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「楽天経済圏」証券・銀行の優遇も引き下げ。2022年はどうなる?

山口健太ITジャーナリスト
楽天証券と楽天銀行の優遇措置に「改悪」(楽天銀行のWebサイトより)

12月27日、楽天証券と楽天銀行が相次いで優遇策の引き下げを発表。Twitterではビジネス分野のトレンドに載るなど話題が広がっています。楽天経済圏で続く「改悪」が注目される中で、2022年は引き続きモバイル事業が鍵を握ることになりそうです。

楽天証券には、投資信託の保有額に応じて毎月ポイントが付与される仕組みがありました。これが2022年4月から大きく変更され、一定の残高を「はじめて」達成した時点での1回きりの付与になります。

この仕組みは2021年8月にも「見直し」されており、たとえば「つみたてNISA」で人気の高い全世界株式の投資信託の場合、1000万円分を保有していても毎月付与されるのは200ポイントに下がっていました。とはいえ、何もしなくても毎月自動的にもらえていたポイントがなくなるというのは寂しいものです。

もう1つ、楽天を活用した資産形成の軸となっているのが、楽天証券と楽天銀行の口座連携(マネーブリッジ)です。これを設定すると、証券会社にいちいち入金をする必要がなくなり、楽天銀行の普通預金を楽天証券から利用できるようになるというもので、12月には300万口座を突破しています。

単に便利であるだけでなく、マネーブリッジを設定すると普通預金の金利が年0.10%になるという優遇措置がありました。しかし2022年4月からは、300万円を超える部分の金利が年0.04%(いずれも税引き前)に下がることになります。

たとえば楽天銀行に500万円の預金があり、マネーブリッジを設定している場合、もらえる利息は1年間で5000円から3800円(税引き前)に下がります。メガバンクの普通預金では年利0.001%、利息はわずか50円であることに比べれば大きな違いがあるものの、やや残念な変更といえます。

どちらの変更も、資産形成を始めたばかりの人にはほとんど影響なさそうです。影響を受けるのは、すでにある程度の資産を持っている人といえるでしょう。SNS上には不満の声があるものの、メインの金融機関を変えるのは面倒なので、ただちに楽天をやめるという人はそれほど多くないと予想されます。

一方で、他社にとっては楽天ユーザーを経済圏に呼び込む機会になりそうです。すでに資産がある人に来てもらえれば、さまざまなサービスを使ってくれる可能性が高いといえます。これから始める人には「いまから始めるなら楽天より有利ですよ」とアピールできるでしょう。

楽天以外の選択肢として、auは銀行や証券、カードなどの連携で「年0.20%」の優遇金利を提供。SBI証券は投資信託の保有金額に応じてTポイントやPontaポイントを付与しており、三井住友カードと組んで投資信託のカード決済時にポイントを還元しています。

PayPay証券は、まだNISAに対応していないなど機能的に不足している感はあるものの、PayPay銀行の口座残高を利用できる連携サービスを開始するなど、着々と対抗策を準備しているようです。

「トータルで見ればおトク」維持できるか

楽天以外の選択肢は徐々に増えてきているものの、楽天経済圏はまだ優位性を保っている印象です。2022年に注目されるのはやはり楽天モバイルの動向です。

たとえば大手キャリアから移行して料金を節約したり、期間限定ポイントをモバイルの支払いに充当したりできれば、一連の細かな「改悪」を余りある利益を得られることになり、「トータルで見ればおトク」と感じるはずです。

一方で楽天モバイルは、iPhoneへの着信問題やエリア拡大などで苦戦が続いています。既存の大手キャリアの品質に慣れた消費者を満足させるにはまだまだ投資を続ける必要がありそうです。

経済圏争いにおいて、楽天のこうした「弱み」を他社は見逃さず、競争が進むと予想されます。2022年は楽天経済圏の包囲網を作る動きがどれくらい進むか注目です。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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