Yahoo!ニュース

「北朝鮮チキンゲーム」はトランプの負けに。 金正恩はなにもしなければいい。

山田順作家、ジャーナリスト
4月13日平壌の高層住宅街「黎明通り」の完成記念式典で手を振る金正恩(写真:ロイター/アフロ)

アメリカ史上最低の支持率(37%、ギャラップ)をなんとか上向かせ、おまけにお気に入りの“フェイクニュース”局「CNN」に、「一人前の大統領になった」と言われて“悦”に入ったトランプ大統領。今度は、ツイッターで、「無敵艦隊を派遣した」と囁いた。しかし、アメリカが無敵艦隊など持っているわけがなく、元の文を見たら「an armada」で、単に大艦隊ということだった。

これは、いま北に向かっている第3艦隊の空母カールビンソンを中心とするCSG(空母打撃群)を指すのだろうか? たしかにカールビンソンは史上最強のCSGだが、横須賀にいる第7艦隊の空母ロナルド・レーガンを中心とするCSGを加えなければ、大艦隊とは言えないだろう。

それでもトランプは、「an armada」に続いて、「We have submarines, very powerful.」(潜水艦もあるぞ、強いんだぞ)と、まるで子供みたいにはしゃいだ。

4月10日、オーストラリアの「デーリー・テレグラフ」紙は、アメリカ政府はオーストラリアなど同盟諸国に対し、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合、迎撃する態勢が整ったと通知し、厳戒態勢で備えるよう要請したと伝えた。ということは、日本にも通知があったということで、北の“カリアゲ小僧”金正恩は、大艦隊が近海にいる限り、もうミサイルは打てなくなったと考えていい。

4月12日、またも“フェイクニュース”局「CNN」が、「北朝鮮の豊渓里(プンゲリ)核実験場で6度目の核実験の準備が全面的に整った兆候が見られる」と伝えた。これはジョンズ・ホプキンス大 SAIS(サイス)の北朝鮮問題研究グループ「38North」の研究者が明らかにしたものだ。

このグループの分析はこれまでも正確で、いくら「CNN」とはいえ、これはフェイクニュースではない。

今回のチキンゲームで、北朝鮮の選択は、次の4つとされている。このうちのどれが、“オレさま大統領”のレッドラインを超えるかだ。

(1)なにもしない(ミサイル発射=火遊びをやめる)(2)これまで通りミサイルを発射する(3)核実験を行う(4)「ICBM」(大陸間弾道弾)の発射実験を行う

このうち、(2)〜(4)が、「有事」(戦争)を招くと言われてきた。ただ、(2)ぐらいは、鼻っ柱が強く暴走大好きな“カリアゲ小僧”はやるのではと言われてきた。

しかし、理性があればやるわけがない。米海軍の「SAM」(艦対空ミサイル)の餌食になり、低性能がバレれてメンツを失ってしまう。

まして、(3)(4)をやったら、米中首脳会談後、元石油デイラーのティラーソン国務長官が「中国との間で朝鮮半島の非核化で合意している」と発表した以上、トランプの金髪を逆だてることになる。そうなると、ただでさえ不可解なトランプヘアが大きく崩れてしまう。

今回、こんなことになったのは、シリア政府軍か反政府軍かどちらかわからないが、化学兵器(毒ガス)が使われたからだ。幼い子供たちが犠牲になった写真を見て、トランプは決断した。それを後押ししたのは、娘のイヴァンカだ。

3児の母のイヴァンカは「こんなのひどすぎる」と言ったと伝えられる。娘に、「パパ、やって」と言われて、やらない父親はまずいない。“オルト右翼”スティーブ・バノンは「アメリカ第一主義に反する」と反対したが、「NSC」(国家安全保障会議)をクビになってしまった。右翼より娘のほうが強いのだ。

こうして、トマホーク59発が習近平主席とのディナー中に発射された。そして、デザートの「チョコレートケーキ」を食べる際に伝えられた。それを聞いて、習近平は10秒間黙ったという。誰が10秒とカウントしたかわからないが、トランプも習近平も太り過ぎなのに、なぜデザートがチョコレートケーキなのか?

