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アイオワで善戦。初の女性大統領誕生の可能性も!ニッキー・ヘイリーはアメリカンドリームの体現者

山田順作家、ジャーナリスト
トランプとの一騎討ちをするとニッキー・ヘイリー(写真:ロイター/アフロ)

■熾烈な2位争いもデサンティスに及ばず

 1月15日の共和党のアイオワ州のコーカス(Iowa Caucuses:党員集会)で、ニッキー・ヘイリー候補(元サウスカロライナ州知事)が、予想通り善戦した。3位では善戦と言えないという声もあるが、それでも約2割の支持を獲得したことには意義がある。

 以下が、その結果(開票率96%)。

( )内は13日のNBCニュース/デモイン・レジスター/メディアコムによる最終世論調査の数字。

トランプ:51.0%(48%)

デサンティス:21.2%(16%)

ヘイリー:19.1%(20%)

ラマスワミー:7.7%(8%)

ハッチンソン:0.2%(1%)

 人口の約90% が白人でエヴェンジェリカル(福音派)が主流であることを考えると、インド系移民の2世であるヘイリーが2番手とされたロン・デサンティス候補(フロリダ州知事、45歳)と接戦を演じたことは、画期的な出来事と言える。

■今後トランプと一騎討ちをすると宣言

 例年なら、大統領選挙の年は、民主党もアイオワ州で予備選の第1弾を行っていた。しかし、今年は郵便投票に切り替えてしまい、その結果は3月5日のスーパーチューズデーに公表される。よって、今回は共和党だけの結果だが、そのなかで僅差の3位を確保したことで、今後への期待が膨らんだ。

 コーカス終了後、集まった支持者の前で、ヘイリーはこう言った。

 「今後の選挙戦を2人の争いにしてみせます」

 2人とはいうまでもなく、トランプとヘイリーである。彼女はトランプと一騎討ちをすると宣言したのだ。

■なぜ、ヘイリーは善戦できたのか?

 かつてはトランプにとって代わる可能性があるとされたデサンティスの人気は、思ったほど伸長しなかった。いち早くアイオワ入りし、全99郡を遊説して歩いたが、その効果はそれほどではなかったと言える。

 昨年2月、大統領選への出馬を宣言した時点で、ヘイリーの支持率は2%にすぎなかった。それが、昨夏の候補者討論会で存在感を示し、年末には世論調査でデサンティスに迫るまでになった。なぜ、ヘイリーはここまで躍進できたのだろうか? 

 それは、「トランプではバイデンに勝てない」と訴え続け、反トランプの姿勢をじょじょに明確にしてきたからだろう。反トランプの急先鋒だったクリス・スヌヌ候補(ニューハンプシャー州知事、49歳)が、アイオワ・コーカスの直前に撤退したことも大きい。

■若い世代はトランプよりヘイリー支持

 ヘイリーの躍進で注目すべきは、アイオワ99郡のなかのストリー郡(Story County)とジョンソン郡(Johnson County)で、トランプと僅差になったことだ。ジョンソン郡では、トランプをわずか1票だが上回った。

 ストリー郡:トランプ34%、ヘイリー30%

 ジョンソン郡:トランプ35.5%、ヘイリー35.5%

 ストリー郡の中心都市エイムズ(Ames)は人口約6万6000人で、アイオワ州立大学がある学園都市。同じくジョンソン郡の中心都市アイオワシティは人口約7万5000人でアイオワ大学がある学園都市。

 つまり、若い世代(Z世代、ミレニアル世代)の多くは、トランプよりヘイリーを支持したのである。アメリカは日本以上の学歴社会のため、出口調査では有権者に大学卒か非大学卒かを聞く。

 CNNの出口調査によると、大学卒のトランプ支持率は36%、ヘイリー支持率は30%だった。

 ちなみに、共和党のアイオワ・コーカスの結果が、そのまま共和党の大統領候補者選びに結びつくとは限らない。

 1976年以降9回の共和党のアイオワ・コーカスで、第1位となった後に党の指名を獲得した候補者は、ジェラルド・フォード(1976年)、ボブ・ドール(1996年)、ジョージ・W・ブッシュ(2000年)、トランプ(2020年)の4人だけ。そして、その後に大統領選で勝利したのはブッシュだけである。

 今後の展開次第だが、もしヘイリーがトランプを逆転すれば、彼女はアメリカ初の女性大統領になる可能性がある。

 では、ニッキー・ヘイリーとはどんな女性なのか?

