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五輪ボランティア辞退者1000人への疑問。潜在辞退者は万単位ではないか? 参加者の不安と戸惑い

山田順作家、ジャーナリスト
2019年11月の共通研修(国立オリンピック記念青少年センター)撮影・筆者

 2月24日、各メディアが、五輪ボランティアの辞退者が1000人になったと報道した。

《東京五輪・パラリンピック大会組織委員会は、森喜朗前会長の女性蔑視発言から20日間で、会場運営などに関わる大会ボランティアの辞退者が1千人になったと発表した。大会ボランティアは8万人が参加する見込みとなっており、辞退者は約1%にあたる。》(朝日新聞)

《(前略)森前会長が辞任した12日時点では740人だったが、その後も辞退の申し出が続いている。組織委は「今回の経緯を踏まえ、辞退された方には大変申し訳ない気持ち。一方で引き続き活動してくださる方が多くいることに感謝したい。運営には支障はないと考えている」と、した。》(デイリースポーツ)

 こうした報道に、私は限りない違和感を覚えた。この報道はいったいなにを伝えたいのか?と思うと、首を傾げざるをえないからだ。ボランティア辞退者が1000人にも達してしまったことで開催が危ぶまれるのか、それとも1000人は8万人に対して約1%に過ぎないから、組織委が言うように「運営に支障はない」と言いたいのか、どっちなのか?

 さらに言わせてもらえば、森発言とは関係なく、辞退者は今後もっと増えると、私は確信している。というのは、五輪の開催が決まり、その方式がどうなるか次第で、潜在的辞退者がどっと意思表示するはずだからだ。

 なぜ、そう私は確信するのか? それは、現在どうしていいか決め兼ね、様子見をしているボランティアが、おそらく万単位でいると思うからである。

 じつは、私もそんなボランティアの1人である。ただ、多くのボランティアと違って、いったん決めたのだから、組織委の指示があれば、そのとおりにボランティアをしようと思っている。

 思えば、この五輪は初めから、開催する目的、意義がまったくわからない五輪だった。「コンパクト五輪」「復興五輪」のはずが、コロナ禍によって「人類が新型コロナに打ち勝った証しとしての五輪」(by:安倍晋三・前首相、follow:菅義偉・現首相)に変わってしまった。

 予算のほうも、当初7000億円とされたが、いつの間にか3兆円を超え、国民の税金が際限なくつぎ込まれることになった。

 昨年暮れ、組織委の理事会は、今年に延期された五輪の予算案「総額1兆6440億円」を承認した。

 私が五輪ボランティアに応募したのは、2018年9月、募集が開始された直後のことだった。募集人員は8万人で、応募は20万人を超えたと言われたが、すんなり合格して登録された。

 交通費も宿泊費も食事代さえ出ないうえ、最低10日間拘束されるので、当時、五輪ボランティアは「ブラックボランティア」「ただボラ」「やりがい詐欺」などと、さんざん批判された。ノンフィクション作家の本間龍氏は、著書やメディアで「嘘と疑惑だらけの五輪でただボラなんかしてはいけない」と訴えたが、20万人以上の人々が聞く耳を持たなかった。

 私は、本間氏の見解に大賛成だったが、むしろ大賛成ゆえに応募したのだった。

 以後、組織委の事務局から登録番号を与えられ、組織委HPに「マイページ」を開設、組織委からの指示はこのマイページかメールによって直接送られてきた。

 研修も始まり、2019年4月に最初のオリエンテーション、2019年11月には共通研修を受けた。この研修と並行して、HP上で、オリンピックの歴史、ボランティアの心構えや取り組み方などの「eラーニング」も受講した。

 ちなみに、組織委はボランティアをボランティアと呼ばず、公募で選んだ「フィールドキャスト」(Field Cast)という名前で呼ぶことになった。フィールドキャストは、ヤマト運輸で募集している配達員の呼び名でもあったから、私は戸惑った。いずれにせよ、こうして私は五輪のフィールドキャストの一員になった。

 2020年になって、開催までいよいよあと半年となるなかで、ボランティアの役割と会場が決まった旨のメールが来た。

《こんにちは! TOKYO 2020 Field Cast運営事務局です! YAMADA JUNさんにField Castとして活動する際の役割・会場のお知らせ(オファー)です。》という前書きの後、《つきましては、以下の内容をご確認の上、3月11日(水)17時までにマイページにて「承諾」または「辞退」をご選択ください。》と書かれていた。 

 私は即座にマイページ上で承諾した。ボランティアの活動は、通訳、メディアのアシスト、運転手、観客の案内など各種あるが、私は「イベントサービス」に決まった。要するに、会場での雑用係である。

 しかし、このときすでに新型コロナの感染は拡大していた。

 2020年3月24日、ついに大会が延期されることが決まり、4月以降に予定されていた役割別研修等の日程はすべて1年繰り延べられることになった。事務局からのメールには、今後は「eラーニング」で受講を続けてほしいと述べられていた。そして、7月末、「意思確認」の手続きメールが届いた。