カールビンソンに「北へ行け」という命令が下ったのはその後だった。せっかく、オーストラリに行くはずだったのに、イースターウイークエンドがすっ飛んだ乗組員たちのブーイングが聞こえてくる。

4月12日、すっかり“ツイートおやじ”になったトランプは、「中国が適切に対処しなければアメリカが同盟国といっしょにやる」とツイッターに投稿した。となると、安倍首相もいっしょにやることに同意したわけだ。ついに、自衛隊も出動しなければならないのか。

こうなると、中国はなにもしないではすまされない。習近平はトランプに電話を入れ、「アメリカと協調する」と約束した。

4月13日、トランプはホワイトハウスでの記者会見で、北の石炭を積んだ貨物船の入港を中国が拒否したことを挙げ、「大きな一歩だ。中国はほかにも多くの措置を講じる」と喜んだ。

この程度で喜び、関税制裁を緩めてくれるなら、中国は丸儲けだろう。次に石油をストップすれば、制裁関税ゼロも夢ではない。

同日、“カリアゲ君”は、祖父・金日成生誕105周年で招待した海外メディアのカメラの前に姿を現した。記者たちは「大規模かつ重要なイベント」として集められたが、単なる高級住宅街の完成のお披露目だった。

現れた金正恩は“爆笑ヘア”より、“激太り”ぶりが目についた。一説によると、体重130キロを超えたという。33歳で、この超肥満ぶり。ミサイル発射をやめるより、暴飲暴食をやめるべきだろう。

ちなみに、トランプは昨年9月に「The Dr. Oz Show」(ドクター・オズ・ショー)に出演した際、236ポンド(約107キロ)だと言っている。しかし、267ポンド(約121キロ)という話も伝えられた。いずれにしても、“カリアゲ君”にはかなわない。

今後、朝鮮半島の緊張はさらに高まるという。カールビンソンが近海域に到着し、北では15日金日成生誕105周年式典、25日に朝鮮人民軍の創設85周年式典がある。「金正恩はなにをしてくるかわからない」と、観測する向きもあるが、この若造指導者の知能程度がそこまで低いというデータはない。

つまり、まだ完成していない、ただの花火にすぎないミサイルを、金正恩は撃つだろうか? 北のミサイルは現状ではたいした脅威ではない。脅威だとしたらどこに飛んでいくかわからないことだろう。だから、中国はほったらかして、これまで“お坊っちゃま”に火遊びを続けさせてきた。

“カリアゲ君”金正恩は、極めてシンプルな性格と言われている。肥満のなせる業だろうか。彼は、トランプが大統領に当選した11月8日から今年2月まで、月間恒例の国家行事と化したミサイルを一発も撃たなかった。

それは、選挙期間中にトランプが「ジョンウンがアメリカに来るのなら会う。ハンバーガーを食べながらもっといい核交渉を行う」と言ったからだ。

“カリアゲ君”が再びミサイルを撃ち出したのは、2月初旬に韓国がTHAADの年内配備を決めたからだ。

同じ肥満体のトランプとキムジョンウンとどちらが短気だろうか? チキンゲームは短気になったら負ける。これまでアメリカが、北の核施設を対象に「局部攻撃」をすることも、また、「斬首作戦」(指導者の暗殺)をすることもできなかったのは、反撃のダメージが大きすぎるからだ。シリアやイラクのようにはいかない。

できるなら、とうの昔にやっていた。“カリアゲ君”はそれを知っている。とすれば、今回は、なにもしない「選択(1)」を取るだろう。石油ビジネスを真面目にやってきたティラーソンおじさんが、「目的は北朝鮮のレジームチェンジ(体制転換)ではないよ」と、ちゃんと言ってくれている。

この“お坊ちゃま”を斬首するのは、まだ先でいいだろう。少なくともイヴァンカが「パパ、やって」と言うまで待ったらどうか? 今回は、トランプの負け。それでいいではないか? そうしないと戦争になってしまうので、是非ともそうなってほしい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

山田順の最近の記事