NHKが追加情報のない官房長官の記者会見をそのままニュースにしている件

ロゴマークは「コロンブスの卵」に由来するそうです(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

さて、午前中に「NHKは加計学園問題での“大本営発表”を止めなさい」を投稿した行きがけの駄賃で、今日(5月26日)の午前中の菅義偉官房長官の記者会見がNHKでどのように報じられたか検証します。まず、菅官房長官の今日の記者会見については以下の指摘が可能だと思います。

  • 前日と同様、前川氏の証言を受けた政府の対応を聞かれているのにそれより前の調査結果をもとに「調査は適正」「文書は確認できず」「出所不明」「信憑性」と答える。
  • 前日と同様、政府の調査は適正と答える。
  • 前日と同様、文科省が適切に対応する、と答える。
  • 前日と同様、野党から求められた前川氏の参考人招致ないし証人喚問の必要性について政府の見解を答えない。
  • 民主党の関与の部分、前川氏の「出会い系バー」をめぐる事実関係には前日より詳しく答える。

以下、書き起こしをまとめて掲載します。昨日から情報が付け加わった部分を太字にしました。

(2:13~)

記者:イノオ?です。加計学園の関連で伺います。あの、昨日文科省の前次官の前川氏が記者会見し、「総理のご意向」などと書かれた文書について、在籍中に共有していた文書で確実に存在していたと述べました。長官の昨日の会見でも「信憑性は定かでない」というふうにお述べになっておられましたけれども、こうした認識にお変わりないでしょうか(2:29)

菅:あの、全く変わりません。いつも申し上げていますように、八つの文書について、出所不明なものであり、えー、信憑性も欠けている。えー、その点は昨日の会見があっても変わりません。また、その、私その内容について、内閣府に聞いたところですね、文書にあるような、官邸の最高レベルが言っているとか、総理のご意向とか、こういうことを言った事実はないし、総理からそういった指示も一切受けていなかったということです。その中に私の部分、また、私の補佐官についての部分も言及されていますけれども、全く事実と異なっている。こいうふうに思っています。(3:05)

記者:関連で、朝日新聞のイノオ?です。あのまあ、政権側が信憑性を疑問視、否定される一方で、直近まで文科行政の事務方トップだった方が文書の存在を認めるという構図になっておりますけれども、こうしたことで、国民の政治への信頼に影響を与えかねない懸念もあるかと思いますが、文書の再調査の必要性についてはどうお考えでしょうか。(3:24)

'''

菅:'''あの、これについてはですね、あのー、昨日の前川さんの会見では、担当課から受けてた文書と言っておりますけれども、文部科学省の調査では、担当課の職員にも聴取を行った結果、該当する文書の存在は確認できなかった、と、まあ聞いております。いずれにせよ、文科省において適正に考える、というように承知しております。(3:50)

記者:関連で、朝日新聞のイノオ?です。あの、会見の中で、前川氏は、あの、国家戦略特区の獣医学部を新設する計画をめぐって最終的に内閣府に押し切られた、極めて薄弱な根拠の下で規制緩和が行われた、行政が歪められたなどと述べられておりましたけれども、こうした指摘については改めて、行政が歪められたという指摘はどうお考えでしょうか。(4:11)

