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有名な武将の書状はなぜ高い! 古文書の値段は、いったいどうやって決まるのか?

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
書状を書く人。(提供:イメージマート)

 有名な武将の書状が発見された報道が、時折りなされている。テレビ番組でも有名な武将の書状を鑑定し、評価額を付けている。有名な武将の書状はなぜ高いのか、考えることにしよう。

 最初に誤解のないように言うと、徳川家康の書状も農民が書いた書状も、歴史的な価値は等しく同じである。家康の書状は貴重だが、農民の書状は反故同然なんてありえない。政治史を研究する上で家康の書状が重要である一方、村落を研究するには農民の書状も等しく価値を持つのだ。

 そもそも書状などの古文書には、定価がない。極論を言えば、売り手の言い値である。たとえば、家康の書状を持っている人が「1億円以下では売りません」と言えば、この世に同じものはないので(写しはあるかもしれないが)、それでオシマイである。

 ただし、ある程度の基準があるのかと言えば、あるのかもしれない。まず、時代が古いもの(奈良時代とか)については、古文書の残存度が少ないので、希少性が大きい。もし、奈良時代の古文書が出てきたら、高値で取引される可能性が極めて高いといえる。

 逆に、江戸時代の後期や明治になると、かなりの古文書が残っているので、内容などにもよるが、村落関係の文書などは「段ボール1箱で5万円」といった値段になることも珍しくない。つまり、古文書の値段は、時代による希少性という基準が加味される。

 もう一つは、著名人のものであるかという基準がある。一般論でいえば、家康は著名人なので、高値で取引される傾向がある。逆に、無名の人の書状ならば、安くなってしまうだろう。つまり、歴史上、有名な人物であるか否かということが、一つの基準になりうるのだ。

 とはいえ、具体的な古文書の価格の決定については、それまでの取り引きデータが加味されたり、保存状況(古文書の傷み具合)の問題があったり、売り主の意向もあったりするだろうから、明確な基準はないだろう。「1億円で売ります」といえば、それで決まりである。

 なお、自分が所蔵する古文書を博物館等に持ち込んで、「いくらで売れますか?」などど質問しても答えてくれない。古文書の値付けは、学芸員の仕事ではない。私のところにも質問が来ることもあるが、答えていない。というよりも、「答えられない」というのが正しい。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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