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中学受験「終了後」の過ごし方〜入学までに必要な準備と心構え

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

東京・神奈川では軒並み2018年度中学受験が終了した。ほとんどの受験生は進学先も決まり、保護者からは入学者説明会や制服の採寸など、新たな学校生活に心を躍らせているというご報告を頂く。その際同時に、入学前にどんな準備が必要かという質問も多い。今回は入学までの期間に学習面でどんな準備をしておけば良いかをまとめてみた。

●学校によってはそれなりの準備が必要

宿題や課題が提示される場合は準備しやすいが、特にいわゆる進学校の場合、初めての授業から自己紹介やガイダンスもなくいきなり内容を進めることもある。筆者の通っていた中高一貫校でも中学一年の一番最初の英語の授業で、始まるなり筆記体で板書された英文の文型を把握するという内容で面食らった記憶がある。そのままついて行けず中一の時点で学内の成績競争から脱落してしまった生徒も少なくなかった。

もちろん、上記は極端な例ではあるが、中学受験で学んだ内容と中学以降の学習内容は大きく異なる。最もギャップが大きいのは英語と数学だろう。国語・理科・社会は中学受験での知識がそのまま活用できる。しばらくはその「貯金」で楽に進められるはずだ。英語は初習状態の生徒も多いが、小さいうちから英語に触れている生徒も少なくなく、クラス内での学力差は一番大きい。また、算数はパズル的な側面が強く、遊び感覚で取り組める生徒もいるが、数学はなかなかそうはいかない。目的や考え方に違いがある。しかし、逆に考えれば、算数が苦手でも、数学を得意にすることもできる。そのためにはスタートが重要だ。

その際大事なのが、ざっくりと予習しておくことである。たとえ分からなくても、既視感があれば安心して授業を受けることができるので、教科書に目を通すだけでも効果がある。日々の学習で最も大事なのは「大丈夫だ」という安心感だ。勉強というとすぐに「緊張感を持て」と言うが、それは受験生の話で、中高一貫の場合最短でも6年間通うことになる。緊張したままでは続かない。いかに日常化してしまうかが鍵だ。

●切り替えのポイントをハッキリする

「今までさんざ勉強してきたんだから」そう言って、一切の勉強を辞めてしまう学生は少なくない。確かに色々と我慢もして受験生をやってきたのだから、と甘く考えてしまう保護者も多いだろう。もちろん、その頑張りへの評価や、充分に羽を伸ばす時間は必要だ。しかし、なんとなく羽を伸ばしたまま、だらだらと中学校生活を始めてしまうと本人が苦労することになる。

学校の方針にもよるが、進学校の場合、中高6年間の学習範囲を5年間で終わらせるカリキュラムになっていることが多い。また独自の試験や英検など、高校進学や進級に条件を課す学校もある。中学受験を経験していれば、量とスピードにはある程度耐性はあると思うが、家庭学習の時間を全く取らずに、授業だけで成績を維持するのは難しい。

そこで、いつから何を始めるかを予め決めておくと良い。たとえば3月半ばまでは羽を伸ばし、入学までの半月は、出された課題の他に英語の予習に取り組み、新学期が始まったら数学の予習もはじめるなど、あまり負担にならないよう段階的に予定を組んでおけば心の準備がしやすい。

●具体的に何をすれば良いか

基本的には教科書をざっと読んでおけば良いが、特に数学の場合、算数のイメージを引っ張ったままだと、躓いてしまう生徒もいる。違いを把握した上で予習するのが効果的だ。算数は計算を使って身の回りのことを考えようという、ある程度具体的で実用的な問題が多いが、数学はルールや法則通りに論理的に考えて解答する必要がある上に、一気に抽象度が増す。また算数では、どんな方法を使っても答えを導き出せれば評価されるが、数学ではそうはいかない。さらに、以前習ったことを使用して応用していくという積み上げ型なので、一度躓いてしまうと追いつくのが大変になる。「植木算」「つるかめ算」は得意だけれど「食塩水」「速さ」は苦手、などというようにはなりにくい。まずは新しい概念である「正の数と負の数」や「文字式」に慣れておきたい。

英語は今まで普通に使っている母国語と違う言語なので、まずはアルファベットに慣れることが重要だ。文字自体を書けるようにしておくことはもちろんだが、アルファベットだけを淡々と練習するのではなく、基本的な単語も合わせて覚えてしまいたい。また「be動詞」の平叙文・疑問文・否定文などは予習しておきたいところだ。

以上、中学受験が終わって入学までに準備しておきたいことをまとめてみた。小学生ながら受験を戦ったことを充分に労いつつ、せっかく勝ち取った進学先で、充実した生活を送れるようにサポートしたいところだ。(矢萩邦彦/知窓学舎教養の未来研究所

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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