菅:まず、全く当たらないちゅうことでしょね。是非、国家戦略特区について、まあ、ご理解いただきたいと思いますが、国家戦略特区というのは、過去何年も手が付けられなかった規制の岩盤ドリル(註:ママ)を風穴を開ける制度であります。総理の特区では、スピード感を持って規制改革を進めるべき、とのご指示の下に、地域のジエイタイ(註:自治体か?)や業者に真摯に耳を傾けて、できるだけスピーデーに実現をすべく、内閣府が、制度を所管する関係省庁と厳しい折衝を行って、議論を深めていくのは、これは当然のこと、ちゅうに思います。また、今回の獣医学部新設に関わる手続においてもですね、国家戦略特区法に基づいて、行政が歪められたとの指摘は全く当たりません。そもそも、この獣医学部新設は、今治市が平成19年、これは福田政権の時です。これ以降15回続けて愛媛県と共同で構造改革特区を活用して、提案を行って、提案の当初から、加計学園が候補として記載されていましたけれども、実現に至らなかったものであります。実は民主党政権の間も、7回にわたって要望があり、平成21年11月の今治市と愛媛県の特区提案は、大学設置母体は学校法人加計学園と、これは記載がされております。これをうけて、民主党政権の中で、それまでは対応不可とされてきた措置を、平成21年度の要望以降は「実現に向けて速やかに検討」、こういうふうに格上げされているのは民主党政権なんです。こうしたことから、民主党政権における措置の変更は、大学設置母体は学校法人加計学園であると、そのことを踏まえたものであるということが、明らかじゃないでしょうか。これは明確になっています。こうした経緯もあって、民主党の高井議員がですね、昨年4月26日の国会審議で、四国に獣医学部が一個もない状況に鑑み、国家戦略特区の実現を要望していた、こういうことも国会で質問されているんじゃないでしょうか。また、今治市は、今治市新都市開発に着手した昭和58年、いわゆるこの、加計学園による獣医学部構想の誘致を決める前から、今回、無償譲渡とする土地を、高等教育施設用地として、位置づけて、歴代の市長が大学誘致を目指し、市議会も将来的に市が土地を購入することを平成12年、平成19年、平成20年と、これ三回も議決をしているわけであります。正に、構造改革特区というのはですね、国家戦略特区というのは、こうした岩盤規制、まさに、抵抗するそうしたものに風穴を開ける訳でありますから、それは、国家戦略特区諮問会議、そこで決まったことを基に、内閣府は、そりゃ厳しく、規制する官庁と、そりゃ、侃々諤々の大議論を行う。これが当たり前のことじゃないでしょうか。ですから、法律に基づいて行っていることであり、歪められた、全くありません。(8:09)

記者:朝日新聞のイノオ?です。前川氏は証人喚問に応じる姿勢を示されてまして、野党も証人喚問を求める意向のようです。国会で判断することではありますけれども、問題を明らかにする上ですね、証人喚問の必要性については、政府としていかがお考えでしょうか。(8:24)

菅:それは国会で決めることでしょう。(8:27)

記者:あの、前川氏は昨日会見では、出会い系バーに通っていたことが明らかにされまして、前川氏は会見で、杉田副長官から注意を受けたとお述べになっておられました。まあ、長官、昨日の会見では、出会い系バーへの出入りは把握されてらっしゃらないとお述べになりましたけれども、まあ、杉田副長官からその後に報告などはあったのでしょうか。

菅:あの、私昨日申しましたけども、おー、まあ事実を把握しておりませんし、注意もしておりませんでした。まあ、昨日前川氏の会見を踏まえて、杉田副長官に確認したところ、前川氏がそういう場所に出入りしている、こうした情報を耳にし、本人に確認したところ、事実ということであったので、まあ、厳しく注意した、ということであります。そうして法律・・で、杉田副長官は、そうした報告を私、受けました。また、昨日の前川氏の会見では、女性の貧困問題の調査のために、いわゆる出会い系バーに出入りし、かつ、女性に小遣いを渡したと言うことでありますけれども(註:笑っている)、あの、ここは、さすがに強い違和感を覚えましたし、多くの方もそうだったんじゃないでしょうか。常識的に言って、教育行政の最高の責任者が、そうした店に出入りして、小遣いを渡すようなことは、到底考えられない。このように思いました。(9:55)

以降、記者会見は別の話題に移ります。

NHKはどう報じたのか

この菅官房長官の記者会見について、NHKはどう報じたのでしょうか。少し長いですが、菅官房長官の記者会見と対比する目的なので、全文引用します。

官房長官 「総理の意向」の文書は出所不明で信ぴょう性なし 5月26日 12時03分

菅官房長官は閣議のあとの記者会見で、国家戦略特区での大学の獣医学部の新設をめぐり、文部科学省の前の事務次官が「総理の意向だ」などと記された文書は文部科学省で作成されたと主張したことについて、文書は出どころが不明で信ぴょう性が無いと重ねて反論しました。

国家戦略特区に指定された愛媛県今治市に学校法人「加計学園」が来年4月に設置する計画の獣医学部の新設をめぐって、文部科学省の前川前事務次官は25日に記者会見し、民進党が存在を指摘していた「総理の意向だ」などと書かれた文書は文部科学省で作成されたものだと主張しました。

