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AI時代になぜ? 日本語入力のATOKが「人力」で改善へ

山口健太ITジャーナリスト
ATOKが始めた「変換改善パートナー」制度(プレスリリースより、筆者撮影)

12月1日、ジャストシステムが2023年版の「一太郎」や「ATOK(エイトック)」を発表しました。

面白いのは、ATOKの改善のため、誤変換の事例をユーザーから募集するという新たな取り組みです。これまでAIを活用してきた同社が、なぜ人力に頼るのでしょうか。

ATOKの進化は「パーソナライズ」と「人力」で

国産の日本語入力システムとして知られるATOKは、2017年に変換エンジンにディープラーニング技術を採用。AIによって変換精度を高めてきました。

2023年は、個人に合わせて最適化する「パーソナライズ」を採り入れることで、Windows版の変換エンジンは6年ぶりに大きな進化を遂げるといいます。

たとえば「たんか」という言葉について、ビジネスパーソンのAさんは「商品」や「顧客」といった言葉と一緒に、「単価」を確定していたとします。

あるとき、ドラマを見ていて「担架」を確定しました。これまでのエンジンでは、その後の変換で「担架」を優先していたといいます。これはビジネス文書では誤変換になります。

そこで新しいエンジンでは、過去の入力傾向から判断して、本来入力したいと思われる「単価」に変換できるとしています。

パーソナライズの例(ジャストシステム提供資料より抜粋)
パーソナライズの例(ジャストシステム提供資料より抜粋)

同様に、「短歌」が趣味の人なら、それに近い単語と一緒に確定しているはずです。この場合、「たんか」を変換すると「短歌」が出てくるというわけです。

一緒に確定した単語に応じて個人に最適化される(ジャストシステム提供資料より抜粋)
一緒に確定した単語に応じて個人に最適化される(ジャストシステム提供資料より抜粋)

もう1つの新たな試みとしては、「ATOK変換改善パートナー」の募集が11月24日から始まりました。

これはATOKのユーザーに、ATOKを使っている中で気付いた誤変換を報告してもらい、それを開発チームが分析、反映していくという取り組みとのことです。

ATOK変換改善パートナーのイメージ(プレスリリースより)
ATOK変換改善パートナーのイメージ(プレスリリースより)

ただ、これまでAIを活用してきたATOKが、なぜ「人力」に頼って人海戦術のようなことを始めるのでしょうか。

ジャストシステムによれば、「ATOKはユーザーが入力、変換、確定したデータを送信していない。そのため、ユーザー環境での誤変換を収集できていなかった」(ソリューションストラテジー事業部 企画開発グループの國貞暁氏)とのことです。

実際のところ、ユーザー環境でどのような誤変換が発生しているのかというデータは、ATOKを改善していく上で貴重なものといえるでしょう。

しかし、キーボードからの入力にはプライバシーにかかわる情報が多数含まれていると考えられるため、取り扱いには慎重になる必要があります。

こうしたデータを収集しないという方針は、「お客様に安全に使っていただくために意図的に行っていた」(國貞氏)とのこと。その上で、実際に起きている誤変換を直していくため、「困っているユーザーの方から自主的に報告いただくというアプローチを始めた」(同)としています。

日本語変換がどう改善されるか期待

筆者自身も長年のATOKユーザーであり、ほとんどの原稿をMac版のATOKを使って執筆しています。

たしかに、日本語の入力機能自体はパソコンやスマホに標準で搭載されており、あえてお金を払ってまで有料のツールを使おうという人はそれほど多くないかもしれません。

その中でも、日本語環境に特化した機能を備えているのはATOKの魅力であり、現実に起きている誤変換を報告する窓口ができたというのは興味深いところです。

日本語の文章を書くことにこだわりがある人向けのツールとして、どのような改善が進むか期待しています。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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