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【深読み「鎌倉殿の13人」】八重は北条義時と結婚して、本当に泰時を産んだのか

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
北条義時は、八重と結婚したのか?(提供:イメージマート)

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の21回目では、北条義時の妻・八重が川に流されて死んでしまった。八重は北条義時と結婚して、泰時を本当に産んだのか、その点を詳しく掘り下げてみよう。

■八重と頼朝

 八重を演じるのは、人気絶頂の女優・新垣結衣さんだ。主役を演じる小栗旬さんとの息もぴったりである。とはいえ、八重に関しては多くの謎がある。

 八重は伊東祐親の娘として誕生した。平治の乱で敗れた源頼朝が伊豆へ配流されると、その監視役を任されたのが祐親である。祐親が京都大番役で京都に向かうと、その間に頼朝は八重と結ばれ、2人の間に千鶴という子が誕生した。

 祐親は2人の間に子ができたことに怒り心頭に発し、家人に命じて千鶴を殺害させた。ドラマでは、梶原善さんが演じる善児なる下人が千鶴を殺していたが、善児は架空の人物である。

 祐親は、八重と頼朝の関係が平家にバレるとまずかったので、すぐに2人の間にできた子を殺害したのである。八重の悲嘆ぶりは、想像に難くない。その後、頼朝は北条政子と結ばれた。

 ところが、八重の以後の動向は不明である。なお、八重は、『曽我物語』という軍記物語(二次史料)にしか登場しない。たしかな史料(一次史料:同時代の古文書、日記)では、確認できない点に注意が必要だ。

 そのような事情を考慮すると、八重が本当に実在したのか疑問が残る。八重は創作された人物、あるいは逸話・伝承の類で伝わった人物だった可能性もあろう。

■北条義時は八重と結婚したのか

 大河ドラマでは、北条義時が八重に求婚して結ばれたことになっていた。実は、こうした場面があったのには、大きな理由がある。決して、単なる思い付きではないようだ。

 あくまで推論であると断りつつも、八重が頼朝の御所に勤めていたこと(後述するとおり、八重と阿波局が同一人物であるとの説もある)、北条義時と再婚して泰時を産んだとの説が提示されている。

 ところが、この説には明確な史料的な裏付けがないうえに、説得性に欠ける点がある。八重は、頼朝と対立した伊東祐親の娘である。言わば敵対勢力の娘なのに、義時と結婚することができたのか。あるいは、頼朝の御所に勤めるということが可能だったのか。

 一般的に、泰時の母は阿波局と言われている。阿波局は生没年はもちろんのこと、どのような人物かも不明である。出自すらわからない。義時と結ばれた八重は、阿波局と同一人物であるとの説もあるが、やはり納得しがたい。

■まとめ

 ドラマのうえでは別として、義時が八重と結ばれ、その間にできた子が泰時であるという説は、にわかに信じがたい。決定的な史料がないのは残念であるが、今後、追究されるべき課題だろう。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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