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高畑淳子さんが演じる豊臣秀吉の母「仲」の人には言えない怪しい出自

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
「仲」を演じる高畑淳子さん。(写真:つのだよしお/アフロ)

 大河ドラマ「どうする家康」の新キャストが発表され、高畑淳子さんが豊臣秀吉の母「仲」を演じることになった。「仲」の出自には謎が多いが、その点について考えてみよう。

 豊臣秀吉の父の謎も尽きないが、母「仲」に関しても、実に謎が多いといえる。『太閤素性記』という史料には、母「仲」の出自について、次のように記している。

秀吉の母公(「仲」)も同(尾張)国ゴキソ(御器所)村というところに生まれて、木下弥右衛門へ嫁ぎ、秀吉と瑞龍院(とも)を授かった。弥右衛門が亡くなったあとは後家となって、2人の子を中村で育てた。

 尾張国御器所とは、現在の名古屋市昭和区御器所の辺りを示す。平安期には土器が作られていたといわれているが、一方で木地師との関係もあったといわれている。職人が集住した地だったことは疑いなく、弥右衛門の住む中村との距離も近いといえる。

 「仲」の両親の情報は乏しく、父は美濃国の鍛冶だった関兼貞と伝わっているが、明確な根拠があるわけではない。そもそも夫の弥右衛門が足軽という軽輩だったのだから、「仲」やその両親の身分が低かったのは疑いないだろう。

 大村由己の『関白任官記』によると、秀吉の祖父母は、荻の中納言なる人物に仕えていたと記す。同書によると、「仲」は3歳のときに尾張国に流されたが、荻の中納言に呼び戻され、その落胤として誕生したのが秀吉という。

 しかし、荻の中納言なる人物は確かな史料にあらわれず、とても信が置けない説である。由己は秀吉の御伽衆であったので、その要望に応じて、このような荒唐無稽な説を書き残したのかもしれない。

 秀吉の兄弟については、『太閤素性記』に「(筑阿弥と「仲」の再婚後)男子1人と女子1人を秀吉との種替わり(腹違い)の子として持った」との記述があり、秀長と旭姫の2人が該当する。「仲」は夫の弥右衛門の死後、筑阿弥と再婚していた。

 しかし、2人とも弥右衛門の生存中に誕生しているので、この記述は誤りであるといわざるを得ない。秀長も旭姫も、「仲」と弥右衛門との間の子とすべきであろう。

 このように、「仲」については謎が尽きないが、高畑淳子さんなら上手く演じてくれるだろう。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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