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大阪万博は世界の物笑い。2030年リヤド(サウジ)万博決定で、日本の先進国転落を見せつけるだけ

山田順作家、ジャーナリスト
サウジの未来都市「NEOM」(出所:https://www.neom.com/)

■釜山、ローマを大差で破って圧勝したリヤド

 2023年11月28日(現地時間)、パリで開かれた博覧会国際事務局(BIE)の総会で、次回2030年の万博の開催地がサウジアラビアの首都リヤドに決まった。ほかの立候補都市は、韓国・釜山とイタリア・ローマの2都市にすぎず、全体の3分の2超の119票を集めたリヤドの圧勝だった。

 ちなみに、釜山は29票、ローマは17票。

 この結果は予想通りで、韓国の釜山の追い上げはあったものの、開催計画を見ると、釜山、ローマはリヤドの足元にも及ばなかった。

 韓国・釜山のプレゼンが、BGMにPSYの『江南スタイル』を使ったため「釜山と関係ないではないか」と不評を買ったという見方も出たが、それは些細なことにすぎない。もともと、釜山の立候補表明は昨年7月と遅く、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の政権浮揚策がミエミエで、ハナから投票2位狙いだった。

■サウジ開催決定により完全に見劣りした大阪

 2030年の万博がリヤドに決まったことで、2025年の大阪を挟んで、2020年(コロナ禍で2021年)のドバイに続き、中東地域で2回も万博が開かれることになった。

 そのため、なぜ中東なのか?という声が聞かれるが、これで一気に霞んでしまったのが大阪万博だ。

 なぜなら、リヤド万博は世界に最先端のスマートシティがどんなものかを見せつける万博になるからだ。すでに、大阪万博は先のドバイ万博より見劣り、現在の世界の最大のテーマであるSDGsも満足にできそうもない。

 なにしろ、現時点で、各国のパビリオンすらまともにできるかどうかわからない。その結果、無理やり、タイプXというプレハブのパビリオンに参加国を押し込もうとしている。

 これに対してサウジは、すでにムハンマド皇太子を中心にしたプロジェクトが進展しており、参加国は1国1パビリオンとし、建設運営費を3億ドル以上(約450億円)提供すると表明している。

 計画では、ドバイ万博の2倍近い4000万人以上の来場者を世界から集める予定で、すでに観光ビザも移住ビザも大幅に緩和している。これに対し、大阪は2820万人、来場者のほとんどが日本人という見積もりだ

■世界の度肝を抜くサウジの未来都市建設

 なぜ、2030年万博にリヤドが選ばれたのか? その理由は、サウジにはオイルマネーを基盤とした潤沢な資金があるうえに、現在、世界最先端を行くスマートシティ「NEOM(ネオム)」の建設が進んでいるからだ。

 NEOMの建設は、サウジが進めている「ビジョン2030」の一環で、そのスケールの大きさは、世界の度肝を抜くものだ。紅海の北、サウジ北西部に建設中のNEOMの総面積は2万6500平方キロメートルで、ベルギーの国土(3万690平方キロメートル)に匹敵する規模。海岸線は紅海沿いの468キロメートルに及んでいる。

 サウジは「ビジョン2030」により、未来がない石油依存経済から脱却しようとしている。そのため、石油収入のほぼすべてをつぎ込んで、この国家プロジェクトを進めている。サウジの国営石油会社「サウジアラムコ」は、世界最大の利益企業。去年の決算の純利益は1611億ドル(約24兆円)である。

 「ビジョン2030」では、現在、発電の42%を占める石油を、2030年までにNLG50%と再生可能エネルギー50%の混合に置き換える。そうして、NEOM内の交通手段は、その4割を空飛ぶクルマ、飛行機とし、敷地内の95%は環境保全のため自然をそのまま残すという。

■クリスティアーノ・ロナウドはなぜサウジに移籍したのか?

 「ビジョン2030」にしたがい、サウジはいま、世界中から、ハイテク、先端企業を集め、優秀な人材も呼び込もうとしている。その一環として、なんと、世界最高のスポーツ人材も、カネに糸目をつけないで集め出した。

 すでに世界を驚かせたクリスティアーノ・ロナウドのリヤドを本拠地とするサッカーチームのアル・ナスルへの移籍。その移籍年俸は、2年で2億ドル(約300億円)と報道された。続いて、ネイマール、ベンゼマ、メッシなども、超高額年俸で次々にサウジのチームに移籍した。

 スーパースターを集めれば、世界からヒトもカネもやってくるという考えだ。万博開催も、この論法で進められている。

 資金を出しているのはサウジの政府系ファンドPIFで、すでにPIFの支援により、ゴルフの世界ツアー「LIVゴルフ」が始まり、LIVはアメリカのPGAツアーと統合した。

 競馬では、2020年からサウジアラビアジョッキークラブが世界最高賞金の国際競走「サウジカップ」を始めた。8つの国際競走の最高峰「サウジカップ」の優勝賞金は1000万ドル(約15億円)で、今年、日本のパンサラッサが優勝した。

■スマートシティ指数で大阪は90位とはるか下位

 内閣府のHPでは、スマートシティが次のように解説されている。

《スマートシティは、ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場と定義されています。》

 現在、世界の多くの都市でスマートシティ化が進んでいる。スイスの国際経営開発研究所(IMD)では、毎年「スマートシティ指数」(Smart City Index)を発表しているが、2023年版では大阪は90位(世界141都市中)で、はるか下位に沈んでいる。そればかりか、2019年、2020年、2021年(2022年は調査なし)と、年を追うごとに、63位→80位→86位と順位を落としている。

 ちなみに、東京は、62位→79位→84位。

 このままでは、2025年大阪万博は、世界に恥をさらし、日本の凋落、先進国転落を見せつけるだけになるだろう。政治家も私たち国民も、旧来の見方を捨てて、この国を真剣に立て直す瀬戸際にきている。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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