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日本と日本人の評判を貶めたW杯サムライブルー。この“茶番”はスポーツを超えた問題だ!

山田順作家、ジャーナリスト
苦悩のうえの2位通過、決勝トーナメント進出(写真:Shutterstock/アフロ)

 いまだに賛否両論の渦が治まらないW杯、日本代表のグループリーグ最終戦。日本人としては、ルール違反をしたわけでもないし、いちおうルールにのっとって決勝トーナメントに進出できたのだから、喜ぶしかない。しかし、素直に喜べない点に、この問題の難しさがある。

 さらに言うと、これは、スポーツを超えた国家、国民としての問題をはらんでいる。

 その意味で言えば、今回のことは「恥ずかしい」の一言だ。「サムライブルー」と言う以上、選手たちはサムライである。日本人を代表している。そのサムライたちが、こんなことをやっていいのだろうか? 

 耳をつんざくような大ブーイングのなか、「1点負けでもいい」という選択を西野監督も選手たちも押し通した。他場のコロンビア対セネガル戦の状況を知ってしまった以上、この選択は仕方なかったかもしれない。

 しかし、それを見て、海外メディアは目を疑った。とくに「セネガルがゴールしない前提でのギャンブル。茶番だ」と、英BBCは酷評した。試合後は、「この試合は滑稽なかたちで終わった。両軍が最後の15分以上、最終ラインでボールを喜んで動かした」と言う始末である。

 英BBCだけではない。ほとんどの海外メディアが、日本の戦いを同じ論調で批判した。

 これらを余計なお世話だと、切り捨てるわけにはいかない。なぜなら、こうした批判の向こう側には、「日本にはがっかりした。日本人はこんな人たちだったのか」という深い嘆息があるからだ。

 つまり、サムライブルーは、日本と日本人に対する海外の人々のイメージ、もっと言えば「日本人はいつもフェアで尊敬すべき人々だ」という見方を一瞬にして打ち砕いてしまったからだ。つまり、その意味で今回の出来事はサッカーというスポーツを超えている。

 思い出すのは、前回のブラジル大会での日本対コートジボワール戦で、日本人のサポーターが、試合後に会場のゴミ拾いしたことで、世界から称賛を浴びたことだ。今回もまた、ポーランド戦が行われた後に、日本人サポーターがスタジアムでペットボトルなどのゴミを拾い、それがツイッターに動画で投稿され、同じく称賛されている。したがって、サムライブルーのしてしまったことは、ある意味で割り引かれた。

 しかし、それでもなお、世界を失望させてしまったことは確かだ。

 試合後、西野監督に笑顔はなかった。喜びよりむしろ苦悩がありありと表情に現れ、憔悴した様子だった。会見では、正直に、「納得いかない。不本意な選択」と言い、「W杯はそういう戦いもあって、その選択が正解と出れば、勝負にも勝ったということ」と、自分と選手たちを慰めた。

 西野監督の背後に、日の丸を背負って、なにがなんでも勝たなければならないというプレッシャーがあったのは確かだ。私たち日本国民は、それを強要していると言えるだろう。とくに最近のメディアは、ナショナリズムを煽り続けている。

 繰り返すが、今回のことはサッカーというスポーツを超えて、日本と日本人の海外での評判を貶めてしまったことは確かだ。今後、スポーツはもとより、外交やビジネスにおいても、私たちの言動に影響を与えるだろう。

 英BBCが、最後に、こうしめくくったことは救いだ。

「この手のレギュレーションで、グループの雌雄を決するのは狂っている。FIFAの決めたルールは明らかに恥ずかしい。おかげで試合は、世界的な茶番となった。ただでさえ、見どころが少なかったのに、さらに退屈なものとなった。W杯という舞台なのだから、もっといい決定方法があるはずだ」

 今回、サムライブルーは、最後まで諦めずひた向きで戦ってきた。そして、フェアプレーに徹してきた。だから、次のベルギー戦は、もう一度、この姿勢で戦ってほしい。そうすれば、たとえ負けようと、胸を張って日本に帰って来られるだろう。世界をもう一度驚かし、称賛される戦いをしてほしい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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