本稿は長文ですが、以下の構成になっています。1~3は検察庁法、国家公務員法の従前の政府解釈をまとめ、4で2020年通常国会での政府による解釈の変更の内容を検討し、5でその解釈の変更が成り立たないことを述べます。

1 検察庁法の退官(定年)の規定は例外的延長制度を置かない趣旨

2 国家公務員法と検察庁法の特例の関係

3 検察官には国家公務員法の定年制度は適用されないこと

4 今国会で示された「解釈の変更」

5 安倍政権による「解釈の変更」は成り立たない

1 検察庁法の退官(定年)の規定は例外的延長制度を置かない趣旨

 検察庁法が制定された1947(昭和22)年の帝国議会では、検察官の63歳の退官(定年)制度についても議論がされています。興味のある方は下記の議事録を読んでいただければと思いますが、長文なので要約すると、

  • 裁判所法における最高裁判事の退官年齢が70歳とされたこと
  • 新憲法(日本国憲法)で最高裁判所の地位が非常に高められ、最高裁判事になる国民の信頼の厚い人物を得るのはなかなか容易ではないから色々考慮して最高裁判事の定年は70歳とされたこと
  • 検察事務は裁判事務と余程違い相当活発性が必要なことから総長は65歳、普通の検事は63歳とするのが適当なところであると議論が落ち着いたこと
  • 他の行政官との振合(比較)

から検察官の退官年齢を63歳(検事総長は65歳)とし、「原則は六十五歳を定年と致し、例外の場合に更に此の年齡を延長し得るやうな彈力性のある制度」とはしなかった旨を述べています。これが検察庁法の特例定年制度の立法者意思だったのです。

○伯爵橋本實斐君  更に細かい點になりますが、二十二條に、此の定年が六十五歳とございますが、是は先程御意見も出ましたやうでありますが、人に依りましては六十五歳に達しても、尚有能な方もあり得ることで、殊に非常に練達達識な方でございますれば六十五歳に達しても、之を職を去らせるのは非常に惜しいと云ふやうな例外もありますから、私の考では、原則は六十五歳を定年と致し、例外の場合に更に此の年齡を延長し得るやうな彈力性のある制度を設けらば如何かと存じますが、併し斯う致しますと、一面それに伴ふ弊害もあるかも存じませぬが、是は運營宜しきを得れば宜しいかと思ひます、さう云ふ點に付きまして御意見如何ですか

○國務大臣(木村篤太郎君)  其の點私から御答へ致したいと思ひます、此の年齡の點に付ては非常に議論のある所であります、どの邊を以て退職年齡を定むべきかと云ふことは、相當我々も考慮したのであります、御承知の通り「裁判所法」では、最高裁判所の判事は七十歳、檢察方面に於きまして、少くとも檢事總長の年齡は七十歳迄引延ばして宜いのぢやないかと云ふ意見も出たのであります、併し此の檢察事務は、裁判事務と餘程違ひまして、相當活溌性を有せなくちやならぬ、殊に他の行政官との振合の點から考へまして先づ六十五歳、普通の檢事は六十三歳にした方が宜いぢやないかと云ふことに一先づ落附いたのであります、露骨に申しますると、是は關係方面との間にも色々議論もあつたのであります、我々も隨分退職年齡に付て各國の實例をも調査したのであります、外國あたりでも御承知の通り、隨分高齡な人が裁判官をやつて居ります、現に昨年亡くなりました有名なアメリカの最高法院の長官でありましたストーン氏、是は六十五歳であります、今の最高裁判所の長官は、是はずつと若くて五十八歳になつて居ります、まちまちであります、但し凡そ人間の活動の能力と云ふものは、先づ六十五歳位が相當ぢやないかと云ふことに落附いたのであります、それでは最高裁判所の判事を七十歳にしたのはどうかと云ふことになりますが、是はなかなか人を得るのにむづかしい、殊に新憲法上、最高裁判所の地位と云ふものが非常に高められて、此の長官になる判事なるものは、國民の極めて厚い信頼を得なければいかぬのであります、さう云ふ人を得るのはなかなか容易なことぢやないと云ふ點から色々考慮致しまして、七十歳にしたのであります、是も打明けての話は、關係筋では六十八歳と云ふ議論も出たのであります、我々は七十五歳でも宜いのぢやないかと云ふ氣持を持つて居つたのでありますが、まあ七十歳に落附いたのであります、檢事の方では、總長は六十五歳、普通の檢事は六十三歳、先づ人間の活動能力の點から見て、是等が適當な所ぢやないかと云ふことから、斯樣に落附いた次第であります、併し御議論の點は能く分るのであります、我々と致しましても、實は斯う云ふやうな檢事總長あたりの人は、なかなか容易に見附からないのでありますから、相當高齡の人でもなつて戴くことが望ましいことぢやないかと考へて居りますが、一應先づ斯樣な觀點から六十五歳に落附いたのであります

