Yahoo!ニュース

「従軍慰安婦=性奴隷」説は、私たち日本人自身がつくり上げた虚偽のイメージ

山田順作家、ジャーナリスト

■橋下氏の間違いは自ら問題を口にしたこと

「慰安婦制度は必要だった」「在沖米海兵隊は風俗業者活用を」という内容の日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)の発言が、波紋を広げている。欧米メディアも「やはり日本は女性の人権について配慮がない国だ」というステレオタイプの見方から報道するようになり、韓国のソウルでは、ついに反日デモまで起こってしまった。

ここまでの一連の状況を見て、多くの日本人は「もういい加減してくれないか」と思っているのではないだろうか? じつは、私の周囲もみなうんざりしている。そこで、結論から書くと、橋下が間違っているか間違っていないかは、じつはどうでもいいと思う。歴史認識がどうであれ、そんなこともどうでもいいと思う。

もし、橋下氏が間違っているとしたら、たった一点、自らこの問題を口にしたことだ。

■「グッドアイデア!サンキュー」なんて言うわけがない

私たち日本人は、この問題(従軍慰安婦も含め、歴史認識問題)に、自ら触れてはいけないのだ。海外から聞かれない限り、自分から口にしてはいけないのだ。

なぜか? それは、この問題が日本人自身が自らつくり出した問題だからだ。とくに従軍慰安婦が「戦争中の性奴隷」だったという虚偽のイメージをつくり上げたのは、海外ではなく、私たち自身である。だから、欧米メディアもそれを鵜呑みにし、韓国はこの問題を常に日本人に突きつけて謝罪と賠償を要求するようになった。

それにしてもなぜ橋下氏は、米軍の司令官に提言したことを自ら公言したのだろうか?米軍基地を視察しながら、米兵の性犯罪が多発している問題の解決策として、「風俗活用」が本当にいいアイデアで、米軍司令官も「グッドアイデア!サンキュー」とでも言ってくれると思ったのだろうか?

■本当に不思議な朝日新聞の記事づくり

産経新聞記事によると、橋下氏は「若い兵士の(性的)欲求にどのように対応しているのか。合法的な風俗での対応は考えていないのか」と尋ね、その後に「風俗活用」を提言したという。産経記事は《これに対し、白人の男性司令官は「凍り付いたような苦笑い」(橋下氏)を浮かべ、「風俗へはオフリミッツ(立ち入り禁止)だ」と応じたという。》と続けている。

このやり取りは、もちろん通訳を介してのものだったと思うので、橋下氏の提言を通訳がどのように英語に訳したのか知りたいものだ。

従軍慰安婦問題は私たち日本人自身がつくり上げたと書いたが、もっとはっきり書くと、朝日新聞がつくった。私は朝日新聞の愛読者の1人だが、朝日新聞がなぜ日本のイメージを落とす「つくり話」をしばしば掲載するのか、よくわからない。

朝日新聞は、私の学生時代、中国の文化大革命を絶賛していた。それ以前は、北朝鮮を「理想国家、地上の楽園」のように報道した時期もあった。“キリングフィールド”という国民の大虐殺をしたカンボジアのポルポト政権も賛美していた。そして1991年、従軍慰安婦問題を突如取り上げ、「それがあたかも性奴隷だった」と報道した。

■読売新聞が明確に「朝日が問題をつくった」と報道

5月14日の読売新聞記事「従軍慰安婦問題、河野談話で曲解広まる」は、この経緯をはっきりと書いている。

《従軍慰安婦問題は1992年1月に朝日新聞が「日本軍が慰安所の設置や、従軍慰安婦の募集を監督、統制していた」と報じたことが発端となり、日韓間の外交問題に発展した。

記事中には「主として朝鮮人女性を挺身(ていしん)隊の名で強制連行した」などと、戦時勤労動員制度の「女子挺身隊」を“慰安婦狩り”と誤って報じた部分もあり、強制連行の有無が最大の争点となった

宮沢内閣は同年7月、軍による強制徴用(強制連行)の裏づけとなる資料は見つからなかったとする調査結果を発表した。しかし、韓国国内の日本批判は収まらず、政治決着を図る狙いから、翌93年8月、河野洋平官房長官(当時)が、慰安所の設置、管理、慰安婦の移送について軍の関与を認め「おわびと反省」を表明する談話を発表した。

ところが、河野談話によりかえって「日本政府が旧日本軍による慰安婦の強制連行を認めた」という曲解が広まったため、第1次安倍内閣は2007年3月、 「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」とする政府答弁書を閣議決定している。》

■「性奴隷」(sex slave)という言葉に敏感に反応

つまり、この問題は、私たち日本人自身が火を点けて、その後、必死に消し続けているのだ。まさに国内マッチポンプ問題と言ってよい。とすれば、もう火を点けないことがいちばん賢いと思う。現代はネット時代だから、火はあっという間に世界中に広まる。しかし、そうなったとき消火活動はほとんど不可能だ。

欧米メディアは、点火発言は報道するが、消火発言は報道しない。その結果、日本は「女性の人権に配慮のない後進国」という印象だけが残る。

もともと、欧米人男性は、次のようなエスニックジョークを信じている節がある。

「男の理想とは、中国人のコックを雇い、英国風の家に住み、日本人の妻を持ち、フランス人を愛人として、アメリカ人の月給を貰うことだ」

マダムバタフライ以来、日本女性に対するこうしたステレオタイプのイメージはいまだに続いている。従順で男の言うことにすべて従う日本女性。これは自己主張の強い西欧女性には求められないものだ。

だから、欧米メディアの男性記者は、「性奴隷」(sex slave)という言葉に敏感に反応する。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

山田順の最近の記事