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家畜のエサ代補てん?、漁船の燃料代補てん? まさか! TPP参加で、農協・漁協を解体・再編せよ!

山田順作家、ジャーナリスト

■再度、世界が金融危機、大不況になる可能性が高まっている

「アベノミクスで雇用が回復だなんていったいどこの話だよ」という記事が、23日の朝日新聞に載った。その2日前、同じく朝日新聞に、「高騰の家畜エサ代、緊急助成へ 農水省7~9月に実施」という記事が載った。

世間では、いまだにアベノミクスによる景気回復、日本経済の復活が信じられているようだが、現実はどうやら逆の方向に動いているようだ。

FRBは金融引き締めに入ることを決め、中国では上海のオーバーナイトの銀行間取引金利が13%台にまで暴騰した。また、ギリシャ国債の金利はふたたび10%を超えた。どうやら世界は、景気後退に向かっているようだ。非常にイヤな予感がする。

リーマンショック以後の大幅な金融緩和のツケが回って、再度、世界が金融危機、大不況になる可能性が高まっているように思える。

そう思うと、朝日新聞が伝えた「高騰の家畜エサ代、緊急助成へ 農水省7~9月に実施」という話は、本当に情けない。日本の農家はいったいなにを考えているのだろうか? 自分たちはどんなときでも政府に助けてもらえるとでも思っているのだろうか?

■農民ばかりか漁民も税金にたかっている

現在、輸入穀物を主体とした配合飼料価格が、史上最高値を記録している。配合飼料価格は数年前の1・5倍にまで上昇し、これにアベノミクスによる円安が追い打ちをかけているという。配合飼料というのは、要するに牛などの家畜のエサ。これが高騰してしまい、このままでは、日本の畜産農家は軒並み立ちいかなくなるというのだ。

そこで、値上がり分を補う民間基金(農家と飼料メーカーが拠出)に対し、国が緊急の資金措置を講じることが決まった。つまり、税金投入で助けてあげますという話である。いままで、こんなことは行われたことがない。いったい、どうなっているのだろうか?

思えば、こうした話は農家ばかりではない。ついこの前は、福岡県や広島県で漁民が、円安による漁船の燃料価格の高騰から、国に補助金を出せとデモを行った。「経費削減の取り組みも限界だ」「育ててきた後継者が路頭に迷う」などと窮状を訴えた。

本当に、ふざけた話である。

■サラリーマンが生活費の補てんを国に要求するか

しかし、メディアはそうは書かない。漁民の要求にも、農家の要求にも同情的である。

たとえば、「酪農家へのエサ代補てんでは、燃料の価格も上昇する中で基金が払底し、体力が弱った農家への支援機能が失われれば深刻な事態を招きかねない」(朝日新聞)などと書く。深刻な事態とは、いったいなんだ?

大企業から中小企業まで、円安による経費高騰に見舞われたところは、必死にコストカットし、ダメならリストラ、さらに海外進出までしている。それでもダメなら、倒産である。まさに血が滲む努力をしているが、「儲からないので税金で補てんしてくれ」とは言い出さない。

また、サラリーマンが「円安で生活必需品が値上がりしてしまったので、税金で補てんしてほしい」と言うだろうか? 日本の農民、漁民は、自分たちが資本主義社会、グローバル経済のなかで生きていることを、まったく自覚していない。

■農民、漁民を、やる気のある若者と総取り代えしたら

もはや、日本の農業、漁業はどうにもならない。国の補助金(税金のバラマキ)がないと、やっていけない産業に成り下がっているのだ。バラマキ行政を続けたため、人間としての常識まで破壊してしまったと言わざるを得ない。

魚を獲って生活ができない、採算が合わないなら、ほかの仕事をすればいい。家畜を育てて生活ができないなら、ほかの仕事をすればいい。それ以前に、それだけ経費が上がったなら、海産物の値段、酪農製品の値段を上げればいい。上げてみて売れなければ、それは市場競争力がないのだから、その仕事をあきらめるしかない。これが、市場経済の原則だ。

同じ日本国の産業でありながら、コスト上昇分は国が補てんしてくれるというなら、誰だって農業、漁業をやる。そう考えると、高コストの農業や漁業は、現状のままなら、もはや必要はない。いっそうのこと農業従事者、漁業従事者を総取り代えして、やる気のある若者たちに「会社」として参入させるべきだ。

■TPP参加後、農業、漁業を徹底して解体・再編せよ

ここ20年以上、デフレ不況が続いたため日本人は、総じて「甘え民族」になってしまった。独立自尊の精神を失い、1億総互助会システムをつくりあげてしまった。だから、国は国債発行で際限なく借金を重ね、国民におカネをバラまく。生活保護の受給者が、まともに年金を払ってきた国民保険の受給者よりもらえるお金が多いなどということが、あっていいはずがない。

日本再生は、アベノミクスの金融・財政政策だけではできない。1億総互助会システムを潰し、新しいことをなんでもいいから起こすこと以外、ありえない。頭を使い、努力し、グローバル競争を勝ち抜く。そうした人間に、私たち一人一人がなっていくしかない。「コストが上がったから補助金をよこせ」では、確実に日本は沈没する。

安倍政権はTPP参加への道を開いた。ならば、TPP参加後、農業、漁業を徹底して解体・再編すべきだろう。「食料自給」などというくだらない理屈は、グローバル化したいまの世界ではなんの意味もない。いまのままの農協、漁協システムをこのまま生き残らせたら、いずれ日本人全体が税金を当てにして生きる集団に成り下がってしまうだろう。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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