Yahoo!ニュース

安倍首相のNY演説に驚嘆!アベノミクスが成功すれば世界史が変わる!

山田順作家、ジャーナリスト

■ゴードン・ゲッコーにメタリカまで登場

安倍首相のNY証券所でのスピーチは、驚嘆の一語に尽きる。日本の首相でこれほどまでに魅力的なセールストークができた人は過去にいない。天才的スピーチライターの谷口智彦氏(内閣審議官)のシナリオ通りとはいえ、アメリカ人も理解できたうえに目を見張ったという点で、これは出色のスピーチだ。

なぜ、アメリカ人も目を見張ったのか? それは次の3点にあるだろう。

1、映画『ウォール街』の主人公ゴードン・ゲッコーが金融界にカムバックしたように、「Japan is back」(日本は帰ってきた)と宣言したこと。

2、「世界経済回復のためには3語で十分です。バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは買い)」と言い、日本への投資を呼びかけたこと。

3、「日本は再び7年後に向けて大いなる高揚感の中にあります。あたかもそれは、ヤンキースタジアムにメタリカの『エンター・サンドマン』が鳴り響くごとくです」と言い、日本への投資の呼びかけにダメ押しをしたこと。

■今後、強欲資本主義の日本でバブルが起こる

すでに多くの記事で書かれているので、改めて書くまでもないと思うが、1と2で映画『ウォール街』を引用したことで、日本は「強欲資本主義」を肯定したことになる。なぜなら、ゴードン・ゲッコーの哲学は「強欲は善」(Greed is good.)だからだ。つまり、ウォール街は安倍首相のメッセージを「日本で儲けられますよ」と受け取ったはずだ。

そして3だが、ご本人が知っていたのか、それともスピーチライターの谷口氏のアイデアなのか、メタリカを挙げたのは、今後の日本はバブルになると宣言したのも同然だろう。

9月22日、ヤンキースタジアムでヤンキースのリベラ投手の引退セレモニーが行なわれた。このとき、メタリカの『エンター・サンドマン』が流れ、人々は熱狂した。安倍首相のスピーチは、ニューヨーカーにこのことを彷彿とさせたのだから、今後の日本はバブルの熱狂(フィーバー)に包まれると、連想できるのだ。

■プレゼンの出来映えより、中身が実現可能か

先のIOC総会でもそうだが、いまやプレゼンやスピーチの出来不出来が、ものごとの判断に大きく影響するようになった。「話し方が9割」とさえ、メディアは囃し立てる。しかし、本当にそうだろうか?

実際はまったく違う。最近の企業経営者や投資家は、プレゼンやスピーチをハナから疑ってかかっている。

お金を動かす以上、プレゼン、スピーチの出来不出来より、そこで語られた内容が確実なデータに基づくものであり、実際に実現可能なのかを見極めようとする。アマゾンのCEOジェフ・ベゾズ氏は「プレゼンを見て投資を決める時代は去った」と言っている。

■安倍首相が世界に宣言した3つのポイント

そこで、今回の安倍首相の演説をもう一度振り返ってみると、驚くべき内容が盛り込まれている。以下の3点が、とくに重要だ。

1、「日本に帰ったら直ちに成長戦略の次なる矢を放つ。投資を喚起するため、大胆な減税を断行します」

2、「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」

3、「世界の成長センターであるアジア・太平洋。その中にあって、日本とアメリカは、自由、基本的人権、法の支配といった価値観を共有し、共に経済発展してきました。その両国が、TPPをつくるのは、歴史の必然です」

1は、当然だが、法人税などの企業減税を指している。これを直ちにやると言っている。そして、2の「国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」ということは、大胆な規制緩和を行い、経済特区をつくるということ。そして、国籍にもこだわらないないなら、外国人や移民を積極的に受け入れるということに取れる。さらに3は、TPPはアメリカと同じ価値観でつくるということを意味している。

つまり、こうしたことが本当に少なくとも1年以内に行われれば、ウォール街も日本に投資するかもしれない。とりあえず、為替と日本株では儲けを出してきたのだから、五輪バブルに乗ろうとする投資家も出てくるだろう。

■経済特区は上海の「自由貿易特区」に負けている

安倍首相は9月28日、意気揚々と帰国した。今後は矢継ぎ早に「第三の矢」を打ち出すことになる。しかし、本当に有効な第三の矢はあるのか? あったとしても「直ちに」実行できるのか?

経済特区にしても、「解雇しやすい特区」構想が出たため、早くも反対の声が高まっている。また、10月1日から始まる中国・上海の「自由貿易特区」と比べると、日本の経済特区の中身はまったく魅力に乏しい。まして、人口減社会が再び成長するために必要な外国人・移民受け入れなどの規制緩和は、議論すら進んでいない。

■アベノミクスが成功すれば世界史が変わる!

リーマンショック以後、アメリカのFRBもEUのECBも同じような大胆な量的金融緩和を繰り返してきた。そうしている間に景気が回復するだろうと考えてきた。しかし、その結果はまだ出ていない。量的緩和は時間を買う政策にすぎないのだ。

もし、アベノミクスが安倍首相の「やるやる」を全部やり遂げ、「やるやる詐欺」でなかったら、手放しで賞賛するしかない。日本が取り戻せるどころか、世界も取り戻せるだろう。

カネを刷ってバラまいて景気が回復し、経済成長できるなら、世界史は確実に変わる。今後、世界どこの国も緊縮、財政均衡などやらなくなるだろう。ギリシャもスペインも、現在緊縮財政に転じているイギリスでさえ、大歓迎だ。

FRB議長としてもっとも無能とされたバーナンキ氏は、もしかしたら天才だったのかもしれないということになる。それに、ドイツのメルケル首相の言うことは、今後、誰も聞かなくなるだろう。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

山田順の最近の記事