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アベノミクスが早くも失速、消費税増税を即刻止めるべきではないか

山田順作家、ジャーナリスト

ソチオリンピックで日本選手の活躍が期待できるというのに、日本の政治と経済はボロボロだ。早くもアベノミクスは失速しつつある。海外の目も厳しくなり、ヘッジファンドは日本株から資金を引き上げ始めた。

それはそうだろう、ここのところの日本は、悪材料ばかりだ。

明るい話題といえば、「リケジョの星」、割烹着を着て「STAP細胞」をつくるのに成功した小保方晴子さんぐらいだ。安倍首相は、すっかりツキをなくして、暮れの靖国参拝以来、ミスを重ねている。

■「アベノミクスを批判しないように」と煽った責任

はなからアベノミクスが成功するとは思っていなかったが、失速するのが早すぎる。もう半年ぐらいは持ってほしかった。

昨年、証券会社はアベノミクスを煽るに煽った。マスコミも同じだ。さらに、悪のりした経済評論家たちは、日本復活本を大量に生産した。しかし、実体経済は着いてこなかった。

証券会社では、どこの社も、投資家向けのレポートでは、「アベノミクスを批判しないように」との社内コンセンサスをつくり、収益の拡大を目指した。ある社は、投資家向けの大きなセミナーを開き、そこで「エイエイオー」とまでやって、株価上昇を煽った。その結果、どこの社も4〜12月期で増収増益を記録した。

しかし、いまや株価は年初から値下がりを続けている。ほとんどのエコノミストが、年末の来期(2014年)予想を「1万8000円」とし、「2万円」もありとしたから、それに乗った個人投資家はいまや青ざめている。追証が発生している個人投資家も多いという。

■いまのままでは「やる、やる」詐欺に等しい

アベノミクスは、はじめからギャンブルだった。地道に実体経済が自律的に回復するのを待つべきなのに、リフレ派という人々に煽られ、金融と財政で大風呂敷を広げてしまった。この国では、冷静に現実を見据えてものを考える政治家がいない。誰もが、世の中の空気だけを見て政治を行っている。

国家が力づくで経済に介入して、なにが起こったか? かえって、日本経済をおかしくしてしまったのではないだろうか? 第1、第2の矢の効力が切れる前に第3の矢(成長戦略)を実行しなければならないとされてきた。しかし、今日まで、議論が続いているだけで、なにが実行されたのだろうか?

経済特区、規制緩和、法人税の減税、教育改革など、まだなにも実施されていない。東京オリンピックが決まったのだから、東京はもう特区になっていてもいい。法人税の減税も行われていてもいい。

議論をいくら重ねても、経済成長はしない。それより、「やる、やる」と言ってやらないと、投資家は現状がバブルとわかっているから、タイミングを見て逃げ出す。

■貿易赤字ばかりか経常収支まで赤字に転落

そもそも日本は貿易立国でもないのに、輸出増を期待して「円安」に持っていったことが間違いだった。たしかに、自動車産業などは為替差益で業績をアップさせたが、それは帳簿上の話だ。日本の企業が、なにか世界的なイノベーションを起こしただろうか?

2013年の輸出は、円換算の金額ベースでは9.5%増加したが、輸出量では前年比で1.5%減少している。日本の輸出力は衰えているのだ。

この結果、貿易赤字は拡大し、なんと経常収支まで赤字を記録してしまった。最近の『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙(WSJ)は、貿易赤字がアベノミクスに与える懸念を盛んに記事にしている。ここの日本支局は、日本人記者がいるのに、なぜか反日記事が大好きなので割り引く必要があるといっても、いまや経済失速を懸念すべきなのは間違いない。

■貿易赤字の大きな原因は中国市場を失ったから

日本のメディアは書きたくないのだろうが、貿易赤字、経常赤字をもたらしたのは、中国である。大手メディアが第一に挙げる要因「輸入に頼る燃料費が響いた」というのは、間違いではないが、たいした要因ではない。

民主党野田政権の尖閣政策、自民党安倍政権の対中強硬路線で、日本は中国市場を失ったのだ。落ち目の日本ブランドがまだ通用する巨大市場を、みすみす失って、対中貿易を減少させたうえ、大幅な赤字にしてしまった。

とくに自動車は大きい。このままだと、ドイツに中国国内の自動車市場を奪われてしまいかねないところまで来ている。対中貿易は、ジェトロによると、2013年1~6月(ドル換算)で、前年同期比10.8%減、対中輸出は16.7%減の614億ドルで、2年連続で減少している。

日本では、反中意識の高まりから、中国の「バブル崩壊」「経済衰退」を望む向きが多いが、そんなことになったらその火の粉はこちらに降り掛かる。私たちはもっと、冷静になる必要がある。

■このままだと、中国・韓国の「思う壷」になる

それにしても、アベノミクスは円安による輸入インフレをもたらしたことで、庶民生活を苦しめはじめている。また、輸入インフレは中小企業も苦しめ、結局は、名目賃金を低下さている。この先、消費税の増税が控えていることを思うと、本当に賃金が上がらないと、スタグフレーションに陥るだろう。

「デフレよりインフレ」と言っていた人々は、いったいなにを夢見ていたのだろうか? 今後、日本全体の消費は落ちていくだろう。

そんななかで本当に気になるのは、安倍首相の靖国参拝でアメリカに「失望した」と言わせてしまったことだ。以来、中国・韓国は「日本バッシング」」を強め、日本の対外イメージはどんどん低下している。最近では、これを真に受けて、欧州のメディアからアジア各国のメディアまでも「日本人はおかしい」という報道をしている。

「なんで日本の政治家はそんなに戦争をしていた時代が好きなのか?」と言われる始末だ。これでは、中国・韓国の「思う壷」ではないだろうか?

■消費税の増税を即刻止め、第3の矢をいますぐ放て

アベノミクスがギャンブルであり、失敗する可能性が強いことを、世界の投資家たちは知っていた。量的緩和は最終手段であり、巨額の財政赤字国が通貨膨張政策を取るなどおかしいからだ。

アメリカも異次元の量的緩和をやったが、これはアメリカが世界覇権を持っており、ドルが基軸通貨だからできることだ。アメリカはいざとなれば、すべての債務を踏み倒せる。しかし、日本はできないから、次の世代が汗水たらして返済しなければならない。

去年の夏、IMFは、世界経済のリスクに関する年次評価報告書を発表し、そのなかでアベノミクスに対する懸念を表明している。

「日本が財政刺激策を講じても、改革を実施しないために成長が加速せずアベノミクスが機能しなければ、深刻な事態になるだろう」とし、想定されるシナリオの一つとして、リスク増大を受けて国債利回りが2ポイント上昇するケースを取り上げた。こうなると、政府は支出を削減し、大幅な増税を余儀なくされるので、日本は深刻な不況に襲われる。このとき、世界経済の成長率は2%押し下げられるだろうというのだ。

現在の日本の危機感のなさを見ると、こうしたことが現実化してきたら、どうなるのだろうかと思う。もし、これ以上、実体経済が悪化しているのが明らかになれば、そのときは、消費税の増税を即刻止めるべきだろう。そうして、第3の矢を、いますぐ放つべきだ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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