出典:第92回帝国議会 貴族院 検察庁法案特別委員会 第1号 昭和22年3月28日

2 国家公務員法と検察庁法の特例の関係

 次に問題となるのは、この退官(定年)を定めた検察庁法22条の性格です。これについては下記の検察庁法32条の2があり「検察官の職務と責任の特殊性に基いて」国家公務員法附則13条の特例を定めたものと明記されています。

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。

 検察庁法32条の2については、法務省人事課長、法務次官、最高検次席検事などを歴任し検事総長在任中だった伊藤栄樹が1986年に書いた『新版検察庁法逐条解説』(良書普及会)の180頁に趣旨が書かれています。

 この条は、庁法制定当初は存在しなかったが、国家公務員法の施行に伴い、昭和二四年法律第一三八号による改正で追加されたものであり、検察官の級別、任命資格、欠格事由、定年、適格審査、剰員及び身分保障の規定は、検察官の職責の特殊性に基づき、国家公務員法の施行によって影響を受けず、同法の特例として効力を存続するものとすることを明らかにしたのである

 この本は、伊藤が検事総長在任中に書かれていることから、公権解釈が記載された本とみることができるでしょう。そして、上記のように、検察官の定年については、国家公務員法の施行によって影響を受けない、と明記しています。後述の安倍政権による「検察庁法32条の2は定年年齢と退職時期だけの特例でその他(退職の特例たる勤務延長)は一般法たる国家公務員法が適用されるから定年延長はできる」という解釈は(当たり前ですが)取らなかったのです。

 このことについては、1949(昭和24)年に検察官の定年制度が導入された際の国会議事録にも下記のような政府委員の説明が残っています。

068 高橋一郎

 第三十二條の二は、檢察官は、刑事訴訟法により、唯一の公訴提起機関として規定せられております。從つて、檢察官の職務執行の公正なりや否やは、直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすものであります。このような職責の特殊性に鑑み、從來檢察官については、一般行政官と異り、裁判官に準ずる身分の保障及び待遇を與えられていたのでありますが、國家公務員法施行後と雖も、この檢察官の特殊性は何ら変ることなく、從つてその任免については、尚一般の國家公務員とは、おのずからその取扱を異にすべきものであります。よつて、本條は、國家公務員法附則第十三條の規定に基き、檢察廳法中、檢察官の任免に関する規定を國家公務員法の特例を定めたものとしたのであります。

出典:第5回国会 参議院 法務委員会 第12号 昭和24年5月11日

 特例を設ける理由について、一般の国家公務員とはおのずからその取扱を異にすべきものだ、と明言しているのです。

3 検察官には国家公務員法の定年制度は適用されないこと

 検察官に国家公務員法の定年制度(定年年齢、定年延長)が適用されないことについては、前述の検察庁法の解釈の観点から書かれた本欄の2月1日郷原信郎弁護士の「黒川検事長の定年後「勤務延長」には違法の疑い」、国家公務員法の解釈の観点から書かれた2月3日筆者の「安倍政権による東京高検検事長の定年延長は違法ではないか」を経た後、後述の本年2月10日の衆議院予算委員会における山尾志桜里議員の質問がハイライトです。この質問で、山尾議員は筆者が上記論考で指摘した『逐条国家公務員法<全訂版>』(学陽書房 2015年)の記述の原典となる政府の国会答弁を発掘してきたので、まずこの1981(昭和56)年の政府答弁を検討しましょう。具体的には以下の部分になります。

239 斧誠之助(人事院事務総局任用局長)

