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日馬富士引退の「深層」にあるものとはなにか?

山田順作家、ジャーナリスト
優勝9回で引退する日馬富士(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 ついに日馬富士が引退してしまった。こうなりそうな予感はしていたが、いざこうなってみると、本当に残念だ。1人の相撲ファンとして、日馬富士の引退会見には思わず涙がこぼれた。

 伊勢ヶ濱親方(旭富士)の涙にも、同じだ。日馬富士の兄弟子の安美錦が、今場所、敢闘賞を受けて大泣きしたときは思わずもらい泣きしてしまったが、今回もそうなってしまった。

 これで伊勢ヶ濱部屋は横綱がいなくなり、照ノ富士、宝富士が2枚看板になったが、彼らは日馬富士の穴をどう埋めていくのだろうか?

 今日までの報道で、この問題の本質がわかっている人間は、みな寡黙だった。わかっていない若い記者、レポーター、コメンテーターにかぎって、いろいろな意見を述べてきた。そしてみな、今回の暴行事件(日馬富士の指導)がなぜ起こったのか、そして貴乃花親方がなぜ頑なに事情聴取を拒むのかについて疑問を呈してきた。

 しかし、ことは単純だ。これに対しての私の見解は、『IRONNA』に書いたので、ここでは書かない。ただ、キーワードは「注射」と「ガチンコ」だ。

 

 ■「八角理事長、許すまじ」貴乃花のガチンコ相撲道

http://www1.ironna.jp/article/8237

「相撲道」とは、なんだろうか? 「国技」としての大相撲の「伝統と歴史」とはなんだろうか?

 それは貴乃花親方が言うようなことなのだろうか? 相撲の伝統と歴史をつぶさに調べ、相撲が代々どのように受け継がれてきたのかを知れば、それは理想にすぎないことがわかるだろう。

 実際に土俵に上がっている力士たちは、生身の人間なのである。つまり、理想を追求して正義をふりかざすことが、どんなに愚かなことかわかると思う。相撲は、人間のオモテとウラを知ったファンでなければ、楽しめない。そういう競技だ。それを知って、本当の相撲ファンは桟敷に足を運んでいる。

 これで、「白鵬・日馬富士時代」は完全に終わった。もしかしたら、「モンゴル互助会時代」も終わるかもしれない。

 いずれにせよ、この2人の千秋楽、全勝対決は相撲史に残るものである。日馬富士は、9回優勝しているが、そのどれもが、相撲を語るとき、あらゆる意味で欠かせないものだ。日馬富士は、白鵬に21勝36敗(優勝決定戦を含めると22勝37敗)と負け越しているが、これは白鵬に対する白星としては幕内では最多である。

 そこで以下、日馬富士の全9回の優勝と、その場所の白鵬の成績を列記してみた。

 【日馬富士の優勝と同場所の白鵬の成績】

  年・場所   日馬富士   白鵬

2009年5月場所  14勝1敗  14勝1敗

(白鵬と1敗同士の千秋楽決戦を制す)

2011年7月場所  14勝1敗  12勝3敗

(14日目で白鵬の8連覇を阻む。千秋楽は稀勢の里に敗戦)

2012年7月場所  15戦全勝  14勝1敗

(千秋楽に白鵬との全勝対決を制す)

2012年9月場所 15戦全勝  13勝2敗

(千秋楽に1敗の白鵬を下す。場所後横綱昇進)

2013年1月場所 15戦全勝  12勝3敗

(千秋楽に2敗の白鵬を破る)

2013年11月場所 14勝1敗   13勝2敗

(初日から12連勝。千秋楽の1敗同士決戦を制す)

2015年11月場所 13勝2敗   12勝3敗

(13日目に白鵬を破る、千秋楽は稀勢の里に敗戦)

2016年7月場所 13勝2敗  10勝5敗

(高安、稀勢の里を破り単独トップ維持。白鵬は圏外)

2017年9月場所 11勝4敗   休場

(横綱3人休場で1人横綱。千秋楽の本割、優勝決定戦で豪栄道に2連勝)

 貴乃花親方は、協会執行部、とくに八角理事長(北勝海)に対する根強い不信感があるという。それは、元々は北勝海の現役時代のことからきている。北勝海は、現役時代、8回優勝しているが、これは同部屋(九重部屋)の大横綱・千代の富士からの“星回し”があったことは、相撲ファンなら誰もが知っていることだ。

 そこで、次に、北勝海が優勝した8回の成績を、千代の富士の成績と比較したものを載せてみたい。

 

[北勝海の優勝と同場所の千代の富士の成績]

  年・場所   北勝海    千代の富士

1986年3月場所  13勝2敗   1勝2敗12休

1987年3月場所  12勝3敗  11勝4敗

1987年9月場所  14勝1敗   9勝4敗2休

1989年1月場所  14勝1敗  11勝4敗

1989年5月場所  13勝2敗   全休

1990年3月場所  13勝2敗  10勝5敗

1990年9月場所  14勝1敗    全休

1991年3月場所  13勝2敗    全休

 貴乃花親方は現役時代、22回優勝している。そのすべてがガチンコでの優勝であったことは、相撲ファンなら誰もが知っている。この貴乃花のガチンコ相撲が、1991年の5月場所の初日に千代の富士を破り、それで千代の富士を引退に追い込んだこと。そして、「千代の富士・北勝海時代」を終わらせたことを、相撲ファンなら誰もが知っている。

 このことを強調して、今後、この問題がどのようになっていくか? 注視していきたい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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