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金正恩と文在寅の“キム&ムーン コンビ”のノーベル平和賞の受賞オッズ1.5倍は「悪い冗談」か?

山田順作家、ジャーナリスト
まさかこの2人がノーベル平和賞??(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 世界中がまだなにも起こっていないのに、朝鮮半島が本当に非核化され、平和がやってくると思いだした。もちろん、それが達成されればノーベル平和賞ものなのは間違いないないが、その受賞者候補の筆頭に、北朝鮮の金正恩委員長(Kim Jong-un)と韓国の文在寅大統領(Moon Jae-in)の“キム&ムーン コンビ”が挙がるとなると、「悪い冗談」(ブラック・ジョーク)としか思えない。

 さらに、トランプ大統領も、このコンビに続く2番手候補だというので、呆れてものも言えない人も多いだろう。

 しかし、ノーベル賞委員会も世界も、本当に騙されてしまう可能性がある。とくにトランプ の度が過ぎる「楽観主義」が、このムードを助長している。

 こうしたムードを巧みについて、商売しようとするのが、したたかな英国のブックメーカーだ。もう日本でも広く報道されたので、ご存知の方も多いと思うが、今年のノーベル平和賞の候補として、“キム&ムーン コンビ”を1番人気に祭り上げてしまった。先の南北首脳会談の演出が大きな効果があったのだろう。なんとオッズ1.5倍である。この倍率は、競馬で言えば“鉄板の本命”だ。

 その結果、これまで1番人気を“独走”してきたトランプ は10倍に落ちた。

 以下が、ブックメーカー大手「ラドブロークス」のオッズだ。

Odds to win the Nobel Peace Prize @Ladbrokes

Kim Jong-un & Moon Jae-in(キム&ムーン)1.50

Donald Trump(ドナルド・トランプ) 10.00

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)10.00

Carlos Puigdemont(カルロス・プッチダモン)12.00

Angela Merkel(アンゲラ・メルケル) 16.00

Novaya Gazeta(ノーヴァヤ・ガゼータ)16.00

Pope Francis (ローマ法王フランシス)16.00

ACLU(アメリカ自由人権協会)20.00

Edward Snowden(エドワード・スノーデン) 20.00

Vladimir Putin (ウラジミール・プーチン) 50.00

(注)カルロス・プッチダモンはスペイン・ジローナ県出身の政治家で、カタルーニャ独立運動のシンボル。ノーヴァヤ・ガゼータはロシアのタブロイド紙で、プーチン独裁を批判して弾圧されている。ACLU(アメリカ自由人権協会)はトランプの暴走を食い止める運動を展開している。

 ブックメーカーとしては、“キム&ムーン コンビ”にこの倍率をつけても商売になると踏んだと思えるが、はたして、本当にこの2人をベットするプレーヤーがいるだろうか?

 キムは独裁者であり、自分の叔父の張成沢を、猟犬の群れをけしかけたうえ、ロケット弾で爆殺処刑した男である。昨年は、実兄の金正男までも毒殺している。

 これで、もし本当にノーベル平和賞をとってしまったとしたら、この世界からモラルは永遠に失われる。しかも、的中したとしても1.5倍と低配当で、あまりにリスクが大きい。やはり、これはブックメーカーの余興、ブラック・ジョークであろう。

 実際のところ、トランプがアメリカ大統領になってから、この世界は“ブラック・ジョーク・ワールド”になってしまった。“アメコミ・ワールド”と言ってもいい。トランプは4月28日、ミシンガンの支持者の集まりで、支持者から「ノーベル賞コール」の嵐を浴びた。それに対して、親指を立てながら満面の笑みを浮かべ、なんとこう言ったのだ。

 “That's very nice thank you...'Nobel'...I just want to get the job done.”(そいつはすごくナイスだ。ありがとうよ。まあ、オレは仕事をやり遂げたいだけさ)

 さらに、こう付け加えた。

 “And...err...we'll be doing the world a big favour. We'll be doing the world a big favour. Let's see how it goes, I think we'll do fine.”(えーと、われわれは世界に大きな喜びをもたらす。世界に大きな喜びをもたらすんだ。どうなるか見ていてくれ。オレはうまくいくと思っているぜ)

 

 まさか、トランプは「CVID」(Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement:完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)の口先約束だけで、北朝鮮と和解してしまうのではないだろうか? 実際のところ、米英の諜報機関は、北朝鮮がいったい何発の核弾頭を持っているか知ってはいない。検証は困難だ。つまり、ロケットマンが隠してしまえば、それを探し出すことなどほぼ不可能である。

 しかし、ロケットマンの策略とトランプの功名心の一致で、朝鮮半島のエセ非核化と朝鮮戦争の終結による見せかけの「平和」がもたらされるとしたら、この世界は本当に「悪い冗談ワールド」になってしまう。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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