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中学受験「何を準備すべきか?」〜受験との相性と塾選び

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
(写真:アフロ)

中学受験に限らずだが、この時期進学や進級に際して、「どのような準備が必要か」という質問を受けることが多い。具体的な教材などの情報を求められがちだが、誰もがやっておいたほうが良い、あるいはやると効果がある教材などない。飛ばされてしまいがちな「相性」について考えてみたい。

●一番大事なのは、性質や性格を見極めること

受験生の保護者と話していると「うちの子はわたしに(父親に)似ているから○○なはず」という声をよく聞く。経験上、性質や性格については当たっていることが多いが、興味の対象や苦手意識に関しては相当数の誤解がある。コンテンツ自体は好きなのに方法が苦手という場合やその逆も多く、それを見抜けていない保護者も多い。例えば現場で担当していると、スマホなどを使った学習の方が向いているのに、先入観から受け入れられないと言う相談もある。

どこを見たら良いか分からないという声も多いので、勉強法や塾との相性を判断するために最低限必要な情報をまとめると以下のようになる。

・競争やテストが好きか

・覚えることが好きか

・1人で宿題ができるか

・国算社理のなかに極端に嫌いな教科がないか

・極端に人見知りだったりコミュニケーションが苦手でないか

・保護者が受験にどれだけコミットできるか

以上の点を確認した上で、方針について大まかな目星を付けると良い。場合によっては、そもそも中学受験には向いていない場合もあるが、走りはじめてしまう前によく考えてみる必要がある。「とりあえずやってみて考えよう」というならば、かなり強い意志を持っていないと、塾や周囲の保護者の価値観やペースに巻き込まれてしまい、「やめられなくなってしまった」というケースも少なくない。探究型の学習や、体験型の学習などの方が向いているのにいわゆる従来型の受験勉強に時間を費やしてしまうのは、良い選択とは言えない。また、小学生のうちにしっかりと遊ぶ時間をとることで、中学以降のモチベーションや地頭力への影響も考えられる。(この辺りの有識者の見解は、拙著『中学受験を考えたときに読む本』4章・5章を参照されたい)

●塾との相性

例えば、受験という選択をして塾に入れるのであれば、塾によって授業の方法や、難易度はかなり違うことを知っておきたい。大手塾だけ見ても、予習禁止の塾、テキストではなくプリントベースの塾、宿題が大量に出る塾など様々だ。中小塾を入れればさらにその幅は拡がる。また、通っている生徒のレベルや塾が推奨する教材のレベルなど、難易度にも相性があり、ちょっと難しいくらいの方がやる気になる受験生もいれば、ちょっと余裕があるくらいでないとダメな受験生もいる。最低限、事前にチェックしたいのは以下の情報だ。

・集団授業の場合、1クラスは何人か

・個別指導の場合、1人の講師が同時に何人を担当するか

・テキストや教材は何を使っているか

・模擬テストはどこのものを使っているか

・講師は学生か社会人か

・学年の途中でクラス替えや講師の変更はあるか

・宿題や家庭学習課題はどの程度か

・質問対応はしてもらえるか

・個人面談などの担当者は誰か

特に最近の中学受験では、模擬テストの難易度や偏差値の基準も全く違い、保護者世代が中学受験をしたときと同じ感覚では成績や実力を把握できない。各学校の傾向や難易度、入りやすさもかなり変化している。また、大手塾などの場合、授業担当者ではないスタッフが進路指導や面談担当である場合も多いので、どのような対応をしてもらえるのか気にしておきたい。

塾に目星を付ける際に特に注意すべきなのは、相性の悪さは塾から発信されている情報からだいたい見当が付くが、相性の良さは体験しなければ絶対に判断できないということだ。ホームページの情報と現場の実践にはどうしてもギャップがある。同じ塾でも校舎や担当講師によってかなり差がある。結局、直接接する人間との相性が最も影響力があるといえる。

●必ず保護者も一緒に体験授業を受けること

日本の探究型教育の草分けの一人、ラーンネット・グローバルスクールの炭谷俊樹氏は「教室でのコミュニケーションの量がその場にいる子どもの好奇心の伸びと比例する」というが、それは中学受験でも全く同じだ。もちろん能力開発に直結するわけではないが、当然ながら環境によって学びの場へのモチベーションが全く変わる。

環境は講師だけではなくどんな生徒がいるかによっても違い、当然部屋の造りや雰囲気も影響する。だから、どうしても授業体験は必須となる。保護者も教室の中に入って一緒に体験できれば理想的だが、できない塾も多いので、その場合は窓から見るなり、授業前後の生徒たちの様子を見るなり、できる限り生の情報に触れてほしい。

また、1分でも良いので担当講師と直接話す機会を作りたい。授業体験を断る塾の場合、その大きな理由は以下の3つが考えられる。

(1)講師の実力やコミュニケーションに問題がある

(2)言動や態度に問題がある生徒がいる

(3)確立した授業のスタイルや決まり事が多くペースを崩したくない

(1)(2)の場合、担当講師と話したり、休み時間の様子をみることである程度把握できる。一点注意したいのは、ベテラン講師や状態の良いクラスに優先的に見学や体験を入れる塾もあるので、入塾後に担当講師やクラスが変わる可能性についても確認しておくべきだ。

以上、中学受験との相性と、塾選びの指針についてまとめてみた。中学受験をすることで輝ける受験生がいる反面、中学受験がトラウマになってしまうケースもある。最も大事なのは、本人の個性や興味関心に合わせた学習法を、一緒に探すことだと考える。誰かの価値観や、保護者の価値観だけで、受験をするかどうか、また通う塾を決めてしまわないように留意したいところだ。(矢萩邦彦/知窓学舎教養の未来研究所

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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