■両親はインド出身のエリート教育者

 彼女の経歴を簡単にまとめると、サウスカロライナ州出身で両親はインドからの移民。2004年、サウスカロライナ州の下院議員選挙に共和党から出馬し、決選投票で現職議員を破り当選。その後、下院議員を3期務め、2011年にサウスカロライナ州知事に就任。この時点で38歳であり、全米でもっとも若い州知事となったため、知名度は全国区になった。

 2017年からは、トランプ政権において国連大使を2年間務め、政治家としてのキャリアを積んだ。そうして、2023年2月に大統領選挙に出馬することを表明し、今日にいたっている。

 生い立ちについて述べると、出生は1972年1月20日、サウスカロライナ州バンバーグ。父親のアジット・ランダハワと母親のラジはインドのパンジャブ州出身のシク教徒で、父親のアジットはパンジャブ農業大学の教授、母親のラジはデリー大学の法学部の卒業生だった。2人ともインドのエリートである。

 2人は、アジットがカナダのUBC(ブリティシュコロンビア大学)の奨学金を得たためカナダに留学し、アジットがUBCでPhDを修得すると、サウスカロライナのVoorhees College(ビアヒーズ大学)の生物学の教授の職を得たためサウスカロナイナに移住した。

 母親のラジは、当地で公立学校の教師となって、ニッキー・ヘイリーを産んだ。

■2歳年上の州兵と結婚し1男1女の母に

 ニッキーは、2男1女の3人きょうだいのなかで、愛情たっぷりに育てられ、Orangeburg Prep School(オレンジバーグ・プレップスクール)からClemson University(クレムゾン大学)に進学。1994年に、会計学のバチェラーを修得して卒業した。彼女は10代のころから、母親が始めた小さなブティックを手伝い、大学卒業後もそれを続けて商工会議所のメンバーとなった。

 結婚は22歳のときで、相手は2歳年上のマイケル・ヘイリー(Michel Haley)。結婚を機にニッキーは、夫の姓のヘイリーに改名してヘイリーを名乗るようになった。また、改宗してシク教徒からメソジスト(Methodist)となった。マイケルは、サウスカロライナ州の州兵で、2012年には陸軍大尉としてアフガニスタンに派遣されている。

 2人の間には、1男1女がいる。長女レナ(Rena)は現在25歳で、看護師として働いている。長男ナリン(Nalin)は22歳で大学4年生だ。

 2人の子供は、母の大統領選挙のキャンペーンに積極的に協力し、FOXテレビなどのインタビューに登場している。ヘイリーにとって、自慢の子供たちと言える。

 彼女は支持者に向けた演説では、常に「夫マイケルと子供たちに感謝している。私がここにいるのは家族のおかげ」と言ってきた。

■貧困層の子供を助け「コモンコア」を放棄

 ヘイリーの州知事時代の業績で特記すべきは、いくつかあるが、その一つが移民政策。もう一つが教育政策だろう。

 彼女は、共和党の強硬保守派らしく、就任するとすぐに不法入国を厳しく取り締まる議案を承認した。この議案により、在留資格が疑われる人々に対して在留資格の確認が義務化された。

 教育政策も共和党知事らしく、貧困層の子供に対しての支援を惜しまなかったかたわらで、「コモンコア」(Common Core:各州共通の基礎学習スタンダードで、日本の文科省の学習指導要領のようなもの)の導入を拒否した。

 民主党州のカリフォルニアのようなことを、子供たちにしたくない。教育は自由であるべきだと主張した。

■その名を一躍高めた南部連合国旗の撤去

 彼女の政治手腕が全米規模で評価されたのは、2015年6月のチャールストン教会銃乱射事件の処理だった。このとき、白人至上主義者の犯人が車のナンバープレートに「南部連合旗」(Confederate flag)を付けていたことから、州議会議事堂に掲げられていた南部連合旗が槍玉に挙がった。

 すると、ヘイリーは即座に南部連合旗を撤去すること決定したのである。

 この決定は、保守政党である共和党としてはありえないことだった。民主党なら撤去は当然だろうが、共和党となると微妙である。ところが、ヘイリーは超党派での合意を取り付けることに成功した。

 そのときの思いを、ヘイリーは、子どものときに父親が受けた人種差別体験を披露して説明した。父親が無人の農産物販売所で買い物をしようとしたとき、突然、警官が2人現れて、父親が代金を払うまで見届けたという。

