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【中世こぼれ話】クジ引きで将軍に選ばれた足利義教は何をやらかしたのか

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
足利義教は、比叡山延暦寺を焼き討ちにした。(写真:イメージマート)

 7月10日(日)は、参議院議員選挙が行われた。当選した人、落選した人、悲喜こもごもだったに違いない。ところで、室町時代には、足利義教がクジ引きによって将軍に選ばれた。義教は何をしでかしたのか、探ることにしよう。

■足利義教とは

 6代将軍足利義教は、籤で選ばれるという前代未聞の将軍だった。義教は嘉吉元年(1441)に勃発した嘉吉の乱で赤松満祐に謀殺されたが、これまた前代未聞のできごとである。

 足利義教といえば、どのようなイメージをお持ちであろうか。一つ目は、籤引きによって選ばれた将軍という印象があるだろう。前の将軍の義持は後継者を指名せず亡くなったので、神慮に委ねたのである、

 二つ目は、義教が極めて陰湿な性格であり、意に沿わない公家や武家を次々と左遷したことである。そして、嘉吉の乱で播磨国守護赤松氏によって、暗殺されたという凄絶な最期である。

 義教は専制的な権力を打ちたてるために奮闘しており、独裁のイメージを醸し出している。おまけに、籤引きで将軍に選ばれたという引け目があったせいか、猜疑心の強い人物であったといわれている。

■義教の評価

 義教の評価は、どうなのだろうか。司馬遼太郎氏は「義教の“政治”とは頭の高い人間や威にひれ伏さぬ者を排除することだった」とし、義教は「ばかなのか、根が無邪気な男だったのか」(『この国のかたち④』文藝春秋)と、極めて手厳しい評価を下した。歴史家たちも異曲同工で、義教への評価は概して低いといえよう。

 しかし、ものの見方はさまざまである。義教は人間的魅力に欠け、権威主義的な人間であったことは事実である。義教がそのような政治路線を志向したのは、将軍権力を強化し、幕府の権威を高めるためだった。

■義教の行った所行

 義教が将軍宣下を受け、正式に6代将軍に就任したのは、永享元年(1429)である。僧侶から還俗した当初、義宣(よしのぶ)と名乗っていたが、「世を忍ぶ」という語呂を嫌って、義教と改名した。

 将軍に就任した頃は、前例にならって管領や重臣らの意見を聞き、政務を行っていた。しかし、次第に専制的な傾向を強め、管領権力を抑止するなど、権力を将軍へ一元化しようと試みた。

 義教は意に沿わない公家や武家を徹底的に弾圧し、それは比叡山延暦寺のような宗教勢力も例外ではなかった。天台宗寺院の比叡山延暦寺は、政治的な権力としても君臨し、将軍や天皇でさえも手出しできなかった。

 ところが、永享7年(1435)、度重なる強訴に業を煮やした義教は、延暦寺への出兵を決意した。戦いでは、一部の守護らが参陣を渋ったが、見事な勝利を収め、根本中堂を焼き討ちにするという成果も得た。

 延暦寺の方では、神輿を担ぎ出せば、義教は撤退するに違いないとタカを括っていたようである。このように、義教は中世的権威も徹底して弾圧したのである。

■鎌倉府との対決

 もう一つ大きな問題が、鎌倉府の問題である。鎌倉府は、室町幕府の関東の出先機関のようなもので、足利氏の一族が代々その長である鎌倉公方を務めた。

 しかし、当初は単なる一出先機関に過ぎなかった鎌倉府は、徐々に幕府の諸権限を吸収し、室町幕府への対抗意識を剥き出しにするようになった。

 中でも、鎌倉公方足利持氏は、義教への不満を公然と表明した。そこで、義教は持氏と不仲であった関東管領上杉憲実との対立に乗じ、持氏追討を決意した。しかも、義教は後花園天皇に持氏追討の綸旨を申請する念の入れようだった。

 そして、永享11年(1439)には持氏を自殺に追い込み、鎌倉府の制圧に成功したのだ(永享の乱)。

■むすび

 ところが、嘉吉の乱で、義教は赤松満祐によって討たれた。これ以前から、義教の赤松氏に対する嫌がらせは、エスカレートしていた。一族の義雅の所領を取り上げるのはまだしも、ついには満祐の守護が剥奪されるとの噂も流れたほどである。

 この事件こそ、下克上の始まりともいうべき、象徴的な事件だったのだ。

 義教は専制的な権力を確立しようとし、意に沿わない者を徹底して排除した。むろん、こうした手法が歓迎されるわけがなく、最後は満祐に討たれてしまった。仮に、満祐が義教を討たなかったとしても、誰かが討ったのかもしれない。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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