○斧政府委員 検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。

出典:第94回国会 衆議院 内閣委員会 第10号 昭和56年4月28日

 当時の政府は、検察官には「今回の定年制は適用されない」と明言していたのです。ここでいう「定年制」に、定年年齢及び退職時期以外の退職の特例たる勤務延長が含まれるかは(当然含まれるのですが)、一応問題になり得ますが、山尾議員が発掘してきた当時の議事録では、中山太郎大臣が以下のように述べています。答弁の時系列は、中山太郎大臣→斧局長なので、斧局長の上記答弁は、当然ながら、中山大臣の答弁を踏まえて前提としています。

政府といたしましては、この人事院見解を基本としつつ、関係省庁間で鋭意検討を進めてまいったわけでありますが、このたび、国における行政の一癖の能率的運営を図るべく、国家公務員法の一部改正により国家公務員の定年制度を設けることとし、この法律案を提出した次第であります。

 次に、この法律案の概要について御説明申し上げます。

 改正の第一は、職員は定年に達した日から会計年度の末日までの間において任命権者の定める日に退職することとし、その定年は六十歳とするというものであります。ただし、特殊な官職や欠員補充が困難な官職を占める職員につきましては、六十五歳を限度として、別に特例定年を設けることとしております。

 改正の第二は、定年による退職の特例であります。これは、任命権者は職員が定年により退職することが公務の運営に著しい支障を生ずると認める場合には、通算三年を限度とし、一年以内の期限を定めてその職員の勤務を延長することができるというものであります。(後略)

出典:第94回国会 衆議院 内閣委員会 第9号 昭和56年4月23日

 一見して分かるように、「定年制度」の第二の柱が「退職の特例」(勤務延長)制度であり、定年制度に勤務延長は含まれていない、という解釈は、政府の公権解釈としては成り立たないのです。そもそも、国公法81条の3は見出しに「定年による退職の特例」と明記されているのですが、後述の森法務大臣の国会答弁は、この条文の文言に一切触れずに「勤務延長」とのみ述べており、不自然極まりないものになっています。

4 今国会で示された「解釈の変更」

 以下では、今国会の衆院予算委員会における、本年2月10日の山尾志桜里議員、2月12日の後藤祐一議員の質問に対する森法務大臣の答弁、人事院給与局長の答弁を検討します(反訳は筆者が行ったもの)。以下の時刻の記載は「衆議院インターネット審議中継」のビデオライブラリにおける森法務大臣の答弁が出現するおおよその時刻を表します。

2020年2月10日衆議院予算委員会 山尾志桜里議員(5:00:20~)

5:05:39 森法務大臣  検察庁法22条には、定年制を定める旨、そして、定年の年齢と退職時期の二点について特例として定めたと理解しています。そして、32条の2だったと思いますが、そちらの方にですね、国家公務員法と検察庁法の関係が書いてあるんですけれども、そちらの方にですね、もし勤務延長を規定しないということであるならば、そちらの方に記載がされるべきだと思いますが、記載をされていないこと、そして検察官が一般職の国家公務員であることから、特例が定められている以外については、国家公務員法が適用されると理解しております。

5:19:52 森法務大臣  (前略)検察庁法で定められる検察官の定年による退職の特例は定年年齢と退職時期の二点であると、したがって国家公務員が定年により退職するという規範そのものは検察官であっても一般法たる国家公務員法によっているというふうに解釈をいたしました。また、特定の職員にも定年後も引き続きその職務を担当させることが公務遂行上必要な場合に定年制度の趣旨を損なわない範囲で定年を超えて勤務の延長を認めるとの勤務延長制度の趣旨は検察官にも等しく及ぶものというふうに解釈をしております。よって検察官の勤務延長については、一般法たる国家公務員法の規定が適用されるというふうに理解しております。

 2020年通常国会における政府答弁の要点(以下「解釈変更の要点」とします)は

1 検察庁法22条、32条の2は定年年齢と退職時期の二点だけを国公法の特例として定めている

2 特例が定められている以外については国家公務員法が適用される

3 したがって国家公務員が定年により退職するという規範そのものは検察官であっても一般法たる国家公務員法によっているというふうに解釈した

4 勤務延長制度の趣旨は検察官にも等しく及ぶものというふうに解釈をした

の4点に収斂します。この前後で繰り返されている森法務大臣、菅官房長官の答弁はこれの繰り返しです。

 この国会質問では、驚くべきことに、この政府答弁を検討するについて、森法務大臣は(弁護士なのに)、上記の1981年の中山太郎大臣、斧局長の答弁を知らなかったことが発覚しました。山尾議員の質問の白眉と言えるでしょう。

