1 月給制の特徴

 労基法施行前の戦前には欠勤控除がない「純粋月給制」が存在したそうです*1。このように、月給制の法的性質の根本は、月決めの定額の賃金と労働時間に対応関係がないことにあります。

 しかし日本で労働者全体に月給制が広まったのは第二次世界大戦後です。労働基準法のもとで普及した月給制は欠勤の場合の「欠勤控除」があり得ます。それでも、ひと月の労働日が18日の場合でも、22日の場合でも同額の賃金が支払われます。そこで、戦後の月給制についてもやはり、労働時間と賃金の間に厳密な対応関係がないことが分かります。月給額を満額払うのが原則なので、有給休暇を取得すると有給取得日に対応する付加的な賃金の支払いではなく、所定の月給制賃金の不控除という消極的な効果が発生します。

 欠勤控除があり得るので、戦後の月給制を日給月給制だという場合がありますが、日給月給制とは、例えば「日給1万2000円」などと日決めで賃金額が定まったものを、その月の実際の労働日の数に応じて月払いするもののはずです。月給制は、欠勤控除はあり得ても、合理的な控除の方法(従って控除額)が複数あり控除方法と控除額が一義的に特定されません。一日の欠勤に対して、特定の欠勤控除の方法がないことにこそ日給月給制とは異なる月給制の本質があるのです。

2 時間賃率を考えてこなかった労使関係

 残業代との関係でこの月給制の「賃金額と労働時間に厳密な対応関係がない」という性質をさらに突き詰めると、「一時間当たりの単価を算出しにくい」ということになります。実際、筆者は労働者向けに残業代請求の研修講師をすることがありますが、月給制の労働者が自分の残業代の時間あたりの基礎単価(「賃金単価」)を知っていることはほとんどありません。時給制のアルバイトで働く学生さんが自分の賃金単価を当たり前に把握していることとは対照的です。

 時給制や日給制で働く労働者に対して月給制の精勤手当などの手当が支払われる例がしばしばあり、このような月給制の手当も、賃金単価を算出して合算する必要があります*2。しかし、筆者はこの類型で残業代の計算が適正に行われている事例を見たことがありません。やはり月給制は扱いにくいのです。

 実は、日本の労使関係で一時間当たりの賃金額(時間賃率)を深く考慮してこなかったのは、戦後の月給制に限られた話ではありません。日給制や歩合給が主流だった戦前(戦中)についても、日本を代表する大規模事業所であった八幡製鉄所でも、1934年の時点で、日給制の常昼勤務者と交代勤務者で、時間賃率が異なっていた結果、残業手当の割増率が異なっていた、という指摘がされています*3。

 結局、多くの月給制労働者や、少なくない経営者すらも、時間賃率に深い関心がないことになり、これはサービス業の労働生産性の低さに関心がない問題までつながる奥深い課題となります*4。

3 月平均所定労働時間数の計算

 さて、労働時間と賃金の間に厳密な対応関係がない月給制では残業代の時間単価の算出が難しい、という話で遠回りしましたが、それではどうするかと言えば、1年間の所定労働時間数を12(か月)で除して、平均的な月所定労働時間数を算出し、この月平均所定労働時間数で月給額を除して時間単価を算出します。計算式で表すと以下の通りとなります。

月平均所定労働時間数=日の所定労働時間数×年の所定労働日数÷12(か月)

 ここで「所定(労働日・時間)」とは、労働契約で定められた所の労働日や労働時間数のことをいい、その上限値は以下の計算で173.8時間前後になることが知られています。この場合、週休二日制なら年間の休日数は104〜105日となります。この173.8時間という値は賃金単価の最低限を簡易に計算するために使えます。

173.8時間=週40時間制÷7日×365日÷12か月

 労働者が残業代の賃金単価を知らないということは、自分の年間の所定労働日の数や、年所定労働時間数を把握してないことでもあるのですが、これは、自分の労働契約(契約書や就業規則)を確認して、年ごとに労働日数(休日数)を数え上げて計算するしかありません。

 参考までに、公務員型の土日祝日年末年始が休日の労働契約の場合を前提として年所定労働日数を算出し、一日8時間労働制と公務員型の7時間45分労働制について月平均所定労働時間数を計算すると以下の通りとなります。年間の所定労働日数はカシオ「生活や実務に役立つ計算サイト」によっています。

渡辺輝人『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)より
渡辺輝人『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)より

4 賃金単価の計算

 以上を前提に、月給制の残業代の賃金単価は

月給制の賃金単価=月給額÷月平均所定労働時間数

で算出します*5。2021年について、一日8時間労働で、公務員型の年間休日数の方の月平均所定労働時間数は162時間となります。そこで、下記太字設例の賃金で賃金単価を計算します。

設例:月給25万円、交通費として定期券代実費5000円、住宅手当として1万円、子供1人の扶養手当として5000円の合計27万円

 上記計算式の「月給額」からは、家族の扶養手当、住宅手当、交通費支給の実費は除きます。これを除外賃金といいます。ただし、名前がそれらしくても、扶養実態や人数を考慮せず全員に同額を支払っている扶養手当や、借家、住宅ローン負担、実家住まいなどの居住実態を考慮せずに定額を支払う住宅手当は脱法なので除外しません。

 上記設例で、除外賃金計2万円は適正と考えると、以下の式の結果を四捨五入して賃金単価は1543円となります。

1543.20=(27万円-2万円)÷162時間

5 残業代の計算

 前回の「残業時間の計算:残業代の法律相談」で書いた時間外労働、休日労働、深夜労働の時間との関係で、

法定時間外労働残業代=賃金単価×1.25×時間数*6

法定休日労働残業代=賃金単価×1.35×時間数

深夜労働割増賃金=賃金単価×0.25×時間数

とすることで、残業代の額を算出することができます。

脚注

*1 濱口圭一郎「時間外手当と月給制」季刊労働法211号(2005年)207頁。ご本人がネットで公表しています。

*2 労働基準法施行規則19条1項7号

*3 森建資「賃金体系の二層構造」日本労働研究雑誌562号67頁

*4 濱口圭一郎「なにい?労働生産性が低いい?なんということだ、もっとビシバシ低賃金で死ぬ寸前まで働かせて、生産性を無理にでも引き上げろ!!!」http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/12/post-8791.html

*5 労働基準法施行規則19条1項4号

*6 ただし60時間超の分は割増率に0.25を加算