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馬鹿げたコロナ入国規制継続で、日本のガラパゴス化が止まらない!

山田順作家、ジャーナリスト
著者撮影

■「値上げの秋」が目前なのにコロナ感染

 世界中で、気候変動、異常気象が続いているので、農産物はみな不作。それに加えて資源価格の上昇で、今年の秋は「値上げの秋」になるのは確実だ。

 それなのに、岸田内閣は、有効な手を打てないでいる。すでに「何もしない」と有名になったが、あろうことか、岸田首相自身が新型コロナに感染してしまった。

 このことは、本当に情けないとしか言いようがない。

 旧統一教会との「縁切り改造内閣」に失敗したというのに、夏休みを取り、ゴルフに静養旅行。その間に感染したのだから、責任感がなさすぎると批判が出るのは当然だ。オンライン会見でも、明確な答弁はせず、ほとんどの政治課題を放置したままの状態を続けている。

 コロナ感染者数が世界一になっても、記録的な気候変動で大雨被害が起こっても、ほぼほったらかしである。

 そんなほったらかしのなかで、早急に手を打ってもらいたいのが、入国規制の撤廃である。 

■緩和はしたものの厳しすぎる入国条件

 次の2つのグラフを見てほしい。これが、いまの日本の現状だと思うと、愕然としないだろうか。

 このグラフは、トラベルボイスのHP(出典:日本政府観光局)にあるものもので、一つは「訪日外国人数」の推移、もう一つ「日本人出国者数」の推移だが、両者とも激減したまま、まったく回復していない。

 まず、訪日外国人数だが、政府は、6月、水際対策を緩和し、外国人観光客の受け入れを再開したが、7月の訪日外国人数は14万4500人。コロナ禍前の3年前と比べて、20分の1以下だ。なかでも、観光目的での入国は1カ月で、わずか7903人である。

 そのため、かつて外国人でにぎわった観光地は、寂れていく一方になっている。

 これは、規制緩和したといっても、観光目的の入国は団体ツアーに限り、さらに入国に際してはビザ取得のうえ、PCR検査(出国72時間前まで)と陰性証明の提出も義務付けたからだ。

 世界中でコロナ規制が緩和されたいま、事前のPCR検査を課す国は、主要国では中国と韓国ぐらいしかなく、欧州各国も、アメリカもやっていない。

■日本を素通りの「ジャパン・パッシング」

 コロナ禍のここ2年8カ月を振り返れば、当初、訪日外国人が激減したのは、やむを得ない。日本だけではなかったからだ。日本政府観光局によると、昨年の訪日外国人数は24万5900人。コロナ禍以前の2019年の3188万2049人と比べると、99.2%減。2020年の411万5828人比でも94.0%減である。

 しかし、今年の後半は、この2年間と同様である必要などどこにもない。すでに、ほぼ世界中が、規制を撤廃して観光復活に邁進しているからだ。

 6月の規制緩和を受けて、外国人の訪日旅行を扱う旅行業者は、営業を再開した。しかし、あまりの規制の厳しさに、ほとんど人が集まらない。来るのは、日本が大好きなアジアのプチ富裕層だけだ。

 いくら、円安効果があるといっても、規制の厳しさに尻込みするという。コロナ禍前に訪日外国人の主流を占めた中国がまだ鎖国している以上、頼りは東南アジアのプチ富裕層だが、彼らは個人旅行を好み、日本を素通りしてしまっている。

 東南アジアから成田へのJAL便などは、乗客の半分以上が外国人だが、彼らは成田をスルーして、ハワイやアメリカ本土などに向かう。いわゆる「ジャパン・パッシング」だ。 

 こんな状況なのに、人気テレビ番組『YOUは何しに日本へ?』は、まだ奮闘している。

■PCR陽性で帰国できない日本人が続出

 入国の際のPCR検査と陰性証明書の提出は、外国人ばかりか日本人帰国者にも大きな影響を与えている。これがある限り、日本人の海外旅行客は増えない。

 グラフにあるように、2022年7月の日本人出国者数は27万7900人となり、前月から約10万人増えた。しかし、たった10万人である。

 これをコロナ禍前と比べると、2019年6月は165万9166人だったから、83.3%減である。コロナ禍のまったただ中の2021年の1年間の日本人出国者数は51万2200人。2019年は2008万669人だったから、97.4%減の大幅減である。  

 これは、出入国規制が“水際対策”だったからだ。

 しかし、いまや水際対策をやる意味があるだろうか。

 感染者数世界一になった日本のほうが、海外よりはるかに感染リスクが高い。また、帰国便の飛行機では、PCR検査を受けていない日本入国スルーの外国人と同乗する。

 今夏、海外で規制がなくなったため、海外旅行に出かけた日本人は確かに増えた。しかし、現地でのPCR検査で陽性になったケースも多く、そうなると、陰性になるまで延泊し、航空券の変更をしなければならない。予期せぬホテル代、食事代が必要となる。

 このリスクがある限り、よほど時間と費用に余裕がないと、ハワイでさえも行けない。

 すでに、メディアでさんざん報道されたが、ハワイではかなりの数の「帰国できない日本人旅行者」(帰国難民)が出た。

■海外旅行の値段はコロナ禍前の2倍に!