2020年2月10日衆議院予算委員会 山尾志桜里議員(5:00:20~)

5:11:44 森法務大臣  その議事録の詳細は存じ上げませんけれども、人事院の解釈ではなく、検察庁法の解釈であると認識しております。

5:12:54 森法務大臣  今答弁申し上げました通り、議事録を読まれましたか、というご質問でございましたので、議事録については詳細を存じ上げておりません。

 内閣(行政)が、立法府たる国会が定年制度を制定した時の自己の国会答弁を無視するのは、国会軽視の範囲を超えて三権分立の大原則に反するのではないかとも思われますが、いずれにせよ、この政府答弁が日本国政府(行政権)の立場を踏まえない一政権の身勝手な解釈であることは明らかでしょう。

 次に2月12日の後藤祐一議員の質問で重要なのは人事院給与局長の答弁です。人事院が答弁するのは、国家公務員法の定年制度(「分限」)や「その他職員に関する人事行政の公正の確保及び職員の利益の保護等に関する事務」を所管しているのが法務省でも、内閣法制局でもなく、人事院だからです(国家公務員法3条2項)。人事院は「行政委員会」と呼ばれる特殊な機関で、他の行政機関と異なり、内閣の命令に従う関係にないのが特徴です。

2020年2月12日 衆議院予算委員会 後藤祐一(5:00:20~)

問:過去の国会答弁の「定年制」に法81条の3の定年延長の規定が含まれるか

3:02:30 人事院給与局長  お答え申し上げます。人事院といたしましては、国家公務員法に定年制を導入した際は、委員ご指摘の昭和56年4月28日の答弁の通り、検察官については、国家公務員法の勤務延長を含む定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと認識をしています。

問:現在もその解釈は変わりないか

3:04:26 人事院給与局長  お答え申し上げます。先ほどご答弁した通り制定当時に際してはそういう解釈でございまして、えー、現在までもそれについて特に議論はございませんでしたので、同じ解釈を続いている訳ですが、他方、検察官も一般職の国家公務員でございますので、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にございます。従いまして、国家公務員法と検察庁法の適用関係は検察庁法に定められている特例の解釈に関わることでございまして、法務省において適切に整理されるべきものと考えております。

 人事院局長の答弁の要点は

1 国家公務員法の勤務延長を含む定年制は検察庁法により適用除外されている

2 その解釈は現在も変わらない

3 国家公務員法と検察庁法の適用関係は検察庁法に定められている特例の解釈に関わることで、法務省において適切に整理されるべき

の3点に集約されます。要点3について、同じ日の逢坂誠二議員への答弁でも同じことをこたえています。

 この要点3について、「人事院の見解は国家公務員法を延長の根拠とする法務省とは異なるものの、最終的な判断は法務省に委ねるとの姿勢を示した形だ。」と評した新聞記事(朝日新聞2月12日三輪さち子記者記名記事)がありますが、人事院は、国家公務員法の定年延長制度は検察官に適用されないから、法務省が適切に整理してくださいね(国家公務員法の勤務延長はできないから退職させてくださいね)と言っているだけです。新聞記者は不正確なことを書くべきではありません。

 上記答弁で人事院が法務省にげたを預けたのは、検察庁法の解釈(なぜなら人事院の所管外)なのですが、本稿ですでに述べたように、検察庁法には定年の特例としての勤務延長制度は置かないとするのが、制度制定時からの法務省の解釈なので、やはり、法に従って退職させるしかありません。

 そして、これが重要なのですが、森大臣の答弁は、法務大臣の権限だということなのか、検察庁法32条の2を勝手に解釈するのですが(これもそもそも駄目です)、その勝手な解釈の結果、結局、国家公務員法の定年の特例としての勤務延長が適用されるとしているので(上記要点3)、この点で、同制度は適用されないと明言する人事院の答弁の要旨1及び2と完全に矛盾を引き起こしています。

