NHKは加計学園問題での“大本営発表”を止めなさい

NHKの放送センター(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

学校法人加計学園(岡山理科大学)が愛媛県今治市に新設予定の獣医学部の新設をめぐり、文部科学省の内部文書とされる文書に内閣府の発言として「総理のご意向」「首相官邸の最高レベルが言っている」などと記されていた問題について、昨日、今年の1月18日に職員の天下り問題で引責辞任した前川喜平・前文部科学次官が当該文書を「本物」と証言し、同様の説明を担当部署から説明を受けた旨も証言しました。文書が本物ということになれば、規制緩和をするための「国家戦略特区」が、安倍首相自ら「腹心の友」とする人が代表者を務める学校法人への縁故主義の場になっていた可能性が出てきて、中立公平であるべき行政を正に歪める事態が発生していたことになります。

これに対する首相官邸の対応は、菅官房長官が昨日の午前、午後の記者会見で「文書の存在を確認できない」などという従前の説明を繰り返しました。菅官房長官の午前中の記者会見の該当部分については、昨日の拙稿「『安倍首相の意向』文書につき菅官房長官の記者会見をチェックしてみる」で文字起こしし、コメントも付しましたので、そちらをご覧下さい。

それにつけても、昨日来、NHKが非常に偏った報道をしているように思えてなりません。昨日、NHKは菅官房長官の午前中の記者会見の内容を元にして2本のニュースを発していますが、その内容が余りに偏向しているのです。以下、具体的に検討します。

「文書は本物」の証言 文科相「コメントする立場にない」(5月25日 12時18分)というニュースについて

この問題をめぐる昨日の政府の対応は、午前中の菅官房長官の記者会見で「確認できない」という従前の答弁を繰り返しました。しかし、確認すべき職員の個人のパソコンを確認せず、数名の職員から事情聴取しただけで、網羅的な調査をしていないことがすでに判明しています。記者会見に参加したマスコミの記者からは、何故再調査をしないのか、厳しい質問が飛び交いました(上記拙稿参照)。菅官房長官は質問で追い詰められると、最後は「文科省が適切に対応する」と旨を三回も述べています。

しかし、ほぼ同時刻に行われていたと思われる参議院文教科学委員会で、松野文部科学大臣は前川前次官の証言について「すでに辞職された方の発言であり、文科省としてコメントする立場にない」と答弁したのです(朝日5.25「文科相「コメントする立場にない」 前川前次官の証言」)。

つまり、政府は、一方では官房長官が「文科省が適切に対応」といい、一方では文部科学大臣が「コメントする立場にない」と、国民を欺く答弁をほぼ同時刻にしていたことになります。

ところが、この件を報じたNHKのお昼のニュースは、政府が国民に対してこのような二枚舌を使っていたことを一切報じていません。また前川氏の証言について「一部の報道」などと矮小化していますが、前川氏の証言は刊誌・全国紙・全国ネットのテレビ放送などで流れており、むしろ、一部の報道以外では大きく取り上げられています。菅官房長官の記者会見の内容について報じながら、「文科省が適切に対応する」旨、三度も述べたことに全く触れず、一方で、実際の地上波の放送では、文書を確認できなかったことを「重ねて強調」という字幕がついた、という指摘すらあります。

我が国の文部科学行政のトップにいた人物が、自らのトップ在任中のことを詳細に証言したのに、政府は「確認できない」と言っているだけで、前川氏が「本物」と証言する文書が虚偽だと述べたことは一度もありません。このような状況で、政府の言い分を垂れ流し、かつ、国民に対する二枚舌の事実を指摘しないのは公共放送としての役割を果たしているのでしょうか。

獣医学部新設 鳩山内閣で実現に向け検討開始 政府(5月26日 4時22分)というニュースについて

また、25日の午前中の記者会見では、菅官房長官が「民主党政権の間にも、七回にわたって要望があり、それまで対応は不可とされてきた措置を、平成21年度の要望以降は、実現に向けて検討、と民主党政権でも格上げをされております。そして、それを、安倍政権が更に前進をさせて実現された。これが事実であります。」と述べた(上記拙稿参照)ことを捉えて、まさに「右から左へ」上記タイトルのニュースを報道しました。その際、午前中の菅官房長官の発言、松野文部科学大臣の発言のうち、政府に都合の良い部分だけ切り取って流しています(NHkのサイトの動画では聞けますが、文字化はされていません)。まるで、加計学園(岡山理科大学)の獣医学部新設について、民主党が積極的に関与していたかのような印象を与えます。しかし、民主党政権の時に「実現に向けて検討」と格上げされたことについて、具体的にどのように検討されたのか菅官房長官は何も述べておらず、NHKも検証していません。

しかし、そもそも、愛媛県・今治市が加計学園を主体と想定して獣医学部の規制緩和の申請をしたのは平成19年10月15日から11月14日の間のことです(政府HP参照)。これは同年8月27日に、安倍首相の「政権放り出し」とも評された突然の辞任により、第一次安倍政権が崩壊したわずか1ヶ月半後の福田政権(注:訂正しました)の時代の話です。なお、その直前の6月の特区申請には、麻生グループの法人や、加計学園の別の大学についても申請がなされています。

そして、この規制緩和はそれ以降、民主党政権の期間も含め、15回にわたり申請されても採用されなかったところ、第二次安倍政権発足後、内閣府の助言により、愛媛県が「国家戦略特区」の枠組みに切り替えて申請を行い、2017年1月20日の同特区の諮問会議(議長は安倍晋三首相)により、実現の方向が確認されたのです(議事録は政府HPで閲覧可能)。この諮問会議は、前川前次官が辞任したわずか2日後のことです。

安倍首相は、諮問会議終了後の記者会見で以下のように述べています(太字強調は筆者)。

獣医学部が、来年にも52年ぶりに新設され、新たな感染症対策や先端ライフサイエンス研究を行う獣医師を育成します。新しいカリキュラムなどを通じて、各大学や教育制度全般に良い影響を与えることを期待します。皆様の御尽力に改めて敬意を表します。

文科省側が難色を示した部分であり、文科省の内部文書とされる文書で、内閣府が「総理のご意向」としたとされる事項を、安倍首相自身が言及しているのです。このように、この件は、当初の申請時も、実現時も自民党政権のときであり、客観的な時系列では、安倍首相との関連性が濃厚です。このような課題について「民主党も関与していた」という菅官房長官の一方的な言い分を、何の検証もなく報道するのは、やはり、公共放送としての役割を果たしているとは言えないでしょう。

NHKは放送法を忘れて大本営発表の時代に戻る気か

放送法4条1項は以下のように規定しています。

一  公安及び善良な風俗を害しないこと。

二  政治的に公平であること。

三  報道は事実をまげないですること。

四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

しかし、昨日来のNHKだけを見ても、一大スキャンダルに発展する可能性がある問題について、政府の見解を、何の検証もせずにまさに「垂れ流す」報道が繰り返されています。戦時中の大本営発表すら彷彿とさせます。NHKは、このような態度を改め、政治的に公平で、事実を曲げない、多角的な論点を明らかにした報道をすべきでしょう。

追記(2017.5.26)

今日の午前の菅官房長官の記者会見をNHKがどう報じたのか、さらに文字起こしして分析しましたので、こちらも合わせてどうぞ。

「NHKが追加情報のない官房長官の記者会見をそのままニュースにしている件」