 そこには、こう書かれていた。

《今回の意思確認は、大会時活動するフィールドキャスト全体の人数及び辞退される人数を正確に把握し、今後の運営に活かしていくことを目的としておりますので、回答は必須とさせていただきます。

 本意思確認で、「活動ができる」又は「検討中」とご回答いただいた方は、オリンピック期間中、承諾した役割・会場で活動いただける前提のもと、今後も引き続き各種ご連絡等させていただきます。

「フィールドキャストとしての活動そのものを辞退する」と回答された方については、お手数ですが改めてマイページから辞退の手続きを実施していただきます。》

 このとき、何人の方が辞退されたかはわからない。想像するに、そっくり1年延期だから、当初の8万人はほぼそのまま継続を承諾したのではないだろうか。

 もちろん、私は、即座に承諾した。

 このメールには、今後の予定が書かれていて、それは次のようになっていた。

2020年10〜12月 共通研修(オンライン)

2021年3〜5月 シフト受取

2021年4月〜 役割別研修・リーダーシップ研修

2021年5月〜 ユニフォーム等受取

2021年6月〜 会場別研修

 このスケジュールは、2021年の新年のメールでも繰り返し述べられていたので、ボランティアはそのつもりで準備してきたと思う。しかし、コロナ禍は続き、日本は1月7日から緊急事態宣言下に入った。

 そして、2月3日、森前会長の「女性蔑視」発言が飛び出したのだった。発言から3日後の6日、組織委の事務局から、次のような「お詫びメール」が届いた。

《TOKYO 2020◆◇フィールドキャストの皆さんへ/Dear Field Cast

 先日、東京2020組織委員会の森会長からオリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切な内容の発言がございました。

 森会長からは、発言を撤回しお詫びさせていただきましたが、不愉快な思いをされたフィールドキャストの皆様にも東京2020組織委員会としてあらためて深くお詫び申し上げます。

 私たちは、引き続き大会のビジョンである「多様性と調和」にもあるように人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受入れ、認められる社会を実現することを目指し大会を運営していきたいと考えております。大会まであと5か月、現在大会に関わる全ての人たちがオリンピック・パラリンピックの開催に向けて、準備を進めています。

 東京2020組織委員会も、安全・安心な大会の実施に向け、またフィールドキャストの皆さまにも安心して参加いただけるようフィールドキャスト運営事務局が中心となって精一杯取り組んでいます。

 4月からは役割別研修・リーダーシップ研修が始まります。また、5月からはユニフォーム等をお渡しさせていただきます。私たちは皆さんと一緒に大会を成功させたいと考えています。》

 さて、いま、緊急事態宣言のなか、2月は終わろうとしている。これまで、組織委事務局から何度か、ボランティアの役割に関する案内・研修のお知らせメールが届いた。最後のメールは2月18日で、私の役割は「イベントサービス」と決まっているので、次のような内容だった。

《連載9回目:大会の雰囲気をつくる!【イベントサービス】とは!?

 東京2020大会が始まり、観客として競技会場を訪れることを想像してみてください。会場に近づくにつれ、たくさんの人が集まり、楽しげな声やワクワクした雰囲気に包まれていく。どんどん期待に胸が高鳴ってきませんか?

 そんな来場者を笑顔で迎えるのがイベントサービスのみなさんです。大会の雰囲気を作る、まさに「大会の顔」と言っても過言ではない存在です!

 選手の次に目立つといわれる理由はここにあります。

 今回はイベントサービスの活動をインタビュー記事でご紹介します。ぜひご覧ください。

<インタビュー記事注目ポイント!>

 1.世界最高峰の大会の最前線で活躍!その活動とは?

 2.最も多くのField Castが活動する、イベントサービスの魅力とは?

 3.動画も要チェック!あなたが活動する会場の担当者はどんな人?担当者を一挙公開!》

 はたして、東京五輪はこのメールで述べられているような「楽しげな声やワクワクした雰囲気に包まれて」行われるのだろうか?

 私は、今回、ボランティア参加者の何人かと連絡を取った。それではっきりしたのは、みなさん、態度を決めかねていることだ。私と同じ、60歳代のボランティア参加者の1人はこう言った。

「ワクチン接種なしでボランティアに参加して、もしコロナに感染してしまったら、大会運営に多大な迷惑をかけるうえ、おそらく自宅隔離になるでしょう。これでは、不安でボランティアに参加にできません」

 2月24日、IOCのバッハ会長は理事会後に記者会見をして、五輪の観客に対する判断は4~5月ごろになると述べた。これは、事実上、なにがあっても開催するということだろう。このドイツ人会長は、放映権収入を得ることしか頭になく、日本のことなどどうでもいいようだ。

 各種世論調査によると、国民の約8割が、今年の東京五輪の開催には反対している。しかも、日本では、社会の正常化への切り札とされるワクチン接種は大幅に遅れ、全国民のワクチン接種が完了するのは、早くても年末になる見込みだ。こんな状況のなかで、私たちはなんのためにボランティアをするのだろうか?

 わかっていることはただ一つ。私の場合、開催が決まれば、組織委の指示通りにボランティアをやらせてもらうということだけだ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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