これについて、菅官房長官は閣議のあとの記者会見で、「前川氏は『担当課から受けた文書』と言っているが、文部科学省の調査では担当課の職員にも聴取を行った結果、該当する文書の存在は確認できなかったと聞いている。文書は出所不明なもので、信ぴょう性も欠けている。その点はきのうの記者会見があっても変わらない」と述べました。

また、菅官房長官は、前川氏が「行政の在り方がゆがめられたと感じている」と指摘したことについて、「手続きも国家戦略特区法に基づいており、『行政がゆがめられた』との指摘は全くあたらない」と述べました。

そのうえで、菅官房長官は「そもそも獣医学部新設は提案の当初から加計学園が候補として記載されていたが、実現に至らなかった。民主党政権の間も7回にわたって要望があり、それまでは『対応不可』とされてきた措置を『実現に向けて速やかに検討』に格上げしたのは民主党政権だ」と述べました。

さらに、菅官房長官は「前川氏の会見では、女性の貧困問題の調査のためにいわゆる『出会い系バー』に出入りし、女性に小遣いを渡したということだが、さすがに強い違和感を覚えた。教育行政の最高の責任者として到底考えられない」と述べ、前川氏を批判しました。

ほぼ、菅氏の言い分を要約しただけですね。これでは筆者が午前中に書いた「大本営」という指摘が丸々当たってしまうのではないでしょうか。また、菅官房長官は記者会見で「文科省において適正に考える」と逃げている部分が相変わらずあるのに、その発言を紹介せずに、別個独立のニュースで「文科相 文書提示されず再調査考えない」(5月26日 10時36分)を報じており、筆者が午前中に指摘した、政府のダブルスタンダードについて何の指摘もしてません。

NHkは政府を追及して文書の調査をさせるべきでは

そもそも、肝心の文書の真否について、昨日から何も変わっていない菅官房長官の会見をこのような長文の記事で紹介する意味はあるのでしょうか。

また、「出会い系バー」に行くことが、教育行政のトップの行状としてどうなのかについては、仮にそういう行状が非難されるべきと考えても、加計学園の問題とは何の関係もないでしょう。菅官房長官の記者会見は、そういう、関係のない事情をことさらに強調して、問題のすり替えをしようとしています。現状、事実として限りなく重いのは、今年の1月18日まで、我が国の文部科学行政のトップだった人物が、直前の9月から10月にかけてのこととして、文部科学省の内部で作成されたとされる文書が真正のものだ、同様の報告も受けた、と断言していることです。「出会い系バー」と、前川証言の信用性に何の関係があるのか、なぜ、記者は問わないのでしょうか。

また、当初、菅官房長官が、調査もせずに、怪文書呼ばわりしていた文書について、ザルに等しい調査をしたからといって「適正」と断じるのも、それこそ根拠のないことです。政府はこの間、自衛隊の南スーダン派遣の日報を隠ぺいしたり、森友学園関係の書類を違法に廃棄したと開きなおっているので、筆者は、適正だという菅官房長官の言い分は強い違和感を感じるし、多くの方もそうなんじゃないかと思います。

菅官房長官が「教育行政のトップ」と認める人物が本物と断定し、証人喚問にも応じる意向を示しているのに、その証言より前に行った(1)共有フォルダのみ、(2)7人の職員のみ、(3)10~30分の聞き取りの調査(5.23毎日社説「文科省の「総理の意向」調査 これで幕引きとはいかぬ」)で、文書について「信憑性がない」などと言うのも、それこそ、全く根拠のない話です。というか、すでに指摘されているように、財務省の佐川宣寿理財局長が国会で虚偽答弁をしている可能性が高い状態なので、(2)(3)は、もっと網羅的に、政府から独立した機関が調査してもおかしくない位のことでしょう。

今、公共放送たるNHKに求められているのは、菅官房長官(政府)の言い分を垂れ流すことではなく、政府が国民に対する説明責任を果たすよう、厳しく追及することでしょう。メディアの役割は、政権が右派だろうと、左派だろうと、監視し、矛盾を突き、不正を追及することにあるのですから。