはなかったのだ。
そのかわり、新入隊の者ははじめは仮隊士として隊に受け入れておき、見習い期間中の夜中寝ているところに突然斬りかかったりして、その者の度胸をためした。この時あわてて逃げ出すようなら新選組隊士の資格なしとして除隊し、度胸ありと認められれば正式に入隊が許可されるのだった。
こうして新選組には勇気と度胸のある者が集まり、臆病な者は存在しないような組織づくりがなされていたわけだが、それでも実戦の場では一瞬躊躇してしまうような状況に出くわすことがある。
その躊躇を無くすシステムが、「死番」なのである。
あらかじめ決まっていた「死番」の日
京都には狭い路地や家屋が多いが、その中に潜んでいる敵を討つには、ためらわずに踏み込んで行かなければならない。しかし日頃は勇敢な隊士たちも、そうした場面ではどうしても一瞬突入が遅れることがあるという。
そこで考案されたのが、「死番」制度だった。隊士は四人で一組となり、あらかじめ順番を決めておく。このとき一番となった者が当日の「死番」であり、その日一日、危険な場所への突入はすべて先頭に立って行かなければならないのだった。
翌日は、前日二番だった者が繰り上がって「死番」となり、これを三番、四番と毎日ローテーションでまわしていった。つまり四日に一日は必ず「死番」がまわってくることになり、その日は敵に斬られて死ぬ可能性がぐっと増す、そんなプレッシャーを背負いながら彼らは日々の生活を送ったのである。
ただこのシステムにも利点があり、当番になった者は朝起きた時からすでに覚悟が決まっているから、実際の局面を迎えてもためらうことがない。その者は自動的に勇敢な戦士となって、敵中に突入することができるのだ。
隊士が命を投げ出す場面を、機械的に作りあげる「死番」という制度。なんと恐ろしく、かつ合理的なシステムというべきだろうか。