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服部半蔵が大鼠にプロポーズしたわけがないという、当然の理由

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
大鼠を演じる松本まりかさん。(写真:Keizo Mori/アフロ)

 今回の「どうする家康」では、服部半蔵が大鼠にプロポーズしていた。むろん、これはフィクションであり、あり得ないわけだが、その辺りの事情を考えてみよう。

 改めて、ドラマの場面を振り返ってみよう。松本まりかさんが演じる大鼠は怪我をしてしまったが、武器を使用するトレーニングを行っていた。しかし、利き手と思われる右手を怪我したので、うまく武器を使いこなせず、いらだちを隠せない。

 それでも大鼠は、山田孝之さんが演じる服部半蔵に対して、仕事が欲しいと申し出る。ところが、半蔵は仕事はしなくてもいいだろうと述べたうえで、自分の依頼した仕事で大鼠が怪我をしたことを詫びた。

 同時に半蔵は、大鼠に「もらってくれる男もいないだろうから」と言いながら、一輪の黄色い花を差し出した。その前に半蔵は、誰かの飯を炊いて、着物を洗い・・・などと言っていたので、明らかなプロポーズである。

 半蔵が言うには、女の幸せとは男にかわいがってもらうことだった。ところが、大鼠は黄色い花をいきなり食べると、「殺すぞ」と半蔵に言ったので、大変驚いてしまう。こうして半蔵は、大鼠に瀬名が武田と密通しているという情報集めを依頼した。

 これが事実かと言えば、明らかなフィクションである。半蔵は徳川家康配下の忍者の頭目のように思われているが、実際はそうではなく旗本だった。また、「くノ一」と称される、大鼠のような女性忍者はいなかったと指摘されている。

 半蔵の妻は、家康の家臣だった長坂信政の娘だったと言われている。ただ残念なことに、信政の生涯については不明な点が多い。ましてや、その娘に関する史料は、ほとんど残っていないのが現状である。

 半蔵の子・正就が誕生したのは、天正4年(1576)のことである。半蔵が結婚した時期は、おそらく天正3年以前に遡ると考えられる(誕生月によっては天正4年の可能性もある)。

 半蔵と架空の人物と思われる大鼠のやり取りは、ドラマのちょっとしたスパイスのようなものだろう。ただし、半蔵は松平信康事件で重要な役回りを演じるので、その活躍を大いに期待しよう。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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