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北朝鮮に「譲歩していない」と慌てて反論したトランプ大統領の驚きのツイートの中身

山田順作家、ジャーナリスト
ジョージ・ワシントンが泣いている(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領のツイートが、またもや“炸裂”した。この大統領は、本当に物事をちゃんと考えたうえで行なっているのだろうか?

 4月22日の日曜日(アメリカ東部時間)、トランプが「北朝鮮に譲歩していない」とツイートしたことが、大きな波紋を呼んでいる。日本のメディアは、掘り下げて報道していないので、以下、その詳細を書くと次のようになる。

 

 発端は、NBCの日曜朝の番組『Sunday Today』。キャスターのチャック・トッド氏が「金正恩はほんの少ししか譲歩していないのにトランプは大幅に譲歩しているように見える」と、大統領を批判した。

 トランプは、おそらくこのニュース番組を見ていたのだろう。トッド氏の批判に即座に反応して、こうツイートしたのだ。

 “Sleepy Eyes Chuck Todd of Fake News NBC just stated that we have given up so much in our negotiations with North Korea, and they have given up nothing. Wow, we haven’t given up anything & they have agreed to denuclearization (so great for World), site closure, & no more testing!”

(フェイクニュース局のNBCの眠たい目のチャック・トッドが、われわれは北朝鮮との交渉で大幅に譲歩しているが向こうはなにも譲歩していないと述べた。まったくもう、われわれはなにも譲歩していないし、向こうは(世界にとってグレートな)非核化と実験停止に同意しているんだぞ)

 

 要するに、オレは批判されるようなことはなにもしていないと、トランプは言いたかったようだ。ちなみに“Sleepy Eyes”は、トランプがトッド氏を呼ぶとき、必ず付ける蔑称。彼は、このうるさ型のキャスターとNBCが大嫌いなのである。

 トッド氏が「大幅に譲歩している」と批判したのには訳がある。さる4月20日、北朝鮮は「核実験とICBMの発射実験を中止し核実験場を廃棄する」と発表したが、これに対してトランプは「グッドニュース」(いい知らせ)と言い、「大きな進展(big progress)だ! 首脳会談が待ち遠しい」とツイートした。

 これを聞けば、誰もが大統領のことを「大丈夫なのか」と疑う。なぜなら、これは北の声明を全面的に歓迎することだからだ。つまるところ、北の核を容認するとも解釈できるわけで、トッド氏の批判は当然だった。“ロケットマン”金正恩は、「核を放棄する」とは一言も言っていないからだ。

 ところが、トランプは上記したように、「オレは譲歩していない」と強弁した。ただし、そう言ってちょっと待てと思ったのだろう。続けて、こうツイートした。

 “We are a long way from conclusion on North Korea, maybe things will work out, and maybe they won’t- only time will tell....But the work I am doing now should have been done a long time ago!”

(北朝鮮について結論を得られるまでは長い道のりだ。うまくいくかもしれないが、そうならないかもしれない。そいつは時がたたなければわからない。ただ、オレがいまやっている仕事はずっと前にされていなければいけなかったんだぞ)

 本当に、どこまでも“オレさま大統領”である。日本のメディアは、そういう点を指摘しないが、ブルームバーグの配信記事の見出しは「Trump Tempers Optimism on North Korea:“Only Time Will Tell”」となっていて、大統領が楽観的すぎて時間だけがものを言うということをクサしていた。しかし、日本語版のほうの見出しは「トランプ大統領:北朝鮮問題は“結論には程遠い”」である。これでいいのだろうか?

 上記したように、トランプはNBCとトッド氏を徹底的に嫌っている。昨年10月、トランプは場合によってはNBCの放送免許を取り消すことを示唆したことがある。

 これは、NBCがしつこく、トランプとティラーソン国務長官(当時)の不和を報道したからだった。トランプはツィッターに「NBCとその放送網からフェイクニュースが流れていることを考えると、同社の放送免許の取り消しを取り上げてもいいのではないか。アメリカにとってもよくないぞ」と書き込んだのだ。

 NBCが、ティラーソン氏が安全保障に関するミーティングで、トランプを「能無し」(moron)と呼んだことをすっぱ抜いたからだ。

 この大統領は、本当に短気で、すぐカッとなる。

 それは、このほど出版されたジェームズ・コミー元FBI長官の内幕暴露本『A Higher Loyalty: Truth, Lies, and Leadership』(『より高き忠誠心:真実と嘘と指導力』)でも、あますところなく語られているので、日本での翻訳出版が待たれる。

 

 いずれにしても、どこをどう読んでも、先日の“ロケットマン”金正恩の声明は、核兵器を手放す意思などまったくないことを示唆している。

 実際、先の中朝会談では、習近平主席の“お言葉”をメモを取りながら聞いていたというのに、非核化に関しては「段階的かつ歩調を合わせた手段」を主張したという。中国メディアはそう伝えている。

 さらに、今回明らかになったが、イースターウィークエンドに「極秘訪朝」したマイク・ポンペオCIA長官に対しても、「段階的な合意」を譲らなかったという。ロケットマンは、米朝が同時に譲歩していく案を示し、その場合、数年かけて歩み寄るタイムテーブルを提示したのだという。

 ただし、ポンペオ長官とは数回にわたり会食し、大歓迎をしたと伝えられている。バスケ大好き=アメリカ人大好きな彼は、アメリカ人と会食できるのがよほど嬉しかったのだろう。

 しかし、それと交渉とはまったくの別問題である。

 現在もなお、CIAのスタッフが平壌に残り、北朝鮮との“下交渉”を続けているという。しかし、金正恩はゲームから「降りる気」はまったくないようだ。

 

 となると、トランプが首脳会談に踏み切った前提条件は、大きく崩れることになる。まさに、トランプの直感は、単なる“慢心”の結果だったということになりかねない。

 もし、そうでないなら、トランプは首脳会談を初めからパフォーマンスでいいと考えていたのかもしれない。トランプは、首脳会談の“落とし所”(settlement)を、この欄の前回の記事で書いたような「見せかけの非核化」に置いていたのかもしれない。

 当然だが、アメリカ側の最低条件は、首脳会談で核の放棄が宣言されることであり、そのために「完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄」(CVID)が実行されることだ。つまり、北朝鮮が「リビア方式」を呑まない限りは、首脳会談の意味はない。

 トランプ政権は「烏合の衆」であり、コミー本も言っているように、トランプは人の言うことを聞かないという“素晴らしい性格”の持ち主である。アドバイザーが「ミスター・プレジデント、北を信じてはいけません。核実験を中止したといっても、そんなものは1日で撤回できます。見返りを与えはけません」と言っても、それを聞く耳を持っていない。

 こうなると、すべては米朝会談が本当に行われてみなければわからない。はたして行われるのかもわからない。今週の27日(金)に迫った「南北会談」の様子を見るしかないが、ここでもロケットマンは柄にもなくニコニコするだけで、具体的なことはなにも言わないだろう。

 ただし、金正恩のほうからは首脳会談をキャンセルはできない。そうすれば、いくら“無知を誇り”にしているトランプでも、彼の体制を保証しないはずだ。トランプはもういい加減に気づくべきだ。

 外交交渉はテレビ番組ではない。「You’re fired!」(お前はクビだ!)で終わるわけにはいかない。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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