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新型コロナウイルス感染拡大防止に有効な「病院船」。なぜ日本はつくらないのか?

山田順作家、ジャーナリスト
アメリカ海軍の病院船「マーシー」(出所:アメリカ国防省)

 今日もまた政府は会議をやり、有効な手立てを決められないでいる。国内外から、これまでの対策の失敗を指摘されているというのに、いまだに専門家の意見を聞くと言っている。会議を繰り返しても、首相が10分ほどで退席し、その後、豪華ランチに行ってしまうのだから、武漢を封鎖した中国の数字を信用できないなど、どの口で言えるのだろうか?

 クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」の検疫の杜撰さを知って、あらためて思うのは、なぜ日本には「病院船」がないのか?これまで、その必要性が議論され、東日本大震災の教訓から「病院船建造推進超党派議員連盟」が結成され、要望書まで出ていたのに、なぜ建造しなかったのか?ということ。

 病院船とは、文字通り洋上に浮ぶ病院。ウィキペディアでは次のように説明している。

《広義には戦争や飢餓、大災害の現場で、傷病者に医療ケアのプライマリ・ケアを提供したり、病院の役割を果たすために使われる船舶。狭義にはそのうちジュネーヴ条約が適用されるもので、傷病者や難船者に援助を与え、治療と輸送を唯一の目的として、国が建造又は設備した船舶をいう》

 一部に、「ダイヤモンドプリンセス」は3700人と乗客が多すぎたので、それを受け入れる医療機関、医療体制がなかったという言い訳があるが、病院船があれば、少なくとも3分の1ぐらいの乗客を移送し、万全の検疫とケアが可能だっただろう。

 2011年の東日本大震災のとき、岩手、宮城、福島の災害拠点病院の多くが被災し、病院としての機能を失った。そのため、死者も出た。そこで、国は災害拠点病院の指定要件を見直し、通常時の約6割を供給できる自家発電機の設置や災害派遣医療チームの保有などを決めた。しかし、病院船の建造は見送られた。

 その結果、2016年4月の熊本地震のときは、地域の拠点病院である熊本市民病院は310人の入院患者全員に転院や退院を求めざるをえない事態に陥った。昨年の台風15号、台風19号でも、大停電が起こり、医療機能が停止した病院が続出し、入院患者の搬送が行われた。病院船があれば、こういう状況にいち早く対応できる。とくに日本のような島国では、海上を移動して被災地に急行できる病院船は欠かせない。

 

 世界の国々の多くが、病院船を保有している。アメリカでは、海軍が世界最大の7万トン級の病院船を2隻保有している。中国も1隻、ロシアは3隻保有している。英国、フランス、オランダ、ドイツ、オーストラリアなども、医療設備を備え、手術室やベッドなどを持った艦船、軍艦を何隻か保有している。

 2018年6月、アメリカ海軍の病院船「マーシー」が日本に初寄港し、横須賀にやってきた。このときは、一般見学会も開かれた。「マーシー」は、手術室を12室、集中治療設備を80床、ベッドを約1000床持つ、まさに洋上の総合病院。平時は、60名の医療スタッフ、12名の乗員という最小の人員で維持されているが、災害発生時には民間人を含む1200名のスタッフが全米各地から招集される。

 この「マーシー」と病院船については、「乗りものニュース」のサイトに、『日本に病院船は必要か? なぜいま米海軍病院船「マーシー」初来日なのか その目的は』(石動竜仁、2018.06.15)という記事があるので、ぜひ、読んでみてほしい。

https://trafficnews.jp/post/80676

 

 今回の新型コロナウイルスの感染拡大を憂慮し、政府内でやっと、病院船の議論が復活した。加藤勝信厚労相も、河野太郎防衛相も導入に向けた検討に意欲を見せた。その結果、27日には超党派の国会議員でつくる病院船の新議員連盟が発足することになった。

 ただ、予算面、運営面での問題が多いとする見方もある。

 

 病院船の建造費がどれほどになるのかは、わからない。護衛艦「いずも」の建造費が1208億円とされているので、それくらいではないだろうか。

 現在、政府が約100機の追加導入を決めているF35戦闘機は1機100億円以上する。とすれば、10機分でできるだろう。 

 ちなみに、加計学園のキャンパス建設補助金として、約100億円が政府や今治市などから出された。「桜を見る会」の昨年度予算は5519万円。血税の使い途を間違えないでほしいと、強く要望したい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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