 以下は、ヘイリーが「NYタイムズ」の記事で語った内容だ。

「その農産物直売所はいまも同じ場所にあり、そこを車で通るたびに痛みを感じます。あの南部連合旗に、同じ痛みをこれほど多くの人たちが感じてきたのだと気づいたのです」

「これは私にとって個人的なことなのです。私はインド系移民の娘であることを誇りに思っています。両親はアメリカにやってきて、南部の小さな町に落ち着きました。父はターバンを巻いていました。母はサリを着ていました。私は、黒と白(黒人と白人)の世界で、褐色の少女でした。私たちは差別と苦労に直面しました。でも両親は、不満と憎しみに負けることがなかったのです」

■今後のスケジュールはヘイリーに味方

 では、はたしてヘイリーはトランプに勝てるのか? はっきり言って、その可能性は十分にある。というのは、今後の予備選のスケジュールが、次のようになっているからだ。

1月23日:ニューハンプシャー州で共和民主両党が予備選

2月3日:サウスカロライナ州で民主党予備選

2月6日:ネバダ州で民主党予備選

2月8日:ネバダ州で共和党コーカス

2月24日:サウスカロライナ州で共和党予備選

3月5日:スーパーチューズデー(民主・共和両党がアラバマ、アーカンソー、カリフォルニア、コロラド、メイン、マサチューセッツ、ミネソタ、ノースカロライナ、オクラホマ、テネシー、テキサス、バーモント、バージニアの各州で予備選。ユタ州で民主党が予備選、共和党がコーカス。アラスカ州で共和党予備選)

 アイオワの次のニューハンプシャーは、これまでの世論調査(共和党系の「アメリカン・リサーチ・グループ」の調査)では、アイオワ以上にヘイリーがトランプとの差を詰めている。昨年12月と先日の世論調査を比較すると、トランプの33%→37%に対し、ヘイリーは29%→33%と、なんと4ポイント差に迫っている。

 しかも、ニューハンプシャーの予備選は「オープン・プライマリー」(Open Primary)で、共和党員・支持者でなくても投票できる。非共和党員や無党派の票がヘイリーに流れれば、トランプ逆転は可能だ。

■大勢が決するのはスーパーチューズデー

 ニューハンプシャーの次はネバタ、その次はサウスカロライナ。ここは、ヘイリーの地元である。ニューハンプシャー、ネバタでトランプに及ばなかったとしても、サウスカロライナではヘイリーは負けられない。となると、地元勝利で勢いがつけば、スーパーチューズデーはどうなるかわからない。

 いずれにしても決定的な瞬間は3月5日のスーパーチューズデーに訪れる。ここで、トランプが勝利を決定付けることに失敗すれば、ヘイリーが一気に躍り出る可能性がある。

 ちなみに、スーパーチューズデーの前日の3月4日は議事堂襲撃事件でトランプのワシントンの裁判が始まる日である。 これに続いて口止め料の件でのニューヨークの裁判も始まる。トランプは選挙戦と裁判を同時に戦っていかなければならなくなっている。

■対バイデンなら初の女性大統領の誕生か?

 3月のスーパーチューズデーで大勢が決まった後、残りの州で予備選、コーカスが行われ、共和党は7月15〜18日の共和党全国大会(ウィスコンシン州ミルウォーキー)で、候補者を正式に決定する。民主党は8月19〜22日の民主党全国大会(イリノイ州シカゴ)で、候補者を正式に決定する。

 大統領選挙の本選は、11月5日。ここで、第47代アメリカ大統領が決まる。

 それでは、ヘイリーが共和党の指名を獲得し、民主党バイデンとの一騎打ちになったと仮定してみよう。

 「ウォール・ストリート・ジャーナル」が昨年12月に行った世論調査では、ヘイリー対バイデンの場合、ヘイリーの全米での支持率はバイデンを17ポイント上回っていた。トランプの場合、リードは4ポイントに過ぎなかった。

 インド系移民の娘として、10代のころから母親が始めた小さなブティックを手伝いながら勉学に励み、州知事、国連大使となったニッキー・ヘイリーは、アメリカンドリームの体現者でもある。アメリカ国民は、こういう人間を好む。 

 しばしば大逆転が起こるアメリカ大統領選挙。初の女性大統領誕生は夢ではなくなった。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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