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給料を上げたら輸出は伸びない! 特区も期待薄、資産フライトが加速し、確実に破綻するアベノミクス

山田順作家、ジャーナリスト

前回の記事《「2020年東京五輪」落選ショックで、「アベノミクスバブル」は崩壊か? 来年まで持つのか?》に続いて、再度、アベノミクスバブルが崩壊して日本経済がどん底に陥るシナリオを考える。

これは、ほぼ間違いないシナリオだが、いまそれを言うと、まるで非国民のように言われる嫌なムードになっている。最近、それが、非常に気がかりである。

日本人なら誰もが、日本経済の復活を望んでいる。しかし、冷静に現実を見据えれば、そんなことはありえない。

このムードのなかでは誰もが応援団にならなければならない

これは、戦争でもサッカー日本代表での試合でも、同じことが言える。日本人なら誰もが日本の勝利を望んでいる。しかし、たとえばあの第二次大戦中の1944年時点で、日本が戦争に勝つと言える材料があっただろうか? すでに、あらゆる前線が崩壊し、本土を防衛することすら危ぶまれているなかで、誰が勝利を確信できただろうか? それなのに、誰も「負ける」とは言えない。負けると確信していても、「勝てる」「勝つチャンスはある」と言い続けなければ、この国では白眼視されてしまうのだ。

アベノミクスも同じである。一度醸成されてしまったムードのなかでは、誰もが応援団にならなければならない。たとえその政策が間違っていても、「危険だ。引き返せ」なんて言えない。

海江田氏もじつはアベノミクスに反対ではないのは明白

ところが、4月17日に行われた党首会談で、民主党の海江田万里代表は、野党党首という手前、アベノミクスのマイナス面を浮き彫りにする戦略を取った。「大変な劇薬を日本は飲んだ。副作用、あるいは落とし穴がある」と指摘したのだ。

もちろん、安倍晋三首相に簡単に切り返されて玉砕してしまった。これは、海江田氏がアベノミクス批判をただの戦略としか思っておらず、本気で危険だと思っていなかったためだ。「給料はいつ上がるんですか?」などと、信じ難い質問をしていることから、海江田氏もじつはアベノミクスの幻想に飲み込まれているのがわかる。

給料を上げたら、もう企業は日本に戻ってこない

もし、本気で日本経済を復活させたいなら、給料など上げてはいけない。上げたら、円安にしたことが元の木阿弥になる。円安で輸出を伸ばしたいなら、給料を上げてしまえば、その分、国際競争力が落ちてしまう。

ところが安倍首相は、党首討論の翌18日朝、日本テレビ系の情報番組『スッキリ!!』に生出演し、賃金上昇などの効果について「夏を越えればだんだんと実感していただけると思う」と強調した。ということは、今後、本気で給料を上げるように企業に要請するのだろうか。

となれば、いったん空洞化した日本に戻ってこようという企業はなくなり、さらに空洞化が進む。

「第三の矢」で大事なのは規制緩和ではなく成長産業の育成

アベノミクスは「第三の矢」とされる成長戦略がもっとも肝心とされる。その一つと言えるのが、17日に公表された3大都市圏での「アベノミクス戦略特区」の創設だ。東京都では、都心や臨海地域の容積率、用途規制を緩和し、都市機能の集積を促進。また、都バスの24時間運行や英語対応の医療体系整備など進めるという。

また、大阪や名古屋では、法人税の大幅引き下げを通した外資系企業の誘致のほか、公共インフラの民営化を進めるという。しかしこの程度では手ぬるいし、これまで日本で行われた改革を見れば、官僚や族議員によって骨抜きにされるのは確実だろう。

しかも、「第三の矢」で大事なのは、規制緩和ではなく、世界を相手に戦い儲けられる成長産業の育成のほうだ。もはや、日本の半導体、家電、IT産業は崩壊し、残るのは、資本財産業と自動車産業だけになっている。これだけで、はたして貿易の大幅な赤字を埋め、経常収支の黒字を維持していけるのだろうか?

実際、アベノミクスが始まってから円安が進み、株価が高騰しているにもかかわらず、実体経済の動向はまったく上向いていない。

円安と株高で企業の収益がかさ上げされただけで、画期的な新製品やヒット商品が出たわけではなく、世界シェアが拡大したわけでもない。

しかも、ここまで円安になったのに、輸出は増えていないのだ。

円安、インフレで、大規模なキャピタルフライトが起こる

前回記事にも登場してもらった某経済研究所のエコノミストAはこう言う。

「誰もがいまの状況を実体なき株価上昇、円安と思っているわけで、この風船がどこまで膨らむかです。確かなのは、日銀が来年は270兆円と、マネタリーベースを現在の2倍にするわけですから、それだけお金の価値がなくなるということです」

単純に、世の中に出回るお金の量が2倍になれば、たとえば100円のマックは200円になる。これでもし給料が2倍にならなかったら、現金を持っているのはリスクだから、預貯金はどんどん引き出され、実物資産に代わるだろう。

さらに、円安が進み、確実にインフレになるという見通しになれば、大規模なキャピタルフライトが起こる。すでに、拙著『資産フライト』に書いたように、ここ数年の円高局面で日本人の資産は国外に流出している。とくに、目ざとい富裕層は、この10年間で、資産フライトを終えてしまっている。

アベノミクスで日本復活と言っている裏では、「もう日本の未来を見限った。家族ごと移住する」というプチ富裕層の脱出が続いている。最近、話題になっている「教育移住」もその一環だ。

いったんキャピタルフライトが起これば、円安は加速し、それが輸入価格の高騰をもたらす。そうして、スパイラル的な円安・インフレとなって、国民生活を苦しめることになる。ここに、増税が加わるのだから、私たちの未来は限りなく暗い。

怠けてきたツケを払わないで復活すると考えるほうがおこがましい

私たちがしなければならないのはアベノミクスのような政策に頼ることではなく、大幅な財政削減を要求して公務員を減らし、出来る限り小さな政府にすることだ。そして、そうしたプロセスのなかで、日本企業を強くしていかなければならない。旧態以前たる産業から撤退し、イノベーションを起こすために、必死に努力することだ。

ここまで、借金財政で国家を運営し、働かないで怠けてきたツケを払わないで、経済が復活すると考えるほうがおこがましいではないか。いまの日本人は、総じて、アジアの新興国の人々より働いていない。とくに、中高年労働者の働かない点は目に余る。

別に、「日本はすごい国」「日本はなんとかなる」「日本は破綻しない」という言説を信じるのはかまわない。しかし、政治家、官僚、エリートは、もっと現実を見据えてほしいと思う。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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