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菅義偉総理の誕生は「悪夢」では? 実務派でワンポイント。そんな選び方はない!

山田順作家、ジャーナリスト
総理大臣は「日本の顔」「日本人の代表」となる(写真:ロイター/アフロ)

 先週の金曜(8月28日)に、安倍晋三首相が退陣を表明してからまだ4日しかたっていないというのに、すでに自民党内は「菅義偉官房長官で決まり」というムードになってきた。メディアもそれに乗って大報道を繰り広げている。

 これは、日本国民にとっても、日本の将来にとっても「悪夢」だろう。

 若い有権者、とくに女性の声を聞いてみればいい。

「えっ、あんなおジイさんでいいの?」「えっ、71歳。ありえない」「オリンピックの顔があの人ですか?」「英語話せないですよね」「日本の対外の顔、うわー、本当に恥ずかしい」「あの方に明確な政策があるんですか」

 しかし、このような声をテレビは流さない。

 テレビで政治記者やコメンテーターが得意げに解説するのは、菅氏の自民党という“ムラ社会”での政治力と人脈。二階氏、麻生氏、細田氏と3人の派閥の領袖が担いでいるという派閥の力学。さらに、実務派としての力量、霞が関を掌握する調整力と統率力、公明党とのパイプの強さなどだ。

 もう一つ、来年9月の自民党総裁戦までのワンポイントだから、「安倍政治を継承する菅さんでいい」という見方がある。あるいは「早期の解散総選挙までのつなぎだから」とする見方も。いずれにしても、このワンポイントが、なぜか菅総理誕生のいちばんの理由になっている。

 こうして若い女性にいちばん人気がある河野太郎防衛相は外された。永田町界隈では「親の七光りで、人望がない」とされ、長老たちには嫌われているという。ただ、菅総理が誕生すれば、同じ神奈川県を地盤とするので菅氏は彼を重要ポストに起用するとも。

 また、世論調査では常に一番人気の石破茂氏も、ほぼ潰された。どんなに論理的に筋道を立てた政策立案をしようと、そんなものは「二の次」。さらに、地方の声、党員の声は「三の次」である。

 派閥による調整に加えて党員投票がなくなれば、そのほかの候補者、岸田文雄政調会長、野田聖子氏、茂木敏充外相、西村康稔経済再生担当相、稲田朋美氏、下村博文氏なども、まったく目がない。自民党総裁戦は、セレモニーだけになる。

 そこで、一考したい。「ワンポイントだから菅総理でいい」という考え方は、菅氏自身に対しても、国民に対しても、あまりにも失礼ではないだろうか? もっと言えば、舐めすぎてはいないか?

 ご本人が、自分がワンポイントでいいと思っているのか? 総理になる以上、そんな心構えであるわけがない。また、国民にとってはどんなときでも、全力でやってくれるリーダーが必要で、ワンポイントは必要ない。コロナ禍とそれによる経済恐慌、米中覇権戦争の渦中というこの「歴史的な難局」に、こんな選び方で本当にいいのか。

 ワンポイントと言えば、すぐ野球が思い浮かぶ。その野球、MLBでは、今シーズンから「投手は打者3人と対戦するか、イニング終了まで投げること」がルールで定められ、ワンポイントが禁止された。投手でさえこうなのに、一国のリーダーがワンポイント。ありえないだろう。

 最後に、内閣総理大臣は日本国憲法67条にあるように、「国会議員の中から国会の議決で、これを指名する」。自民党総裁が誰になろうと、国会で国会議員の投票で決まる。この際、立候補の規定はないので、国会議員ならば誰でも選択できる。自分自身の名を書いてもいいし、他派閥の議員の名前、あるいは他党の議員の名前を書いてもかまわない。ただ、記名投票なので、あとで誰が誰に投票したか判明してしまう。

 それでもなお、派閥を超え、党派を超え、本当のリーダーを選ぶことはできる。ただ、そんなことが国会で起こったことはない。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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