発達障害は、才能に変えられる~『ADHDでよかった』著者と考える「障害」を「強み」に変える方法

26回の引っ越し、50以上の肩書きを経験する「多動的越境者」立入勝義氏

教育業界でもようやく1つのテーマとして語られる機会が増えてきたADHD。潜在的には人口の10%弱がADHDを抱えているという話もある。しかし、まだまだ誤解や偏見も多く、トラブルに巻き込まれたり、窮屈な思いをしている人も少なくない。自らがADHD診断を受けることで、自分を責めることなく実力を発揮できるようになったという体験をまとめた『ADHDでよかった』の著者、立入勝義氏にお話を伺った。

●「ADHDは克服できる」希望に繋がる本を

診断を受けた後、発達障害関連の書籍を数十冊読んだという立入氏は、知識はついたものの、ADHDを抱えた読者の希望に繋がるような本はほとんど無いことに気づいたという。そこで、自分自身の体験談を語ることでなんとか当事者やその家族を元気づけることができないかと思い立った。

立入氏は、非常にめずらしいキャリアの持ち主である。日本で大学受験に失敗して渡米、カリフォルニアの大学で学んだ後、3年以上同じ会社に勤めることなく、次々と転職すること30回以上。そこだけ聞けばいい印象は持てないかも知れないが、中には世界銀行の広報担当官やウォルト・デイズニーのデジタル・プロデューサーといった華々しいキャリアも含まれている。つまり、ただ飽きっぽく続かない、というわけではないのだ。34歳で成人ADHDと診断された立入氏は、それまで自分が抱えてきた悩みが脳の問題だと知ったことで、正面からADHDと向き合い、「障害」を「強み」に転じてきた。「障害」は「病気」ではないから完治することはないといわれる。しかし、それらを克服することは自らの体験上、難しいことではないと立入氏はいう。

自分の体験談は、希望に繋がるかも知れない。そう考える中、飛行機の中で観た映画『ぼくはうみがみたくなりました』のメッセージに強く共感し、実際に筆をとった。

●名前だけが一人歩きする「発達障害」

『ぼくはうみがみたくなりました』は日本で最初に自閉症の青年を主人公にした映画で、名前だけが一人歩きしてしまっている「自閉症」の理解を広めるために最もよい作品だと関係者が口を揃える。「自閉症」同様、「発達障害」「ADHD」「多動」「アスペルガー」という言葉も耳にする機会が増えたが、明確な区別もないまま、名前やイメージが一人歩きしてしまっている感があり、教育現場においても、偏見や対応ができずに問題が起こっているのを散見する。未だ「聞いたことがある」「名前は知っている」という域を中々出ない。ADHDを中心に発達障害にはどういうものがあるのかを簡単にまとめてみると以下のようになる。

発達障害には、「学習障害(LD)」「注意欠如多動性障害(ADHD)」「自閉症スペクトラム(ASD)」などがあり、「アスペルガー症候群(AS)」は自閉症スペクトラムに含まれるという見方が主流になっている。

それぞれ異なる特徴があるのだが、ADHDには「不注意・多動性・衝動性」と呼ばれる三大「気質」がある。「不注意」は、忘れ物の多さや、目の前のことに集中しすぎて他のことが目に入らなくなる、「多動性」は、とにかくじっとしていられない、「衝動性」は、思いつきですぐに行動してしまう、空気が読めない、といった気質である。私もそうだったのだが、いくつかの項目が当てはまる方も多いと思う。もしそれらの度合いが著しい場合、診断を受けることで、具体的な対策をとることができる。努力でどうにかなる問題ではないかも知れないのだ。

●薬物に頼り続ける必要はない

立入氏は、発達障害は脳機能の問題であり、個人の性格とは関係ないという。「うまく向き合うことで、自分をいたずらに責めることなく、自己の状態を客観視し、諸症状に適切に対応していくことで障害を強みに変えていくことが可能になると伝えたい」。

診断を受けることで、家族と向き合い、自分の弱さを認め、素直にサポートを求めることができるようになったことで、人生が大きくプラスに変化したという。また、スマートフォンを活用した対策も効果的だという立入氏の実践の一部を以下に紹介したい。

・予定はすべて一元管理し、リマインダーやアラーム、リピート設定を活用

・タスクリストも一元管理し見る習慣をつける

・メールは溜まる前に短くてもいいから返信をする

・予め地図や乗り換え案内を利用して余裕を持ったスケジュールにする

・ウィッシュリストで優先度を常に意識する

診断を受けることで「薬物」に依存することになり、その副作用を心配する声もあるが、それに対して立入氏は、「私の場合診断を受けて薬物療法を始めたことが非常に効果的でしたが、それをずっと続けることを特別推奨しているわけではありません。実際私自身も現在薬物は摂取していません」と語る。自分の身体を理解して、コントロールできるようになるまでの一時的なサポートして薬物療法を捉えることもできるのだ。

●「発達障害を才能に変える」ための環境を

私は20年以上教育の現場に立っているのだが、その中でADHDと診断されている生徒を担当したことが何度かある。その中で私もまた「発達障害は、才能に変えられる」と実感してきた。しかし、「環境が整っていなければ、才能を潰してしまう」とも。教育現場の場合、不注意はクラス全体への影響は少ないが、衝動性や多動性はクラスを騒然とさせることがある。例えば、落ち着きがなくて注意された際、なぜ注意されたのかを理解していないと、しばらくしてから突然烈火のごとく怒り出したりする。しかしそういう生徒に限って、講師の間違いを臆せずに指摘したり、喧嘩をしている生徒の仲裁に入ったり、という専門家ばりの知識や、自分の損得を顧みない正義感を発揮したり、というシーンも数多く見てきた。クラスでうまくやっていけるかどうか、また才能を引き出せるかどうかは、講師がしっかりと知識を持ち、どのように対応できるか次第だ。

また、明らかに度を超した不注意・多動性・衝動性がありながら、保護者が認めないケースも散見する。立入氏が一貫して主張するように、診断を受け、正しい理解をすることで克服できることが沢山あるが、不正確でネガティブな印象だけが一人歩きしている状態では、他人が指摘することもリスクが大きく、なかなか難しい。当事者だけでなく、周囲の理解が求められる。そのためにはポジティブな側面を知ってもらう機会を積極的に作っていく必要がある。例えば前述した通り「不注意」は見方を変えれば「目の前のことに集中しすぎて他のことに気づけなくなる」という側面がある。そのため、集中している仕事や作業は驚くほど速く進めることができる。そういった「気質」を活かして成功している人は枚挙に暇がない。

しかし、総務省行政評価局による調査によれば、発達障害のある子どもの診断をしている医療機関のうち、半数以上の機関で初診までに3カ月以上待たされている状態で、2017年1月20日、厚生労働省に改善を勧告が出されたという。周知活動を進めることは当然重要だが、それに対応するために行政主導の改革改善が急務だ。

自著『ADHDでよかった』について、「とにかくまずADHDの当事者で、特有の「気質」に悩まされてうまく自分の実力を発揮しきれていない方、自信を喪失されている方に読んで頂きたいです。次に、そんな当事者を近くで見守る家族や同僚の方々、そして教育者の方々に読んで頂きたいですね」と語る立入氏は、出版に当たり仕事の傍らアメリカと日本とを往復する日々だ。そのような「多動的」な行動力が、希望的な未来を作り出しているように思う。2020年に向けて教育も大きく変わろうとしている。ADHDをはじめ、発達障害に対する理解が広まり、才能を潰すことなく共に活かして行く積極的環境作りが進むことを願う。(矢萩邦彦/知窓学舎・教養の未来研究所)

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