難関大学進学も「通信制高校」という選択~学校選びの際に注意したいポイント

スマホ依存には、タブレットでの学習が効果的だという。(写真:アフロ)

オルタナティブな教育として、歴史を刻む定時制・通信制高校。しかし、先入観や情報の少なさから、進学の選択肢としては中々俎上に上がらないという現状もある。その原因と、実際の現場について明蓬館高等学校・アットマーク国際高等学校の日野公三校長にお話を伺った。

●定時制・通信制高校のポジションの変化

日野氏によれば、時代によって定時制・通信制高校に期待される役割は変化してきているという。かつては、勤労社会人のための学校というイメージがあり、日中働いてもいない学生が選ぶ選択肢ではなかった。昭和40年代には、いわゆる「落ちこぼれ」や、働くでも学ぶでもない「反社会的」な生徒が多く在席している学校というイメージに変わり、昭和の終わりから平成にかけて「不登校」という言葉が定着したことで、オルタナティブとしての価値が認められるようになった。平成10年頃から不登校より深刻な「引きこもり」という問題に焦点が当たるようになり、平成20年くらいから、不登校や引きこもりの一因として「発達特性」や「発達障害」などがあるのではないか、ということが話題になりはじめたことで、また新たなポジションになってきたという。

「聞いたことも見たこともないことについて価値判断は難しいですね。通信制はブラックボックスなんですよ」。

日野氏の指摘するように、そもそも保護者や全日制の進路指導担当者は定時制や通信制についての情報を持っていないことが多い。であるから当然、進路指導で「通信制」という選択肢が出てくることは稀である。私が教育現場で感じるのは、定時制・通信制高校に対する保護者世代のイメージがそのまま子どもの進学の選択に反映しているという印象だ。私は両親から勤労学生が行く学校だと言われていたし、それ以上に情報を聞くことはあまりなかった。現在担当している中高学生の保護者は不登校の生徒の受け皿だという認識を持っていることが多い。

しかし、現在の通信制高校は、尖った才能も集まっているという。日野氏が校長を務めるアットマーク国際高等学校では、通信制高校にもかかわらず、東京大学や大阪大学などの国立大学をはじめ、慶応義塾大学・早稲田大学・同志社大学といった進学実績が並ぶ。「予備校に行かなくても大丈夫」だという。実際、発達障害をもつ学生の一部は、受験に対して力を発揮するケースがある。『ADHDでよかった』の著者である立入勝義氏は、「障害は才能に変えられる」といい「ADHDの場合、円周率を覚えたり、暗記に関してはかなり強い人が多い」という。私も担当した生徒で、地図を丸暗記できる生徒や、道順をグーグルマップのように覚えている生徒に驚いたことがある。凸凹などと表現されることが多いが、学校と合わない生徒には、学校では発揮できない才能がある場合も多い。環境を替えずに試行錯誤するより、適切な環境に替えるだけで、驚くほどうまくいくこともある。

●不登校とスマホの影響

『発達障害の子どもたちの進路と多様な可能性』の著書がある日野公三氏は、NPO法人日本ホームスクール支援協会理事長も務める。(筆者撮影)
『発達障害の子どもたちの進路と多様な可能性』の著書がある日野公三氏は、NPO法人日本ホームスクール支援協会理事長も務める。(筆者撮影)

通信制高校に入学してくる生徒は、不登校経験を持っている生徒が多いという。不登校の原因としては学業不振やそもそも気力が無い、疾病、IT依存による昼夜逆転などの生活習慣の問題や発達の課題が多いという。いじめが原因だったと申告する不登校生徒は1割に満たない。なかには、なぜ不登校なのか自分でも全く理由が分からないという生徒もいる。本人が原因に無自覚のままただ「朝起きられなくなった」という相談を受けることも多い。そういう場合、保護者の理解がないと家庭でも居場所がなくなってしまう。

ただ、様々な不登校の生徒を見ていて気づく共通点は「スマホ依存」だ。日野氏も不登校になったからスマホに入り込んだのか、スマホに入り込んだから不登校になったのか、スマホが目的なのか手段なのかは分からないが、現象だけ見ればスマホに依存している生徒の方が、学校から離脱しやすい傾向があるのは間違いない。

