Yahoo!ニュース

【深掘り「鎌倉殿の13人」】なぜ源頼朝は弟の範頼の謀反を疑い、死に追いやったのか

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
源範頼は、伊豆の修善寺で非業の死を遂げた。(写真:イメージマート)

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の24回目では、源頼朝が弟の範頼の謀反を疑った。なぜ頼朝は弟の謀反を疑ったのか、その辺りを詳しく掘り下げてみよう。

■範頼の大失言

 建久4年(1193)5月28日、曽我兄弟(曽我祐成、時致兄弟)は宿敵の工藤祐経を討ったが、結局は2人とも亡くなった。弟の時致に至っては、頼朝に斬りかかろうとしたが、それは失敗に終わった。

 後世になった『保暦間記』には、頼朝が富士で討たれたと記されている。もちろん誤報である。『保暦間記』は、保元元年(1156)の保元の乱から暦応年間(1156~1342)までの歴史を記した書物で、南北朝時代に成立した。以下、その内容を確認しておこう。

 鎌倉にいた頼朝の妻・北条政子のもとに、富士の巻狩りで「頼朝が討たれた」との悲報がもたらされた。政子は「頼朝死す」の報告を聞いて、激しく動揺し、悲嘆に暮れたという。夫が討たれたのだから、無理からぬところである。

 すると、鎌倉で頼朝の代わりに留守を預かっていた範頼は、「頼朝様が討たれたということならば、私がおりまする」と憔悴しきった政子を慰めた。これは、大失言だった。

 範頼は頼朝亡き後に野心を抱いたと決めつけられ、この失言が討たれる理由になったと伝わっている。範頼は政子を慰めるつもりだったが、この言葉を聞いた頼朝は、範頼に謀反の意があると思ったのだ。

 『保暦間記』にはほかの史料にない記録があるので貴重であるが、一方で捏造、改竄されたと思しき、疑わしい記事があると指摘されている。したがって、『保暦間記』だけを根拠として、範頼に叛意があったので、頼朝が討伐したという説は安易に受け入れがたい。

■『吾妻鏡』の記事

 建久4年(1193)8月2日、範頼は頼朝に起請文を捧げた。これは、頼朝が範頼の謀反を疑い、真意を質されたからである。起請文は神仏に誓うものなので、嘘や偽りを書くことができなかった。

 起請文には、これまで範頼が戦場に向かい、朝敵(平家や源義経など)を討った功績が書かれ、頼朝への忠節を切々と訴えたものである。署名は「参河守源範頼」と書かれている。

 大江広元が範頼の起請文を頼朝に見せたところ、「範頼が<源>と署名しているのは過分である」と激怒したのである。その後、広元は範頼の使者の重能なる者を呼び出し、頼朝の言葉を伝えた。

 重能は広元に弁明し、頼朝に伝えてもらったが、頼朝からは何の返事もなかった。重能は急いで帰ると、ことの次第を範頼に伝えた。範頼は、あまりのことに周章したと伝わっている。

 同年8月10日、ついに大事件が起こった。範頼の家人の当麻太郎が頼朝の寝所に忍び込み捕らえられた。太郎は「起請文提出後に返事がなく、悲嘆に暮れた範頼のために事情をうかがうべくやったことで、陰謀ではない」と弁明した。

 しかし、太郎は範頼配下の一騎当千の強者で、武芸に優れていた。いかに弟とはいえ、頼朝の範頼に対する疑念はますます深まった。結局、範頼は同年8月17日に伊豆国へ流罪となった。その翌日、範頼の家人が不穏な動きをしたので、梶原景時らが討ち取った。

 同年8月20日、曽我祐成の異父兄弟の小次郎が殺され、範頼も縁座して処刑された。真相は不明であるが、縁座とあるので、頼朝は曽我兄弟の仇討ちに範頼が加担したと考えた可能性がある。

■まとめ

 曽我兄弟の仇討ちに関しては、北条時政が黒幕だったとの説すらある。こちら。ともあれ、頼朝は仇討ちが決して偶然ではなく、誰かの策謀によると考えた可能性はある。また、頼朝は御家人からの信望が厚かったが、弟の存在を疎ましく思ったのではないだろうか。我が子も2人産まれていた。

 そうなると、義経だけでなく、範頼すら将来の禍根となる可能性が十分にあった。それゆえ頼朝は、範頼にあらぬ嫌疑を掛けて、死に追いやったと考えられるのではないか。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

渡邊大門の最近の記事