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「本当にやるのか大阪万博?」と言うより、もうできないのは明白なのにそれを認めない政治の傲慢

山田順作家、ジャーナリスト
もう夢想を語るのはやめにしてもらいたい(写真:つのだよしお/アフロ)

■日毎に増えていく開催費用、税負担

 2025大阪万博に対し「やめろ!」という声が、日増しに高まっている。11月27日の国会答弁で、当初の建築費用がほぼ倍増の2350億円になったうえ、さらに日本館整備費用などで約840億円がかかることが明らかになったからだ。

 その内訳は、自見英子万博担当相によると、日本館建設360億円、発展途上国の出展支援240億円、会場内の安全確保199億円、全国的な機運醸成38億円などである。

 もちろん、費用はさらにかさむのは間違いない。しかも、直接の万博経費としては計上されないインフラ整備費がある。たとえば、地下鉄延伸工事96億円、夢洲駅構造強化33億円、夢洲駅関連施設30億円、淀川左岸線の仮設道路50億円などだ。

 これでは、それを負担する国民(大阪府民も含めて)が、「当初の話と違う」と怒るのも無理もない。しかも、いまだに「想定来場者数2820万人、経済波及効果2兆円」と言っているが、その根拠がはっきりしない。むしろ、現状のままではマイナスの経済効果しかないのは明らかだ。

■日建連会長「デッドラインはもう過ぎている」

 すでに私は、大阪万博に関して、この欄に何度か寄稿し、前回の寄稿では「現代のインパール作戦」になると警告した。

 大阪万博の問題点はいくつかあるが、最大の問題とされている「税金の無駄遣い」、すなわちカネの問題を批判する時期はもうとっくに終わっている。カネの問題よりも問題なのは、いくら万博を「やる」と言っても「できない」ことだ。このままでは、当初の絵図通りの万博はできない。

 これは、11月27日の記者会見で、日本建設業連合会の宮本洋一会長(清水建設会長)が、海外パビリオンについて「デッドラインはもう過ぎている」と表明したことで明らかだ。現段階でタイプA(自前パビリオン)はほとんど発注すらされていないのだ。

 宮本会長は、タイプA希望国と建設会社が今後打ち合わせをするとしても、「よほど簡易な構造であるか、あるいは部材調達のめどが立っているなど、特段の事情がないと(開幕までに間に合わせるのは)難しい」と述べた。

 日本の大手ゼネコンのトップがこう言う以上、もう、時間が足りないのである。

■1年半あってもまったく足りない

 資材費高騰、労働者不足、脆弱な地盤、宿泊施設が無い島への経路が2本しかないことなど、これまでさんざん指摘されてきたにもかかわらず、万博協会は有効な手立てを打ってこなかった。

 時間を無駄に使い、とうとう、万博開催ができないところまで追い込まれたのである。

 ハコモノを建設するにあたって、当初計画期間が1年であっても1.5倍の1年半はかかるのは常識とされる。これは、気候の問題もある。地球温暖化で、いまや日本の夏は熱帯化し、来年も猛暑になるのは間違いない。それに、記録的豪雨も加わる。

 となると、1年半あってもまったく足りない。

■苦肉の策のタイプXも参加表明国わずか

 タイプAに関してはもう無理として、万博協会が苦肉の策として考え出したのがタイプXだ。これは、協会側が簡易型のパビリオンを建てて各国に引き渡し、内装や外装を手掛け、建設や解体費用は各国持ちとするというもの。

 しかし、メキシコなど複数国が出展そのものから撤退したこともあり、タイプAからタイプXへの移行を表明した国は5カ国にも満たない。

 ところが、このような開催不可能という現状を、万博を推進してきた政治側は認めようとしない。

 日本維新の会の馬場伸幸代表は、11月26日のインターネット番組で、「絶対にやめない。国のイベントだから、世界から信用を失う」と言い放った。

 すでに岸田文雄首相は、8月31日の時点で、「首相として万博成功へ先頭に立って取り組む」と表明している。

■ドバイ万博に匹敵することすらできない

 このまま大阪万博が無理矢理開催されたらどうなるだろうか? 前回のUAEドバイ万博と比べて、みすぼらしいうえ限りなく、未来へのメッセージなどなにもないに等しいものになるだろう。

 ドバイ万博は、コロナ禍の中でも開催する意義があった。それは、UAEが世界に先駆けて世界最大規模のスマートシティ建設を進め、脱炭素社会へ国をあげて移行しようとしているからだ。アブダビでは、2006年からスマートシティ「マスダール・シティ」の建設が進み、CO2を排出しないゼロエミション交通網が整い、電力供給はすべて再エネでまかなわれるようになった。国際再生可能エネルギー機関 (IRENA) の本部が置かれ、MITの分校も設置された。

 同じく、ドバイでは、オイルマネーをクリーンエネルギー開発マネーに転換して、温暖化経済の最先端を行くスマートシティづくりが進められてきた。そのため、世界一の規模を誇る「スワイハン太陽光発電所」をつくり、CO2を排出しないグリーン水素の生産にも着手した。その成果が、ドバイ万博では披露された。再エネの活用、水資源の削減、プラごみの分別リサイクルなど、徹底したSDGsへの取り組みが行われたのである。

 ドバイ万博で特筆すべきことは、開催後に主要建物を取り壊さず、サステナブルなスマートシティ「エキスポシティ・ドバイ」とし、いまも継続的な街の建設が行われていることだ。

 はたして2025年大阪の夢洲で、ドバイに匹敵する万博ができるだろうか?

■「木造リング」の内側は空き地だらけか?

 大阪万博は、2025年4月13日に開幕し10月13日に閉幕する。約半年間の開催である。

 今年の気候状況からみて、この半年間、ずっと夏日(最高気温25度以上)、真夏日(最高気温30度以上)、猛暑日(最高気温35度以上)が続くだろう。とくに7月、8月は連日猛暑日となるはずで、ひなたは歩けない。

 となると、世界一高い350億円の日傘と揶揄される「木造リング」は必要かもしれない。しかし、その内側は、空き地だらけになり、数館のタイプAのパビリオンとプレハブ式のタイプXのパビリオンがまばらにある。そして、最大規模でまともなパビリオンは日本館だけとなるだろう。もしかしたら、すべてのパビリオンが完成するのは、閉幕日になるかもしれない。

 日本館のテーマは、「いのちと、いのちの、あいだに」で、「はじまりもおわりも存在しないひとつの循環の中で、あなたは何を感じ、何を考え、何を受け継ぐでしょうか」というメッセージがHPで掲げられている。

 先の国会答弁にあった上乗せ経費には、「発展途上国の出展支援240億円」とある。しかし、発展途上国というのは日本の方ではなかろうか。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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