読み書きそのものにハンディを感じている生徒ほど、スマホに依存してしまう傾向があるという。一方で、学校での勉強は依然として紙と鉛筆を使う。そういうライフスタイルと学習が隔絶されてしまっている状態が不登校に繋がっていくのではないか、という考えから、日野氏は通信制高校でのeラーニングを積極的に推進する。スマホ依存の生徒ほど、タブレット、スマホなどを使ったeラーニングなら日頃のライフスタイルと違和感なく学習に入ることができるという。好きなものや慣れている道具を学びの中心に持ってきてしまうという方法は、学校はもちろん家庭においてもなかなか理解を得られない。

一方で、情報をうまく取捨選択できないという脳の機能上の障害を持っていたりする場合もあり、情報を遮断してあげることも重要だという。色々な情報が目や耳から入ってしまうと、それだけで混乱してしまい、落ち着かない。中には同じフロアーの3つ先の部屋の音が気になってしまい脳の情報処理がうまく行かないというケースもある。「いろんな音と声が聞こえて、中学の教室は地獄だった」という生徒は、できる限り余計な情報を排除する作りになっている日野氏の学校に来てからは、勉強にも身が入るようになったという。また、物理的な音声だけでなく、その意味も混乱の原因となる。小学校の場合担当教諭の数が少ないので問題は起きにくいが、中学校以上になると、先生によって言うことが違うと価値判断ができなくなって混乱してしまう生徒もいる。さらに家庭と価値観が合わなければ、さらに混乱は大きくなる。環境に生徒を合わせるのではなく、生徒それぞれの状況に合わせた、多様で柔軟な環境や方法が求められる。

●通信制高校選びのポイント

特に発達障害のある生徒の場合、通信制高校を選ぶ際には注意が必要である。日野氏によれば、以下のポイントを押さえたうえで学校選びをすれば、重要な情報が見えてくるという。

【通信制高校選び15のチェックポイント】

1)学校の教職員が発達障害の正しい診断名と診断基準、特性について答えられるか

2)教職員がネガティブな言葉、態度を意図せずに安易に用いず、ポジティブな言葉、態度を意図して自然に用いているか

3)学校内にアセスメント体制があるか、医療機関との緊密な連携体制があるか

4)生徒数に見合った、臨床心理士や特別支援教育の学習支援者、精神保健福祉の資格保有者がいるか

5)個別教育支援計画(IEP)の運用は行われているか

6)保護者への相談支援は行われているか

7)卒業後の進学、就労における継続的な支援に役立つ、IEPと支援実績の蓄積が組織的に行われているか

8)紙のプリントを極力少なくし、多様なデバイス(PC、タブレット、スマホなど)でeラーニングで課題レポートに取り組めるようになっているか

9)課題レポートは間をおかずに即座の採点とフィードバックが行われているか

10)成績評価を制限時間付きの一斉テストに依存していないか。成果物(ポートフォリオ)など、多様な成果と評価軸で評価しているか

11)校長が議長を務める校内委員会は定期的に行われているか

12)校長あるいは副校長が議長を務めるケース会議は定期的に行われているか

13)就労移行支援事業所の情報収集は行われているか、的確な評価眼を組織的に持ち合わせているか

14)登校時に落ち着いて学習に取り組めるブース環境は用意されているか

15)学習障害の個別的なニーズに沿った教材および補助教材が提供される体制があるか

学校選びで最も重要なのは、「継続していけるか」だ。発達上の課題を持つ生徒たちは、思春期を迎えて自己肯定感が低下し、学校への行きしぶり、不登校、不安症、起立性障害、摂食障害、協調運動性障害、さらには強迫神経症やその先の精神障害を併発しがちだという。見学や体験の際は学校の良い面や見せたい面だけが強調される傾向があり、それに対する反応も精神状態によってかなり差がある。

「ともすると、高校3年間の居場所探しという視点に陥りがちです。心身の調子の悪いときでも継続できる学習環境が得られるかどうか、冷静に調べて欲しいですね」。

日野氏は本人のニーズや願望をくみ取った上で、かかりつけのドクターや療育面で関わっている人たちの意見も重要視して欲しいという。家庭だけで抱え込まず、複数の専門家や当事者の意見を聞いてみることで、より冷静な判断に繋げたい。2018年に入り、にわかにホームスクールなどの選択についても、その必要性や肯定的な意見が聞かれるようになってきた。「一般常識」や「先入観」に囚われることなく、多様化する選択肢の中から少しでも相性の良い環境や方法を精査して、主体的に選んでいきたいところだ。(矢萩邦彦/知窓学舎教養の未来研究所

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