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北朝鮮クライシス。度がすぎるトランプの“お人好し”ぶりと“オレさま自慢”。どこが外交巧者なのか?

山田順作家、ジャーナリスト
北朝鮮危機をつくりながら、イースターホリディは別荘で(写真:ロイター/アフロ)

やはり、トランプはとんでもない“お人好し”の“オレさま大統領“(オレさま第一主義=アメリカ第一主義)だ。あれほど、中国に強硬だったのに、中国のリーダー習近平主席が少しでも“恭順の意”を示すと、コロッと“絶賛”だから、信じがたい。

習近平と電話会談し、その後のホワイトハウスでの記者会見でなにを言ったか。「北朝鮮は問題だ。問題は処理される」と述べたうえに、「習近平は懸命に頑張っている」と言ったのだ。さらに、中国が核実験やミサイル発射の阻止に向け影響力を行使することを確信しているとも、自信たっぷりに示唆した。

要するに、「オレさまが言ったので習近平が動いた。北に圧力をかけてくれる」と、自慢したわけだ。

そしてさらに、先日の米中首脳会談で習近平と時間を共にしたことで「習が好きになり、尊敬するようになった。彼は特別な男だ。彼は(北朝鮮に)全力で対処するだろう」と述べたのである。社交辞令としても、度がすぎている。

・President Trump on Wednesday hailed China's President Xi Jinping as a'gentleman' as someone who'wants to do the right thing'

・He said Xi'wants to help us with North Korea' and that he and the Chinese leader had'chemistry' following their meeting last week at Mar-a-Lago

・On Thursday Trump said he had'great confidence' China would deal with North Korea; otherwise, he warned that the U.S.,'with it's allies' will

・'North Korea is a problem, the problem will be taken care of,' Trump stated

(以上、「Mail Online」の記事のリードより。よく要約されている)

こうして、トランプは中国を「為替操作のグランドチャンピオン」( grand champions of currency manipulation )としていたのを撤回してしまった。さらに、この分でいくと制裁関税を課すこともしなくなるだろう。貿易不均衡是正などできないかもしれない。

日本のメディア記事は、習近平がトランプに屈したように伝えているが、中国にとっては、北を諌めるだけで、“トランプ以前の状態”に戻れるのだから儲けものだ。それに、核心的利益の「南シナ海」が、この件ですっ飛んでしまった。

この後、トランプは南シナ海に艦隊を派遣して、「航行の自由作戦」を行えるのか? なにしろ、習近平とは「ウマが合う」し、習近平は「特別な男」である。 

「WSJ」紙のインタビューでは、トランプはこう言っている。 “We have a very good relationship, we have great chemistry together.”

これでは、最強の“ドラゴンスレイヤー”ピーター・ナヴァロ国家通商会議代表も呆れるだけだ。

トランプの“オレさま自慢”は留まるところを知らない。シリア攻撃のくだりは、アメリカの報道を見ると、「見たこともないほど、最高にきれいなチョコレートケーキ」 (most beautiful piece of chocolate cake you've ever seen)を食べている際に行われた。

「たったいま、シリアに59発のミサイルを撃った」

トランプがこう言うと、習近平は10秒間黙り込んだ。この10秒間というのは、トランプ自身がそう言っただけだ。

つまり、この部分も、「ミスター・シーを黙らせたのだから、オレさまはすごい」という自慢話である。しかも、自分の別荘で出す料理の自慢までしている。

空母カールビンソン打撃群(CSG)が行き先をオーストラリアから西太平洋に変更させられたのは、米中首脳会談後のこと。ここでも、トランプはツイッターで自慢している。

“We are sending an armada- very powerful. We have submarines- very powerful.”(Fox Newsより)

なんと、自分の艦隊を歴史上有名なスペインの「無敵艦隊」(the Armada)になぞらえているのだ。「the Armada」でなく「an armada」としているが、無敵艦隊は英国艦隊に敗れ、その後、スペインは世界帝国から陥落してしまった。縁起が悪いなんて考えもしないのか。それとも、歴史の知識がないのか。

さらに。「潜水艦もあるぞ、強いんだぞ」だから、まるで子供の自慢話だ。大統領が、自国の最強の軍事力に関して、こんな幼稚な言い方をしていいのか?

話を戻して、シリアへのミサイルアタックはどう決まったのか? これは、「The Daily Telegraph 」(デイリーテレグラフ)のインタビューに息子のエリック・トランプが答えている。記事のタイトルは、「Ivanka Trump influenced my father to launch Syria strikes, reveals brother Eric」で、彼女は3児の母という立場から、「ひどいわ!」と言ったのだ。“Ivanka is a mother of three kids and she has influence. I'm sure she said:'Listen, this is horrible stuff,' ”(「デイリーテレグラフ」記事)

要するに、トランプは娘に「パパ、やって」と言われて、ミサイルを撃ったことになる。その結果、最強の “オルト右翼”スティーブン・バノンは「アメリカ第一主義に反する」と反対したため、「NSC」(国家安全保障会議)をクビになってしまった。

ただし、バノンは、この10日前にすでにヘタをうって、政権の要職から外される状況になっていた。それは、「オバマケア」(ACA:Affordable Care Act )の撤廃を目指す代替法案 の下院通過に失敗したからだ。

共和党の若きリーダー、ポール・ライアン下院議長はバノンと組んで、この法案通過に尽力した。しかし、中身がスカスカだったため、共和党保守過激派、とくに下院自由議員連盟は反対していた。

ところが、バノンは議員たち向かって「いいかみんな、これは話し合いではない。デベートでもない。法案に賛成する以外、君たちに選択肢はない」“Guys, look. This is not a discussion. This is not a debate. You have no choice but to vote for this bill.”(axiom.com)と言ったため、火に油を注ぐ結果になった。オバマケアの撤廃は、トランプの公約の最重要課題だから、これで、支持率もさらに落ち込み、政権の求心力も一気に落ちた。

そこに、起こったのが、シリアにおける化学兵器使用だった。

このような政権を、なぜなか日本のメディアや識者は、「今回のことは非常によく計算された結果だ」「トランプは交渉がうまい。意外に外交巧者だ」と評している。

その根底には、中国や北朝鮮がアメリカによって叩かれることを長く望んできたことがあるのは、間違いないだろう。「嫌中」「嫌韓」「嫌北」感情に引きずられすぎている。

しかし、トランプが本当はどういう大統領なのか? その政権はどういうことになっているのか? よく検証してみたほうがいい。

いまだに、トランプ政権は主要官僚の半分も決められないでいる。しかも、大統領府内もトランプファミリー、トランプお友達グループ、共和党内各派閥が、揉めに揉めている。

習近平もプーチンもトランプより「一枚以上」上なのなは間違いないだろう。彼らはトランプを見て、ニンマリしているに違いない。こんな情けない大統領を見るのは、これまでなかった。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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