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なぜ、日本は欧州などの感染拡大地域からの入国を拒否しないのか?

山田順作家、ジャーナリスト
「全国津々浦々、心をひとつに、まさにワンチームで現在の苦境を乗り越えていきたい」(写真:ロイター/アフロ)

 安倍晋三首相は、3月14日の夕方、首相官邸で記者会見し、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた政府の取り組みに関して、「たった1人」で国民に向けて説明した。その時間は、1時間足らず。前日、米トランプ大統領が行なった記者会見は1時間を超え、多くの民間人を従えて「官民一体」の対策を打ち出したのと比べると、格段の違いだった。

 ただし、安倍首相の決意は固く見え、目が虚ながら、こう訴えた。

「みなさんの活気あふれる笑顔を取り戻すため、一気呵成にこれまでにない発想で、思い切った措置を講じてまいります」

 一気呵成というのは、いますぐにでも断固としてやりとげるということである。そこで、疑問に思うのが、日本政府はなぜ、アメリカと同様に、欧州からの入国を拒否しないのか?ということだ。

 アメリカ政府は3月11日に、アメリカ東部標準時間で3月13日午後11時59分から、アメリカへのEU26カ国からの入国を拒否すると発表した。26カ国とは、オーストリア、ベルギー、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、イタリア、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス。

 そして、3月15日、この26カ国にイギリスとアイルランドを追加した。

 感染爆発が続くヨーロッパから、これ以上、ウイルスが入ってくるのを止める。そのために入国を拒否して、アメリカ人の命と安全を守る。そのためには、やむをえないと、アメリカ政府は判断したと言える。

 ところが、日本は、いまもなお、ヨーロッパからの入国を拒否していない。遅すぎたと批判されて、中国と韓国からの入国を拒否し、感染爆発が続くイランとイタリアの一部地域も拒否したが、それきり、どの国に対しても入国制限・拒否を表明していない。

 記者会見で、安倍首相は、こう表明した。

「緊急事態を宣言する状況ではない」

「(日本は)なんとか持ちこたえている」

「WHOが今週、パンデミックを宣言しましたが、人口1万人当たりの感染者数を比べるとわが国は0.06人にとどまっており、韓国、中国のほかイタリアをはじめ、欧州では13カ国、イランなど中東3カ国よりも少ないレベルに抑えることができています」

 つまり、日本の感染防止策はうまくいっている。そう、強調したのだ。

 それなら、なおかつ、日本国民の命と安全を守るため、入国制限・拒否の対象国を広げるべきだろう。中国、韓国、イランなどにはできても、フランス、ドイツ、イギリスなどにできない理由があるのだろうか? どこかに後ろめたさでもあるのか?

 安倍首相と政府は、日本の感染爆発は防げている、医療崩壊を起こさないために検査数を絞ってきたことが功を奏している。その結果、感染者数は世界のワースト10圏外になっている。おそらく、このままいけば感染拡大を抑えられる。そう考えているのだろう。

 しかし、この認識は正しいのだろうか?

 

 日本の感染者数は、検査して「確認された感染者数」であって、実際にはどれくらい感染者がいるのか、誰にもわからない。死者が少ないのも、検査数が少ないのだから、ほかの原因による肺炎死にされている可能性がある。これまで、クラスター追跡ばかりやり、より多くのサンプルを取ろうとしてこなかったのだから、すべては闇の中だ。

 日本をこんな状態にしていて、しかも、感染拡大国からの自由な渡航を許している。さらに、自国民の海外渡航を自粛しておらず、その結果、世界の多くの国から渡航制限・拒否にあっている。

 すでに、東京五輪が開催できないのは決定的だ。「中止か延期か」をいつ誰がどのように発表するかの段階に入っている。

 安倍首相は「われわれとしてはIOCを含めた関係者と緊密に連携を取って対応していくことに変わりはない」と言ったが、「緊密な連携」とは、どうやって中止・延期を円滑に進めるかに関して緊密な連携を取っているということだろう。

 ならば、もう東京五輪はいいから、いかにして国民の命と安全を守るかに専念してほしい。

「全国津々浦々、心をひとつに、まさにワンチームで現在の苦境を乗り越えていきたい」

「いかなる困難も力を合わせれば必ずや克服することができる。打ち勝つことができる。私は、そう確信しています」

 そんな希望的観測より、具体的かつ強固な対策が必要だ。このウイルスは手強い。国民の命と安全より、医療崩壊を危惧して感染者数を絞ることを優先する政策をもうやめるときにきているのではないか。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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