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中学受験・高校受験における講師との相性の重要性について考える

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

中学受験や高校受験の場合、受験生が「勉強する意味」を見いだせていない場合が多い。中学受験なら、「友達が受験するから」「親に言われたから」、高校受験なら「するものだから」という受動的な動機も多い。その場合、受験勉強をはじめてからでも、夢や目標を持ったり、あるいは教科自体に興味や関心を持って、「勉強する意味」を感じることで、主体的に取り組めるようになる環境が望ましい。主体的・対話的に学ぶために、最も重要なのは講師との相性だといえる。塾のシステムや教材との相性に目が行きがちだが、それは学習に対して前向きになってからの話だろう。今回は講師との相性の重要性について現場目線で考えてみたい。

●一番大事なのは担当講師との相性

大学受験の場合、大手塾でも講師の顔が見えている場合が多く、好きな講師の授業を選ぶことも出来る。また教室スタッフは最低限の事務的な関わりの場合がほとんどなのであまり相性を気にする必要も無いだろう。しかし、中学受験や高校受験の場合はそうもいかない。筆者は、いくつかの大手塾・中小塾で指導経験、教室運営経験があるが、外から一番見えにくい違いは講師や教室スタッフといった人材による違いだと感じる。ホームページや説明会などでシステムや教材のことは分かっても、実際どんな講師が授業を担当するのかは、説明会に参加しても見えない場合も多い。実際に授業を見学・体験しなければ相性は絶対に分からない。教室スタッフの生徒への関わり方についても、同じことが言える。

よく指摘される中小塾の欠点として、塾長のカラーが反映しすぎるというものがあるが、逆にカラーが出ているほど、合うか合わないかがはっきり分かるので、その点は判断しやすい。大手塾の場合は顔が見えない分、保護者的には、合っているのかどうかよく分からないまま続けてしまいがちだ。

塾や教室ごとのカラーはもちろんあるが、結局一番大事なのは担当講師との相性だといえる。人間性や担当教科に精通しているかどうか、教え方や授業のスタイルはもちろんのこと、以下のポイントは特に確認しておきたい。

・声の好き嫌い

・態度や目線

・話し方や話すスピード

・ルックスや雰囲気

・清潔さ

これらは実際に長時間授業を受ける生徒にとっては重要なポイントになる。なかでも何よりも重要なのは、生徒本人が信頼できるか、面白いと思うかどうかだ。実際、講師と相性が良ければ嫌いだった教科を簡単に好きになったりもする。逆に担当講師が「生理的に無理」という理由で授業やその教科に前向きになれない生徒も多い。(講師による見解や対応の違いなどは、拙著『中学受験を考えたときに読む本』1〜3章を参照されたい)

●見落とされがちな講師からの相性

保護者が最も見落としがちなポイントとして、講師側からの生徒に対する相性がある。実際学校でも塾や予備校でも「あの生徒は苦手」というような話は必ず出る。ほとんどの場合は、生徒側も当該講師に苦手意識を持っているのだが、講師側が一方的に苦手意識を持っているケースも少なくはない。「以前にうまくいかなかったり、クレームになった生徒に似ている」だとか、「仲が悪かった同級生を思い出す」といったトラウマ的な理由や、「痛いところを突いてくる」「質問が多くて面倒」などという話も聞く。そういう場合は完全に講師側の問題であるが、それを見抜けないと生徒が辛い思いをすることになる。

講師側から合っていると思われている場合は目をかけてくれるので問題ないが、講師側が自分とは合わない生徒だと判断している場合、生徒にはそれが伝わるが、保護者までは伝わらず、やる気がなくなってしまっても生徒本人のせいになってしまうことがある。様子がおかしいと思ったらすぐに子どものせいにせずに、色々の相性を確認してみることをお勧めする。

●個人面談や進路指導は誰がするのか

個人面談や進路指導などの担当者が、授業担当者かどうかも注意が必要だ。塾によっては、一度も授業を担当していないスタッフが数少ない面談を担当するケースも少なくない。その場合、データ化された数値のみを参考にして面談をすることになる。その方が客観的という見方もあるが、データ以上の話ができないのならばそもそも対面の面談である必然性すら危うい。受験生の状態は偏差値だけでは到底分からない。入試問題との相性などで偏差値は簡単にひっくり返ってしまうこともある。学校との相性に関しても、経験に基づいた定性的なプロフェッショナルの意見がものを言う。そのためには、担当者がその生徒と時間を共有し、ある程度のコミュニケーションを取っていることが必須だといえる。

以上、講師との相性について現場目線で考えてみた。仕事上の問題のほとんどは人間関係だと言われるが、教育に関しても全く同じことが言える。何か問題があるならば、まず人を見ることを心がけたい。小学生や中学生の場合、それは保護者の役割でもある。説明会や保護者会に全く参加しないという保護者もあるが、なるべく丸投げしてしまわないように、機会を見つけて顔を出して講師スタッフと対話をして確認することも、子どもの勉強のためには大事な活動だろう。関わる大人ができる限り良い環境を選んで、つくっていくことが望まれる。(矢萩邦彦/知窓学舎教養の未来研究所

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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