 旅行大手HISでは、8月12日に、9月~11月の秋の予約状況から旅行動向を発表した。海外旅行全体の平均単価は21万6800円で前年比130.5%、コロナ禍以前の2019年比では190.3%となっていた。

 同じ海外旅行をするのに、コロナ禍前の約2倍の料金がかかるのだから、一般庶民は、よほどのことがないと海外旅行に行かないだろう。

 海外で進むインフレでホテル代、食事代は高騰し、それに円安が拍車をかける。

 ワイキキでいつも長蛇の列ができている「丸亀製麺」のかけうどんの「regular」(並)の値段は、3ドル75セント(約510円)。日本では340円だから、1.5倍である。トッピングしたら倍以上になる。これが、最も安いハワイでの外食だが、日本の倍以上のおカネを払って、ハワイで丸亀製麺を食べる意味があるだろうか。

 現在、日本の海外旅行専門の旅行事業社は窮地に陥っている。主要旅行事業者の6月の取扱額は237億円と、2019年6月の14.7%にすぎない。この業界は、中小業者が多く、公的支援がほとんど受けられないうえ、融資を受けても返済できずに倒産する例が急増している。

 大手のHISでさえ、巨額の赤字を抱え、ハウステンボスを売却せざるを得なくなった。

■サーチャージ高騰で海外旅行は「高嶺の花」

 航空券代とは別にかかる燃料サーチャージ代の高騰も、日本人の海外旅行を遠いものにしている。

 先日、JALは10月1日から11月30日発券分までの日本発国際線航空券のサーチャージ代の値上げを発表した。

 それによると、韓国・極東ロシア線が現行の5900円から7700円に。東アジア線(除く韓国・モンゴル)線が1万1400円から1万2900円、グアム・パラオ・フィリピン・ベトナム・モンゴル・イルクーツク(ロシア)線が1万7800円から2万2900円、タイ・マレーシア・シンガポール・ブルネイ・ノヴォシビルスク(ロシア)線は2万4700円から2万9800円、ハワイ・インドネシア・インド・スリランカ線が3万500円から3万7400円、北米・欧州・中東・オセアニア線が4万7000円から5万7200円に引き上げとなる。

 サーチャージは、ケロシンを主成分とするジェット燃料の平均価格をもとに、2カ月ごとに見直しが行われるが、基本的にWTIの石油価格と連動する。WTIの値動きを見ていると、12月からは下がる可能性があるが、それでも大した額ではないだろう。

 今回の値上げで、ハワイでも往復7万4800円、アメリカ本土、欧州となると11万4400円のサーチャージがかかる。これでは庶民は、海外旅行になど行けない。気が付いてみたら、海外旅行は半世紀前と同じ、「高嶺の花」になってしまった。

■グローバル経済に取り残されるだけ

 せっかく、世界でコロナ規制がなくなったというのに、日本だけがいまだに規制を続けるうえ、円安、インフレの直撃をもろに受ける。

 この夏、ニューヨークでもロサンゼルスでも、ロンドンでもパリでも、日本人観光客の姿はほとんどなかったという。ハワイ在住の知人も、ワイキキにいる日本人はわずかで、本土からの観光客ばかりだと言っていた。

 グローバル経済は「ヒト、モノ、カネ」の自由な動きで成り立っている。ネットがあるから、ヒトの流れが止まっても大丈夫などということはありえない。フェイストゥフェイスのビジネス、コミュニケーションは絶対に必要だ。

 いったいいつまで、日本は、こんな馬鹿げた入国規制を続けるのだろうか。外国人は来られない、日本人は出られない。こんなコロナ鎖国を続ければ、ますますガラパゴス化が進む。日本経済の復活は望めない。

 岸田首相は、一刻も早く入国規制を撤廃してほしい。

(なお、本稿執筆後に、岸田首相は、「入国前のPCR検査による陰性証明を免除し、現在2万人の入国者数上限を5万人に緩和する検討に入った」ことを明らかにした。しかし、これは段階的措置で、科学的根拠がないうえ、効果も薄い)

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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