 なお、この日の審議で森法務大臣が国公法81条の6の内閣総理大臣の「統合調整機能」なるものを持ち出して正当化しようとしていますが、ここまでくると恥ずかしいというか、内閣総理大臣に勝手な定年の特例措置を認めたものではなく、内閣総理大臣の権限が書かれた国公法18条の2の確認規定にすぎません。そして、この条文は、内閣総理大臣に勝手な定年延長を認める根拠にはなり得ないものです。

5 「解釈の変更」は成り立たない

 ここまで追い詰められた安倍首相は2月13日の衆議院本会議の答弁で「東京高検検事長の定年延長問題をめぐり、安倍晋三首相は13日の衆院本会議で、国家公務員法に定める延長規定が検察官には「適用されない」とした政府の従来解釈の存在を認めたうえで、安倍内閣として解釈を変更したことを明言した。」との報道がされています(朝日新聞2月13日「首相、検察官の定年延長巡り「法の解釈変更」 批判必至」。安倍首相の本会議答弁の1:35:18~)。上記解釈変更の要点の3と4をさして「解釈の変更」と言っているのではないかと思われます。

 しかし、政府(行政)の法解釈は、法律制定時の政府の国会答弁に拘束されます。それを含めて国会が定めた法律の解釈の内容になっているからです。三権分立の大原則があるので、内閣は国会が定めた法の解釈を勝手に変更してはいけません。また、「解釈の変更」は法文の文言についてA説、B説、C説というように異なる理解が可能な場合に、A説からB説に変更するような場合をいいますが、本件の場合、関係条文を上記解釈変更の要点3と4のように読む説は存在しなかったと思われるし、法文上もそのような解釈自体に無理があります。

 安倍首相の本会議答弁は、最終的には、閣議決定があることを根拠にしているようですが、上述のように国家公務員法の解釈権限は人事院にあり、人事院は内閣から独立した行政委員会であるため、閣議決定で拘束できるのか疑問があるし、その点はおくとしても、前述のように、行政は国会が定めた法律の解釈を勝手に変えられません。

 森法務大臣は、2月12日の後藤議員に対する国会答弁で、東京高検検事長の定年延長を認めるべき理由として、

ア 勤務延長制度の趣旨は検察官にも合致する

イ どのような場合にも一切延長できないのは不合理

という2点も挙げます。しかし、アについては、検察官はもともと一般職の国家公務員が最大限に特例で延長可能な63歳まで身分が保障されており、また、最高裁判事との均衡や柔軟な制度の導入を否定した検察庁法の退官制度の制定時の経緯からすれば、趣旨を踏まえるほど延長はできない、という結論になるでしょう。

 イについていうと、実は、国家公務員法附則13条では、(ア)別の法律、(イ)人事院規則、(ウ)人事院の所掌する事項以外の事項については政令で、定年制度の特例を設けることができます。もともと検察庁法22条は(ア)に基づく定めです。そして、そして、前述の今国会における人事院局長の答弁の要点を前提にすると、内閣には検察庁法22条の特例を政令で定める権限がありそうです。ただし、もちろん、それは「職務と責任の特殊性に基いた」一般的基準でなければなりませんし、「職員がその職務の遂行に当り、最大の能率を発揮し得るように、民主的な方法で、選択され、且つ、指導さるべきことを定め、以て国民に対し、公務の民主的且つ能率的な運営を保障することを目的とする。」とする国家公務員法1条の精神に反するものであってはなりませんので、特定の人物だけをえこひいきする特例を定めることはできません。もっと言えば、本当に必要であれば、政府はいつでも検察庁法22条の改正案を国会に提出する権限があったのです。今回の東京高検検事長の定年延長は、そういうまっとうな措置を取れない裏口のものだったことは、安倍政権自体の挙動が示していると言えるでしょう。

 国家公務員法1条3項は「何人も、故意に、この法律又はこの法律に基づく命令に違反し、又は違反を企て若しくは共謀してはならない。又、何人も、故意に、この法律又はこの法律に基づく命令の施行に関し、虚偽行為をなし、若しくはなそうと企て、又はその施行を妨げてはならない。」と明記しています。内閣が法律違反をする行為はそもそも許されませんが、憲法15条1項の「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」、2項の「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」という規定に由来する国家公務員法を内閣が勝手に解釈変更することは、なおさら許されないでしょう。